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富野監督の「焦り」があった? 早過ぎた名作『聖戦士ダンバイン』が歩んだ苦難の道

マグミクス / 2023年2月5日 6時10分

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■時代を先取りし過ぎた異世界モノの原典

 本日2月5日は1983年にTVアニメ『聖戦士ダンバイン』が放送開始した日。今年は放送から40年目にあたります。それまでのロボットアニメではなかった世界観を持つ革新的な作品でしたが、それゆえに人気面で苦戦を強いられることになりました。

 本作『ダンバイン』の舞台となるのは異世界である「バイストン・ウェル」。中世ヨーロッパを思わせる世界観に、妖精や巨大な獣たちが住んでいます。現在の感覚なら当たり前となった異世界モノですが、作品発表当時はまだ馴染みの薄い世界でした。

 おそらく、こういった異世界観は日本ではRPG(ロール・プレイング・ゲーム)で一般的になったと考えられますが、ファミコンが発売されたのはこの年の7月15日。パソコンゲームのRPGでもっとも古参の人気作品である『ウィザードリィ』ですら、1981年9月にリリースしたものの、日本語版発売は1985年まで待たねばなりませんでした。

 つまりファンタジーというものに対してまったく知識のなかった日本人に、いきなりその世界観を提示し、さらにロボットアニメにしてしまうのですから、富野由悠季総監督のアイディアは一歩、二歩どころでなく見えないほどまで先に進んでいたのでしょう。

 しかし、この先見の明には富野監督の焦りがあったとも言われています。それには宮崎駿監督がアニメ雑誌「アニメージュ」1982年2月号からマンガ連載を開始した『風の谷のナウシカ』の存在がありました。『ナウシカ』はもともとアニメ企画でしたが、連載作品でなければ難しいという判断によりマンガから始まった経緯があります。

 この『ナウシカ』よりも先にアニメにしたいという富野監督の目論見があったそうで、本格的な異世界モノとして初の作品となる本作『ダンバイン』が生まれました。たいてい初めての世界観を持つ作品というものは勘違いなどありがちですが、現在の目から見てもバイストン・ウェルの世界観は秀逸で、異世界ファンタジーの元祖にして指針となるものに仕上がっています。

 そういった経緯からか、放送当時よりも現在の方が『ダンバイン』の評価は高いのではないか? そう思わせるほど現在の評価は高いものがあります。もっとも当時の評価がそれほど低いというわけではありません。むしろ『ダンバイン』という作品は、人気作としてアニメ雑誌の中心にいました。

 問題だったのは当時の環境です。1982年に放送開始した『超時空要塞マクロス』が盛り上がりを見せ、『装甲騎兵ボトムズ』、『超時空世紀オーガス』、『機甲創世記モスピーダ』、『銀河漂流バイファム』といった作品が名を連ねる1983年は、「ロボットアニメ戦国時代」とも言える状態でした。

 それぞれの作品が現代でも商品展開されるような根強い固定ファンがいる作品で、ロボットアニメの生産過多だった時代と言えるかもしれません。こういった作品群のなかにあって、人気がないわけではないが扱いがあまり大きくないということになりました。この点から昨今の『ダンバイン』再評価は、ようやく時代が追いついたと言ってもいいのかもしれません。

■早過ぎた要素がライバルに差を付けられる要因だった

ダンバインとビルバインが描かれた『聖戦士ダンバイン』 Blu-ray BOX II(バンダイビジュアル)

 このロボットアニメ戦国時代という状況だからこそ、『ダンバイン』は作品として苦戦したとも考えられます。

『ダンバイン』に登場するロボット、オーラバトラーは富野監督のアイディアが詰まったものでした。搭乗するパイロットがフィギュアとしてプレイバリューを持つように、サイズをそれまでのものより小さくしています。そのため、プラモデルのメインは『機動戦士ガンダム』の1/144に対して、1/72になりました。

 この点はオモチャにも生かされ、胸のコクピット部分を外してパイロットを出し入れするギミックを一部の商品で再現しています。

 思えば『伝説巨神イデオン』は玩具会社が用意したロボットから企画が始まり、前作にあたる『戦闘メカ ザブングル』では急遽の監督登用でした。そういった点から、富野監督としては『ガンダム』以降で初めて、企画当初からメカに意見できる状態だったと言えるかもしれません。

 オーラバトラーはそれまでのロボットアニメになかった独特のデザインで、富野監督の考えた仕掛けも的を射ていたと思います。しかし、時代的には早過ぎたデザインでした。

 曲線主体のオーラバトラーは、それまでのメカメカしい直線主体のロボットたちと比べて異質で、好みが分かれるものです。またデザイン的に魅力的だった羽根もプラモデル的にはランナーが増えることになり、高価格帯になる要因となりました。オーラコンバーターと言われる背中のパーツも同じ理由から価格を引き上げる原因となります。

 さらに当時の技術力では曲線主体のメカは立体化が難しく、2次元での印象とはかけ離れた立体物となる要因でもありました。こういったマイナス面が主力商品であるオモチャ、プラモデルの不振につながり、そのまま本作への評価と結びついたわけです。

 しかし、前述したように富野監督が考案したバイストン・ウェルの世界観は、その後に渡って大きな影響を残しました。アニメ放送当時からスピンオフ小説として「野性時代」に連載された『リーンの翼』をはじめとして、後に『オーラバトラー戦記』や『ガーゼィの翼』など、いくつかバイストン・ウェルを舞台とした作品が生まれています。

 後続の作品群を見ていくと、富野監督としては『ガンダム』の宇宙世紀以上にバイストン・ウェルは愛着を持てる世界観だったのかもしれません。バイストン・ウェルは富野監督のライフワーク、そう言っても過言ではないでしょう。

 筆者も本放送後も定期的に『ダンバイン』を見ていますが、何度見てもグッとくるものがあります。21世紀以降に異世界モノが大流行したことを考えると、20年は先を行っていた作品だったのではないでしょうか?

(加々美利治)

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