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松本零士作品がもたらした「アニメの常識」とは 今じゃ当たり前で気づかない?

マグミクス / 2023年3月5日 9時10分

松本零士作品がもたらした「アニメの常識」とは 今じゃ当たり前で気づかない?

■松本零士を世に出すきっかけとなった『宇宙戦艦ヤマト』

 先日、漫画家の松本零士さんの訃報が報道されました。2023年2月13日、急性心不全のため85歳で、その生涯を閉じたそうです。

 松本先生と言えば、人によってさまざまな作品の名前が挙がることでしょう。筆者もいくつかの作品を思い浮かべますが、その中でも「週刊少年マガジン」で連載していた『男おいどん』(1971~1973年)の存在が大きかったです。

 この頃の「マガジン」は週刊少年誌売り上げ1位という人気マンガ雑誌でした。子供の頃の筆者は『仮面ライダー』や『タイガーマスク』目当てで「マガジン」を読んでいましたが、それとはまったく違うジャンルの『男おいどん』に、いつしか不思議な魅力を感じます。

 後年の松本先生の宇宙や戦場を舞台にしたマンガとは違い、『男おいどん』の主人公は四畳半の下宿に住む大山昇太という、さえない普通の男でした。この『男おいどん』は松本先生の初のヒット作とも言われている作品で、言ってみれば『男はつらいよ』のような人情味あふれる作風が人の心をとらえたのだと思います。

 そんなわけで筆者のファースト松本作品はこの『男おいどん』で、後年のSFマンガの第一人者というよりは、「人の心を繊細なまでに描く漫画家」という印象を最初にまず受けました。

 この松本先生が一気に一般的な認知度を上げたのは、やはり『宇宙戦艦ヤマト』(1974年)からでしょう。ご承知の人も多いですが、この『ヤマト』における松本先生の立場はマンガ原作者ではありません。なぜなら松本先生は『ヤマト』の企画途中からメカニックデザイナーとして招聘されたからです。

 ところが松本先生は以前からアニメーション制作に興味があり、その才能をキャラクターデザインやドラマ作りなど、多方面で生かすことになりました。そのため、アニメ未経験者だったにもかかわらず、作品制作の中心である監督という肩書でクレジットされることになったのです。

 この『ヤマト』における松本先生の功績は多々ありますが、筆者が一番に挙げるとすれば「船が宇宙を旅する」という点でしょうか。これを『ヤマト』でやって見せたことで、以降、現在に至るまで「船が宇宙空間にいても不思議ではない」という常識を生み出しました。今現在でも船が宇宙船のモチーフとなることが多く、それに関して誰も不思議に思わないところにまで概念を定着させています。

 もっとも『ヤマト』はTVシリーズが打ち切りになったので、最初から大きなヒットというわけではありません。しかし、松本先生の才能はこの作品をきっかけに注目されることになりました。その最初に注目したのが、アニメ制作会社の「東映動画(現在の東映アニメーション)」です。

 松本先生はイメージクリエイターとして東映動画制作のTVアニメ『惑星ロボ ダンガードA』(1977年)、『SF西遊記スタージンガー』(1978年)に参加しました。そして、この時期には『ヤマト』も劇場公開されて未曽有のアニメブームを到来させます。

 そして、これがきっかけとなって松本先生がマンガ原作を手がけた『宇宙海賊キャプテンハーロック』(1978年)、『銀河鉄道999』(1978~1981年)のTVアニメ化へとつながりました。この時、時代はまさに松本零士ブームだったと言えるでしょう。

■松本零士作品の最高峰となった『銀河鉄道999』

1979年の映画『銀河鉄道999 (The Galaxy Express 999)』をリマスターした、「銀河鉄道999 4Kリマスター版 4K ULTRA HD Blu-ray」(東映)

 こういった経緯から第1次アニメブームは、イコールで松本零士ブームだったとも言えるわけです。この松本零士ブームの頂点となった作品が、劇場版『銀河鉄道999 (The Galaxy Express 999)』(1979年)でした。

 実はこの『999』は前述の『ハーロック』と同じく、もともとアニメ企画として松本先生が提案していましたが、諸事情からマンガ連載が先になったという経緯があります。

 また、この劇場版『999』が異例だったのが、マンガやTVアニメがまだともに進行中だったにも関わらず、映画ではラストエピソードまで描いたことでした。これには松本先生のオチよりも途中の旅の方が重要という考えがあったそうです。この英断により、異例だった劇場版で完結まで見せるということになりました。

 興行成績は1979年邦画配給収入1位というアニメ映画史上初の快挙を成し遂げ、ゴダイゴの歌う主題歌「銀河鉄道999(The Galaxy Express 999)」が当時の人気音楽番組「ザ・ベストテン」でアニメ作品としては初の1位を記録するといった快挙を成し遂げます。

 しかし、ブームというものは常に終わりがあるもの。この後も松本零士作品はアニメ化されていきますが、この時ほどの熱狂は起きることがありませんでした。松本先生は静かに世代交代するかのように、アニメ界の中心から身を引きます。

 ところが、この時にまいた種が芽吹く時がやって来ました。松本零士作品で育った世代が表舞台に立つようになったことがきっかけです。松本先生にあこがれてクリエイターになった人は多く、そういった層によるリバイバルブームとも言うべき現象が散発的に起きました。

 また、ブームになったことで知名度を上げた作品群は、後の世代の目にも届くようになって、新たなファン層の拡大へとつながります。さらに海外での評価は地域によっては日本以上の熱狂ぶりを生んで、松本先生の残した作品群は世界的な知名度を持つに至りました。

 よく松本先生の作品で「男のロマン」に注目が集まりますが、筆者的には人生哲学のような人間の生き方が根底にあると感じています。それは宇宙空間から四畳半まで場所を選ばず、ハーロックのようなカッコいい男でも星野鉄郎のような未熟な少年を通してでも描かれていく生き方の指針となるようなもの。時にはメーテルやエメラルダスも持ち合わせているのですから、男だけのものではないでしょう。

 松本先生の描いてきたキャラクターを通して、我々は大切なことは何なのかを教えてもらっていたと思います。これまで心に響く多くの作品を残していただき、松本先生、本当にありがとうございました。

 最後に完全な余談ですが、筆者が松本先生の絵でもっとも目を奪われたのは「零士メーター」と呼ばれるメカ群でも、長髪で切れ長の瞳にスレンダーな姿の松本美女でもなく、ひたすら美味しそうに描かれたタマゴの入ったラーメンや、バターののったビフテキです。あの実写を超える美味しそうな食べ物の数々。魅力的な日常感覚のある、そんな松本先生の作品がとても好きでした。

(加々美利治)

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