特撮史に残る大傑作?失敗作? 賛否が割れた『ガメラ3 邪神覚醒』 BS12で放映
マグミクス / 2023年3月5日 10時30分
■公開当時は情報量の多さに戸惑った人も
大傑作か、それもと失敗作か。金子修介監督が撮った『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』(1999年)は、観た人によって評価が大きく割れる作品です。「特撮映画史に残る傑作」と評価する声もあれば、「内容がわかりにくい」という声もあります。
平成ガメラとして復活した『ガメラ 大怪獣空中決戦』(1995年)と『ガメラ2 レギオン襲来』(1996年)が絶賛されただけに、平成シリーズ最終作となった『ガメラ3』の評価は相対的に低くなってしまったようです。あまりの情報量の多さに、公開当時は戸惑った人もいるでしょう。
しかし、『ガメラ3』のメイキングドキュメンタリー『GAMERA 1999』(1999年)を撮った庵野秀明監督の大ヒット作『シン・ゴジラ』(2016年)などを経験した今では、『ガメラ3』はすごい映画だったんだと認識することができます。
2023年3月5日(日)の19時から、BS12の「日曜アニメ劇場 特別編」として放映される『ガメラ3 邪神〈イリス〉覚醒』の見どころを紹介するとともに、賛否が割れた理由も探ってみたいと思います。
■ブレイク前の仲間由紀恵が餌食に
時代は1999年。地球の守護神であるガメラが、宇宙怪獣レギオンと戦ってから3年後という設定です。怪鳥ギャオスが渋谷上空に現れ、ガメラと死闘を繰り広げます。ガメラが吐くプラズマ火球によって、渋谷は大崩壊。1万人以上の犠牲者が出る大惨事となります。
一方、奈良の山村ではガメラを憎む少女・綾奈(前田愛)が、洞窟で不思議な卵のようなものを見つけます。4年前、ガメラとギャオスが東京で戦った際に、綾奈の両親は巻き添えで亡くなっていました。卵から生まれた謎の生物を、綾奈はかつて飼っていた猫の名前「イリス」と名付け、可愛がります。ガメラへの復讐心から綾奈はイリスを大切に育て、綾奈の心に感応して、イリスは急成長を遂げるのでした。
大きくなったイリスは、『新世紀エヴァンゲリオン』 に出てくる使徒を思わせる不気味な怪獣へと変化します(怪獣デザインは前田真宏氏)。「イリス、熱いよ」と綾奈がシャツのボタンを外し、イリスと一体化するシーンは妖しいエロチズムが漂います。
歌舞伎俳優の中村勘九郎さんと結婚した前田愛さんが、イリスと心を通わせ合う孤独な少女・綾奈を熱演しています。回想シーンに登場する4年前の綾奈は、前田愛さんの妹、前田亜季さんが演じています。
平成ガメラの完結編ということもあり、『G1』で鳥類学者・長峰真弓を好演した中山忍さんが再登場。ガメラに深い関わりを持つ少女・草薙浅黄に、三部作連続出演となる藤谷文子さん。さらにイリスに襲われてミイラ化する女性キャンパーを、『トリック』(テレビ朝日系)でブレイクする前の仲間由紀恵さんが演じています。金子監督の好みを反映し、美少女や美女だらけの怪獣映画となっています。
■20分の1のスケールで再現された京都駅での対決
『ガメラ3 邪神<イリス>覚醒』ポスタービジュアル (C)KADOKAWA 徳間書店 日本テレビ 博報堂DYメディアパートナーズ 日販/1999
第1作『G1』が怪獣映画の王道、第2作『G2』は本格的SF映画として高く評価されました。『G3』は恋愛要素を交えた一種の伝奇ファンタジーだと言えるでしょう。太平洋諸島で言い伝えられる「マナ」という考えが、『G3』の大きなモチーフとなっています。
脚本家の伊藤和典氏が盛り込んだ「マナ」という概念ですが、簡単に説明すると「万物に宿る超自然的な力、地球自身が持っている生命エネルギー」ということになります。『G2』で宇宙から侵略してきた強敵レギオンを倒すため、ガメラはウルティメイト・プラズマを放ちましたが、そのために地球上から、とりわけ日本の「マナ」が大量に消費され、ギャオスが日本に飛来し、イリスが誕生したというわけです。
せっかく『G2』ではガメラと人類は共闘することができたのに、『G3』のガメラは再び人間から嫌われる存在となってしまいます。ガメラへの憎しみからイリスと一体化する綾奈は、これまでの怪獣映画にはいなかった複雑に屈折したヒロインとなっています。
前2作から続投する樋口真嗣特技監督も、ありったけの特撮愛を『G3』に注いでいます。渋谷駅が崩壊し、センター街が火の海になる序盤は、観る人にとってはトラウマ級のパニックシーンになっています。クライマックスの京都での決戦シーン、ガメラとイリスが激突する京都駅ビルは20分の1のスケールで精巧に再現されています。ガメラの身を削った必殺技も見逃せません。
■平成ガメラ三部作に皆勤した裏主人公にも注目
金子修介監督のリアリティーにこだわった演出、脚本家・伊藤和典氏が紡ぐ緻密なストーリー、樋口真嗣特技監督の特撮への異常な愛情が、前2作ではうまく融和し、興行成績以上に高い評価を受けています。シリーズ最終作となった『G3』は、金子監督いわく「3人の関係性が微妙に変わってしまった」とのことです。
監督、脚本家、特技監督が、それぞれのやりたいことを強烈に打ち出したのが『G3』でした。その分だけ、前2作に比べると『G3』は作品としてはアンバランスなものになってしまったようです。ビートルズに例えるなら、通称「ホワイト・アルバム」こと『ザ・ビートルズ』のような作品に『G3』はなってしまったのかもしれません。しかし、スタッフそれぞれの「最高に面白いものにしてやる!」という想いは、ガメラのプラズマ火球ばりの熱さを感じさせます。
三部作に皆勤した螢雪次朗さんの出演パートも、密かな見どころです。『G1』では長崎県警の刑事、『G2』では札幌ビール工場の警備員でしたが、『G3』では東京でホームレスとなっています。螢さん演じる大迫は、怪獣たちによって人生がめちゃめちゃになってしまいました。どん底にまで堕ちた大迫が『G3』では怪獣にどう向き合うのかも、ぜひ注目してみてください。
(長野辰次)
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