コミュ障の住職、特攻服のヤンキーに「刺繍の意味分かってる?」予想外の反応に笑う!『ヤンキーと住職』【作者インタビュー】
マグミクス / 2023年2月17日 11時10分
■人付き合いが苦手な住職と、仏教大好きヤンキーの会話が面白い!
前住職の急病により、急きょ跡を継ぐことになった若き住職。時代の変化でお参りをする家が減ったことや、人付き合いが苦手な性格もあり、寺が立ち行かなくなりました。何とか復活させたいと思い悩んでいたある日、ヤンキーが昔ながらの特攻服を着ているのを見かけた住職は、背中の「天上天下唯我独尊」という刺しゅうが気になり……。
漫画家・近藤丸先生(@rinri_y)による創作マンガ『ヤンキーと住職』。SNSで公開されてきた同作が大幅に改訂・書籍化され、2023年2月2日に発売されました。頭でっかちで人付き合いが苦手な住職と、仏教が大好きなヤンキーという異色のふたりが問答するという内容で、対照的なふたりの掛け合いを楽しみながら、自然と仏教について学ぶことができます。
仏教の面白さ、奥深さを知ることができるとともに、中高生に仏教を教える教員でもある作者の仏教へのリスペクトや、仏教に誠実に向き合う姿勢が感じられる1冊です。作者の近藤丸先生にお話を聞きました。
ーー『ヤンキーと住職』の連載をSNSで始めたきっかけを教えて下さい。
普段は京都市内の中学・高等学校(浄土真宗本願寺派宗門校)で宗教科の教員として勤務しています。絵を描くのが好きで、2020年から本格的に日常のエッセイや仏教をテーマにしたマンガを描き始めました。
元々は学校で関わってきた、中高生をはじめ若い学生に仏教の言葉や歴史を伝えようとマンガを描き始めました。ところが、作品の倉庫のように利用していたSNSで、徐々に一般の方にもマンガを読んでもらえるようになりました。そのなかでたまたま描き始めたのが『ヤンキーと住職』です。
授業のなかで、お釈迦様の伝記を学びます。お釈迦様は生まれた時に「天上天下唯我独尊」(天にも地にも、唯だ、我、独として尊し)と叫んだという伝説があります。これは、何も自分ひとりが偉いという意味ではなく、他と比べて自分のほうが尊いということでもなく、天上天下にただひとりの、誰とも代わることのできない人間として、無条件に尊い存在であるという、いのちの意義の発見の言葉です。
その話をする時に、ヤンキーの背中に「天上天下唯我独尊」と刺しゅうしているのは、意味を取り間違えているのではないかと生徒たちと議論するのです。そのことを下敷きにして、ヤンキーと住職が問答するというマンガを描きました。すると、それにとても反響がありました。そして、このふたりのキャラで生まれるストーリーをもっと描こうと思ったところから連載が始まりました。
ーー現在教員として生徒たちに仏教を教えていらっしゃるとのことですが、授業内容とマンガの内容は重なる部分があるのでしょうか?
あります。例えば前述したように、お釈迦様が生まれた時に「天上天下唯我独尊」と叫んだという伝説について授業で取り上げる際、次のように生徒に話しました。
「暴走族が着ている特攻服の刺しゅうで『天上天下唯我独尊』と書かれているのを見たことがあります。あれは、もしかしたら意味を誤解しているかもしれません。『自分だけが偉い』というふうに。でも本当はそうではなくて、私の命はかけがえのないものなのだから、あなたの命も、またほかの人の命も、かけがえのない尊いものなんだよ、という意味です。でももしかしたら、暴走族の人たちはそれを分かって刺しゅうを入れているのかもしれません。そうだったら感動しますね」
このような授業の話から生まれたのが、ヤンキーのキャラクターでした。
ーー「人付き合いが苦手な住職」と「仏教に詳しいヤンキー」という特殊なキャラクターを登場させようと思った理由と、マンガを描くうえで心がけていることについて教えて下さい。
住職は自分の性格と重なっているところがあります。自分も勉強が好きなのですが、あまり人付き合いが得意ではなくて、できれば人に会いたくないくらいです。でもそれでは何か足りない。人を避けてはいけないし、人との関わりのなかで初めて見えてくることもあるということも分かっているのです。住職は「自分だったらどう答えるかな」という視点で描いています。
一方のヤンキーは、自分にとって尊敬できるキャラクターにしようと思いました。破天荒で、言うべきことは言う。しかし義理堅く、正義感もある。そして失敗を臆せずに他者とも関わっていく。あまり知識はないけれども、学んだことを柔軟に吸収する素直さを持っています。このような対照的なふたりが問答することで補い合ったり、ぶつかり合ったりしながらストーリーが展開したら面白いかなと思ったのです。
気を付けているのは、笑いの要素を取り入れつつも、絶対に仏教や誰かを茶化さないということです。仏教はいのちに関わる教えでもあり、先人が大切に伝えてきたもの。それをリスペクトする気持ちを持っているので、単なる仏教のあるあるネタなどは描かないようにしています。自分が仏教に出会って救われたように、このマンガを読む人にも仏教の言葉に出会ってほしいなという思いで描いています。だからヤンキーも住職も、仏教を語ったり聞いたりする場面は誠実に描くようにしています。
『ヤンキーと住職』単行本1巻が発売中(KADOKAWA)
ーー『ヤンキーと住職』に対するSNSでの反応で、特に印象に残った読者の声について教えて下さい。
「初めて仏教の教えに触れた」「仏教を聞いてみようと思った」「本にしてほしい」との声をたくさんいただきました。「面白いし、ためになる」「実家の仏壇に豆本として欲しい」「仏教について知りたいと思っていたが、このマンガでやさしく少しずつ知れています」「素敵なエピソードをありがとうございます!」「読んで私も頑張ろうと思えました!」などの言葉も印象に残っています。
この本をきっかけに仏教をもっと勉強したい、知りたい、お寺に行ってみたいなどと言ってもらえたのがうれしかったです。
ーー『ヤンキーと住職』単行本1巻の収録内容や見どころなどをご紹介いただけますか?
この作品の主人公は勉強熱心で知識はあるのですが、仏教を本のなかだけで学んでいて頭でっかちになってしまっています。ところがヤンキーの方は、人生経験も豊富で、自由な発想を持っていて、仏教の教えを彼なりのやり方で吸収していきます。このふたりと仏教の教えが響くなかで、読者もともに仏教用語を学んでいけるようなスタイルになっています。
SNSの連載では単発の話が多かったのですが、今回の単行本では、ヤンキーと住職がなぜ仏教に関わるようになったのか、どんな過去があったのか、そして彼らのこれからについて、長編のストーリーマンガとして描きました。そこに注目してもらえたらと思います。
また、コラムや新作描き下ろしも多く収録しており、電子書籍版とは全く異なる内容になっています。今まで読まれたことがある方も、初めて読む方も楽しめる内容です。
ーー最後に、『ヤンキーと住職』の読者の方へ、ひと言メッセージをお願いします。
仏教の教えは2500年の歴史を持っています。当たり前ですが、私の本で分かることは限られています。しかし、この本をきっかけに、仏教の言葉にひとつでもふたつでも触れていただけたらうれしいです。本書を見かけた際には、手に取っていただけたら幸いです。
(マグミクス編集部)
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