今後も「ルフィ」の名前を使い続けるの？ 「連続強盗犯」の報道に疑問の声

■主人公の名前と「犯罪」が結びついた報道にファンは憤慨

　この2023年2月に、世間を騒がせた連続強盗事件の主犯格とされる容疑者4人がフィリピンから強制送還され、各メディアが一斉に報道。ライブ中継するメディアがあったほど、事件に対する関心の高さがうかがえました。

　しかし『ONE PIECE』の連載が最終章に突入して盛り上がるなか、今なお「ルフィ事件」「ルフィグループ」などと、『ONE PIECE』主人公の名前を使った報道が続く現状に、いささか疑問が残ります。

　主犯格とされる人物が実行犯などとのやりとりで「ルフィ」を名乗っていたことから、全国の『ONE PIECE』ファンも憤慨したこの事件。なぜ「ルフィ」の名前を使った報道が繰り返されるのか、警察官として約18年間務めた筆者が解説します。

　まずは、捜査の進展についておさらいします。フィリピンから強制送還された男たちにかけられた容疑は、すでに30人以上が逮捕されている「連続強盗事件」でした。2022年10月から2023年1月にかけ、全国各地で強盗事件を起こした主犯格とみられています。しかし今回フィリピンから強制送還された逮捕理由は「特殊詐欺」であり、いわゆる「オレオレ詐欺」と同種の犯罪です。

　別の犯罪で逮捕する手法は、逮捕が難しい犯罪や、実行犯との関係性における証拠が乏しい場合によく使われます。逮捕して自供を促すか裏付け捜査をおこない、連続強盗事件との関係性を明らかにしていきたいところ。

　ただ懸念される点は、主犯格がテレビやスマホを自由に見られるフィリピンの収容施設にいたことです。事前に口裏合わせをおこなっていた可能性は高いと思われますし、どれだけ供述と裏付けが取れるのかが焦点です。

　逮捕理由が進展しない場合は詐欺罪にあたり、犯人に科せられるのは「5年以上の懲役」。ただし有期懲役のため、長くても20年の懲役に止まります。ただ本件の焦点である連続強盗事件への関与となると、今年1月には東京都狛江市で人が亡くなる事件を発生させているため「強盗殺人事件」で起訴が可能です。

　強盗殺人事件は重大かつ凶悪な事件なので、死刑か無期懲役しかありません。被害に遭われた方のご冥福をお祈りするとともに、事件が解明され少しでも無念が晴らされることを願っています。

■重大事件の容疑者は「実名報道」が基本

『ONE PIECE』主人公の「ルフィ」の名前を見出しに使った報道には、「ほかの事件と同様に本名でいいのではないか」「異常にルフィに関連付けて報道していることが配慮に欠けている」など、ファンを中心の怒りの声が続々あがっています。

　またタレントの中川翔子さんも、Twitter上で「犯罪者の話題なのにキャラクターの名前で呼ぶのやめてほしいなぁ、迷惑でしかないだろう」と投稿。話題性や視聴率を重視せず、本家ルフィと被害者に配慮した報道が求められています。

　実は、事件の報道発表自体は、まず警察からマスコミ各社へ「報道文」が送られ、マスコミ各社から警察への取材を経て、ようやくメディアで発表されるのが一般的です。重大な犯罪はもちろん実名報道が基本であり、詐欺や強盗を連続発生させた凶悪事件の主犯となればなおさらのことです。

　にもかかわらず、実名よりも、主犯格が使っていた「ルフィ」という偽名を繰り返し報じるのは、（おそらく多くの読者が想像していると思いますが）世界的に知名度のあるキャラクターの名前を使った方が、見出しの注目度を高めやすい」からではないかと、推察せざるを得ません。容疑者の名前よりも、主犯格の偽名の方が認知されてしまっているのは異例といえるでしょう。

　最近では、送還され4人以外にも関与が疑われる人物の存在も報じられ、東京都狛江市での事件の実行役が次々逮捕されるなど、これからも捜査の進展に伴い報道が加熱することが予想されます。

「報道の自由」という言葉がありますが、あくまでも「事実を伝える自由」を意味するはず。被害に遭われた方への配慮を欠く報道はもちろんあってはならないことですが、世界中で愛される作品の世界観を阻害してしまう可能性にも、報道する側は細心の注意を払うべきなのではないでしょうか。

まだ見ぬ地へ冒険する様子が描かれたゲーム『ONE PIECE ODYSSEY』のキービジュアル　(C)Bandai Namco Entertainment Inc.

勇敢に技を繰り出す瞬間のルフィを立体化した「超激戦-EXTRA BATTLE-」ワノ国編・鬼ヶ島怪物決戦時の「モンキー・D・ルフィ」フィギュア（株式会社BANDAI SPIRITS）

（LUIS FIELD 最上雄一朗）