多彩なファミコンカセットのデザイン 実は「自由じゃない」?ブームの裏で大人の事情も
マグミクス / 2023年3月12日 20時10分
![多彩なファミコンカセットのデザイン 実は「自由じゃない」?ブームの裏で大人の事情も](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_143172_0-small.jpg)
■デザインの違いは製造方法の違い
2022年12月、ファミコン初期のゲームカセットのデザインについて、任天堂が商標を出願していたという話題がありました。ここでいうデザインとはラベルのことですが、ファミコンのカセットは形状もさまざまだったことをご存じでしょうか?
例えばコナミのカセットは向かって左側に穴が開いていました。これは子供がひもを通して首から下げるためのものと言われています。他にも発光ダイオードが光るアイレムをはじめ、サンソフト、ジャレコ、タイトー、ナムコ、バンダイといったメーカーのカセットは独自の形状でした。他のメーカーもやればいいのにと思ったのは筆者だけではないはずですが、実はやりたくてもできない事情があったのです。
ファミコンのゲームカセットは任天堂が一括して製造していました。メーカーは任天堂に完成したゲームが入ったマスターROMを提出するのとあわせ、製造して欲しい本数を伝えます。任天堂はその分だけ製造してメーカーに卸すのですが、製造費はメーカー持ち、ゲームカセットも買い取りで、1本あたり2~3千円程度だったと言われています。当時は各メーカー最低10万本は製造していたと思われ(※1)、少なくとも「2~3億円×タイトル数」が任天堂に入って来ます。実に「おいしい」やり方で、この委託生産方式がいわゆる「任天堂商法」です。
ところがこの商法の例外となっていたのが前述したメーカーで、ファミコン初期に参入した古参です。彼らは任天堂が委託生産方式を確立する以前から自社生産でゲームを製造しており、そのため独自デザインのカセットを作ることができたのです。そして製造コストを下げる努力をすれば価格に反映することもできました。
当時をご存じの方は、ナムコのゲームカセットが安かったことを覚えているでしょうか? 例えば『ワルキューレの冒険 時の鍵伝説』(1986年)は3,900円でした。この時期のファミコンゲームは通常4,900円、高めで5,500円が主流だったので、学校でも話題になったものでした。
なお、任天堂が委託生産方式を採用した理由は「アタリショック」(※2)の再来を恐れたからだと、任天堂が公式に述べています。
(※1)全ファミコンゲーム中、売上本数の第50位が『ファイナルファンタジーII』(1988、スクウェア)で76万本です。この7分の1だったとしても10万本です。
(※2)アタリショックとは、アメリカのアタリ社が自社の家庭用ゲーム機用のゲームを販売するにあたり、何の制限も設けなかった結果、大量の駄作が出回って消費者離れが起き、業界全体が一時崩壊した現象です(諸説あり)。
■カセットの独自デザインは最後まで残ったが…
コナミのファミコンカセットは、片方に穴があいていた独自デザインだった。画像は1986年発売の『グラディウス』
さて、自社生産によって独自デザインのカセットが認められていた状態も、時代が進むと雲行きが怪しくなります。「日本デジタルゲーム産業史」によると、ファミコンの中期以降、任天堂はメーカーが新たに自社生産することを認めないだけでなく、既存のメーカーにも「ファミコンのゲームを販売できる」というライセンス契約を更新する際に、委託生産に切り替えるよう求めたとされています。
これをこのまま解釈すると、ファミコン後期のカセットは、全て同じ形になっていたということになります。しかし実際のところ、前述のメーカーのカセットはファミコン時代の最後まで、一部を除き独自デザインでした。いったいどういうことでしょうか?
これは筆者の想像ですが、任天堂はすでに独自デザインで知名度を得ているメーカーに、それをやめるか、特別な手数料を支払って続けるかの選択を求めたのではないでしょうか? ただ任天堂の最終目的は、委託生産させること……いわゆる「任天堂商法」の完成ですから、自社生産まで認めたかどうかはわかりません。もしかしたら、「特別にそのデザインで製造してあげるから、任天堂に生産を委託してくれ」と言ったかもしれません。残念ながらこのあたりの真相が明らかになることは、まだ当面ないでしょう……。
いずれにしろこうした体制の確立によって、新しいデザインのカセットは他のメーカーから生まれなくなります。なお、一部のゲームはカセットの大きさ自体が違いますよね? 実はあれも任天堂の規格のひとつで、通常サイズと大きいサイズの2種類が存在していたようです。
こうして見ると、カセットのデザインは多彩なバリエーションがあったように感じられても、実はそれほど多くなかったことがわかります。恐らくデザインは同じでもカセットの色が多数あったことから、「たくさんのデザインがあった」という印象があるのではないでしょうか。
最後に、これは後日談的な話になりますが、この任天堂の体制が確立したことを、私たちが明確に感じられる日が来ます。それがスーパーファミコンの発売です。スーパーファミコンでは、ファミコン時代の特権は全てゼロになり仕切り直されました。そのため全てのゲームカセットが、色も形も統一されたデザインになったとされています。
※記事の一部を修正しました。(2023年3月16日 19:27)
(タシロハヤト)
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