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興行収入約920億円! ”バディ映画”としての『ヴェノム』その魅力を考察

マグミクス / 2019年2月28日 18時0分

興行収入約920億円! ”バディ映画”としての『ヴェノム』その魅力を考察

■ヴェノムとは"悪役"ではなく"ワル"

 全世界興行収入約920億円を記録し、続編の制作も決定した、アメリカンコミックス原作の映画『ヴェノム』(2018年11月2日公開)。目前に迫った3月6日のBlu-ray&DVDリリースに向けて、ヴェノムの魅力を徹底考察していきます。

『ヴェノム』は、アメリカンコミックの大手マーベルの数ある作品のなかで、悪役を主役にした初の映画作品です。残虐な悪という触れ込みで封切られた本作品ですが、キャラクターとしてのヴェノムの新しい一面を知ることができる映画となっています。

 その新しい一面とは、”悪役ではなくワル”ということです。

 原作コミックで、ヴェノムが初登場したのは『The Amazing Spider-Man #299』(1988年)。主人公ピーター・パーカーに恨みをもつ記者エディ・ブロックが地球外生命体シンビオートと合体して生まれたのがヴェノムです。

 エディ・ブロックは人気記者でしたが、連続殺人事件で犯人を誤報道し、その後真犯人をスパイダーマンに捕まえられたことで、彼を恨むようになります。

 そんなエディに寄生するシンビオートは、スライムのように姿を自由に変えられる知能を持つエイリアン。エディに出会い寄生することで、暴力性を爆発させるのでした。

 そのため一人称は「俺たち」であり、ヴェノムとはエディとシンビオートの2人のことを指しています。2人が意識を共有していること、そしてお互いを深く理解していることが他のキャラクターとは違う大きな特徴のひとつです。

 ヴェノムは宿主によって、キャラクターとしての立ち位置が大きく変わり、場合によっては人助けをする姿を原作では見せています。スパイダーマンのライバルとして誕生したものの、時には共闘するなど、信念をもって行動するキャラクターなのです。

 その姿は、単純な悪役ではなく、自分の信念をもって行動するアウトローであり、”ワル”という表現が当てはまるのではないでしょうか。

 その後、ヴェノムはスパイダーマンの敵という生まれ持った宿命から離れ、主役のコミックが制作されるなど人気キャラクターに成長します。

翻訳済みのコミックも人気『ヴェノム:リーサル・プロテクター』(小学館集英社プロダクション)

 原作コミックでは、ヴェノムの宿主のエディが末期ガンに侵されるというエピソードがあり、体力を失ったエディは、過去の罪滅ぼしとしてシンビオートをチャリティーオークションに出品して、ヴェノムを引退します。

 エディと別れたのを契機に、シンビオートはその力を求める何人もの人間の手に渡るようになります。シンビオートと合体して生まれたキャラクターはヴェノムを含め、原作では現在まで全21種類が登場。今なお物語が広がり続けてることが、ヴェノムというキャラクターの人気の高さを示しています。

■エディとヴェノムは最高の"相棒(バディ)"

 2018年の映画におけるヴェノムは、大まかの設定は上記で紹介した原作と同じです。大きな違いを挙げると、映画版では胸のクモマークがなくなっていることでしょうか。

『ヴェノム ブルーレイ&DVDセット』2019年3月6日発売予定(ソニー・ピクチャーズエンターテイメント)

 映画『ヴェノム』は、スパイダーマンから派生した作品として制作できなかった事情があり、クモのマークが胸にあると理屈が通らなくなるとして、マークは消されています。

 映画を制作したソニーとマーベル・スタジオの契約により、劇中にスパイダーマンを登場させることができなかったため、スパイダーマンが不可欠な映画をスパイダーマン不在で制作した結果、こうした違いが生まれているのです。

 ヴェノムが映画に登場したのは、2007年公開の『スパイダーマン3』が初めて。しかし、サム・ライミ監督の『スパイダーマン3』では、ヴェノムの登場はやや無理やりに感じられ、原作ファンの支持を得られなかったといいます。

 そうした経緯から、『ヴェノム』は、期待と不安が混じった視線を集めていました。しかし、公開された作品は、エディとヴェノムの関係を古き良き”相棒(バディ)映画”に落とし込み、見事に演出しています。

 まるで、ヤンキー映画のような信念を貫く”心地いいワルさ”のヴェノムと、エディとの関係性がきちんと描かれており、2人の凸凹なコンビのやり取りや目に見えない絆を好ましく受け取った声が多く見られました。

* * *

 はるか遠くの宇宙から侵略して来たシンビオートが、悪に向き合うエディの苦悩などに影響され、活躍していく姿は、それまでのヒーローにはなかった姿です。

 映画評論家からの前評判がお世辞にもいいとは言えなかった『ヴェノム』。しかし公開されると、多くのファンに受け入れられました。そこから見えるのは、既存のヒーロー像が時代や世論を反映して変容してきたことでしょう。

 世界に目を向けても、それぞれの文化に起因したさまざまな問題があるなかで、『ヴェノム』のようなキャラクターは、新しい社会の姿をエンターテイメントという媒体を通して私たちに見せていると受け止めることができるのです。

(大野なおと)

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