トラウマ回「人間爆弾」の衝撃…『ザンボット3』他サンライズ作品を牽引した脚本家の存在
マグミクス / 2023年3月14日 6時10分
![トラウマ回「人間爆弾」の衝撃…『ザンボット3』他サンライズ作品を牽引した脚本家の存在](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_143199_0-small.jpg)
■当時のスタッフも泣き出した「人間爆弾」のエピソード
侵略宇宙人によって体内に爆弾を仕掛けられ、人間爆弾となって死んでゆく幼なじみの女の子……。
このショッキングなシーンで当時の子供たちを震えあがらせたのが、1977年に日本サンライズ(当時)が制作した『無敵超人ザンボット3』です。
それまで他社版権作品の下請け製作会社だった「創映社」と「サンライズスタジオ」は、1976年に新会社「株式会社日本サンライズ」を設立し、1977年に初のオリジナル作品を世に送り出します。それが『無敵超人ザンボット3』でした。
監督は『機動戦士ガンダム』を生み出す前の富野喜幸(現:富野由悠季)さん、同じく『ガンダム』のキャラクターデザイン・作画監督の安彦良和さんも本作のキャラクターデザインを担当しました。またオープニングの原画には、次作『無敵鋼人ダイターン3』や後に『装甲騎兵ボトムズ』などでキャラクターデザイン・作画監督を担当する塩山紀生さんを起用するなど、『ザンボット』は初のオリジナル作品らしいスタッフ布陣に思えます。
ところがその実状は全く違いました。なぜなら、社内に「社員」としてクリエイターを抱えないシステムだったサンライズは、主力の契約作画スタッフのほとんどを、すでに制作中の別作品にまわしており、本来なら絵を統一するなどクオリティを支える「作画監督」を用意できず、絵柄はバラバラで作業スピードも遅い、制作現場からすれば、かなり手薄な状況だったのです。
それでも『ザンボット』がいまだにファンの間で話題にのぼる理由の一旦は、心を揺さぶる、そのドラマにありました。
特に、仲の良い友人やその家族が、背中に小さな星印をつけられた爆弾にされ、なすすべもなく目の前で爆死してしまうという第16話~18話では、試写を見にきた若いアニメーターたちもが泣き出してしまったのを覚えています。
恵まれた制作体制ではなかった『ザンボット』で、こうした印象深いドラマが作れたのには、下請け時代からサンライズ作品を支えてくれた脚本家や演出家の力がありました。
ファンの方々は、作品を「監督が作ったもの」と捉えがちです。しかし、原作を持たないオリジナル作品は、会社側や監督の意図を汲みながら、物語全体の構成を考えてゆく「シリーズ構成」や「メインライター」と呼ばれる脚本家がいてこそ成り立っています。登場するキャラクターの性格、立ち位置、もちろん物語を創りあげるのも脚本家の仕事です。
今でも人気の高い、70年代から2000年代のサンライズ作品の根幹を担っていたのが「鈴木良武」=「五武冬史」(シナリオネーム)さんです。
鈴木良武さんは、サンライズ創立メンバーがかつて所属していた「虫プロダクション(旧)」のいわば仲間で、サンライズの立ちあげ時代から企画や脚本に参加し、『0(ゼロ)テスター』『勇者ライディーン』『超電磁ロボ コン・バトラーV』などの他社版権番組時代から、『戦闘メカ ザブングル』『装甲騎兵ボトムズ』『機動武闘伝Gガンダム』『疾風!アイアンリーガー』『伝説の勇者ダ・ガーン』など、多くのシリーズ構成やメインライターを務めています。
鈴木良武さんの紡ぎだす物語は、その作品群を見れば判るように、どのような設定の物語であれ、全身全霊で試練に立ち向かう、まさに「ヒーロー」のドラマでした。
そんな鈴木良武さんが書いた『ザンボット』の最終話について、のちに『機動戦士ガンダム』のメインライター、サンライズ初の参加作品が『ザンボット』である、故・星山博之さんが、「タケさん(鈴木良武さんのこと)の書いたあのセリフ、あれはすごい。自分にはあんなセリフは書けない」と言っていたのは当時のスタッフの間でも有名な話しです。
そのセリフとは、最終話で、地球人のために必死で戦ってきた主人公の勝平たちを邪魔者扱いする地球人の愚かさについて正す敵のコンピュータに向かい、勝平が泣きながら叫ぶ「みんな、いい人ばっかりだ!」の一言でした。
どんなに辛い状況にあっても、生きるものたちを肯定する真っすぐな主人公。この視点は、同じく鈴木さんがシリーズ構成を務めた『Gガンダム』の主人公ドモン・カッシュが「人間も、この地球の天然自然が生み出した存在、地球そのもの」と言い切る姿にも現れています。
『ザンボット』を代表として、今もファンの間で人気を得ているサンライズ作品には、当時のTVアニメーションのなかでもシリアスな物語が目立ちます。しかし、その多くをじっくりと鑑賞してみると、根底には鈴木良武さんのセリフが象徴する、人への希望や暖かな視点が生きています。それが貫かれているからこそ、決して凄惨なだけではなく暖かな想いを残すサンライズ作品が生れていったことを、是非、心のどこかにとどめておいて下さい。
余談ですが、往年のアニメ好きの方はご記憶でしょうか。旧・虫プロダクションでモノクロ時代の1969年に制作された『どろろ』のオープニング曲の印象的な「ほげほげたらたら」という歌詞は、鈴木良武さん作です。その意味をお尋ねしたことがありますが……ナイショだそうです。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
(風間洋(河原よしえ))
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