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大物監督たちの若き日の「才能」に驚く 傑作平成アニメ映画10選(前編)

マグミクス / 2019年4月28日 11時10分

大物監督たちの若き日の「才能」に驚く 傑作平成アニメ映画10選(前編)

■テロへの脆弱性を描いた『パトレイバー』のリアリティ

 平成の30年間には、アニメ映画の多彩なヒット作や話題作がたくさん生まれ、日本独自の文化として花開きました。史上最長の10連休中に観ておきたい「平成アニメ」10作品を2回にわたって紹介します。

●アニメは時代を予見するー『機動警察パトレイバー2 the movie』(1993年)

 押井守監督による、『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(95年)と並ぶ、90年代の代表作。平成元年に公開された『機動警察パトレイバー』(89年)のヒットを受けて製作された『機動警察パトレイバー2 the movie』は、シリーズ最高傑作と評価されています。

 湾岸戦争や自衛隊の海外派遣といった時事問題を背景に描かれているのは、東京に首都機能が集中しすぎた日本という国の脆弱さ。ごく少数の武装勢力によって、東京が制圧されてしまう様子をシミュレーションして見せています。なかでも東京上空を旋回していた飛行船から毒ガスが漏れ出して、副都心・新宿がパニック状態に陥る過程は、実写映画さながらのリアリティです。

 本作の公開から2年後の1995年、オウム真理教による地下鉄サリン事件が発生します。オウムの実行部隊は、当初は農薬散布用のラジコンヘリを使ってサリンを東京中にバラまくことを予定していましたが、現在のドローンと違い、当時のラジコンヘリは操縦が難しかったため、この計画は頓挫。攻撃目標が地下鉄に変わったという経緯があります。都市型テロの恐ろしさを予見していた押井監督の先見性に驚きを禁じえません。

●社会現象となったテレビシリーズの結末ー『新世紀エヴァンゲリオン air/まごころを、君に』(1997年)

 庵野秀明監督のSFアニメ『新世紀エヴァンゲリオン』はテレビ東京系で1995年〜96年に全26話が放映され、熱狂的な「エヴァ」ブームを巻き起こしました。『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』(97年)に続いて劇場公開された本作は、テレビ放映では多くの謎を残したままだったエヴァの物語に、庵野監督がどのような決着を用意するのか、注目が集まりました。

■オタク文化が最初に到達した「エヴァ」の衝撃

 テレビシリーズの第25話にあたる「air」ではゼーレが送り込んだエヴァ量産機によって、アスカの左目が潰されることに。第26話「まごころを、君に」ではついにサードインパクトが始まり、人類補完計画が完遂されれば、人類はひとつとなり、人間はもう孤独に悩むことがなくなるはずでした。

 しかし、それまでずっと現実を直視することができずにいたシンジは、孤独と引き換えにひとりの個ではなくなってしまうことを拒否。人類が滅亡した終末世界で、旧約聖書に描かれたアダムとイヴを思わせる新しい物語が始まる……というシーンで幕を降ろします。

 世紀末思想、そしてオタク文化の集大成として盛り上がった『エヴァ』シリーズ。2007年からは『エヴァンゲリヲン新劇場版』4部作が新たに始まります。旧約聖書と新約聖書のように、「エヴァ」もまた市民権を得たオタク民たちのバイブルとして長く受け継がれていくことになるのでした。

●バーチャルの世界で花開いた才能『劇場版デジモンアドベンチャー ぼくらのウォーゲーム!』(2000年)

『おおかみこどもの雨と雪』(12年)や『バケモノの子』(15年)のヒットメーカーとして知られる細田守監督が、東映動画(現・東映アニメーション)時代に残した代表作。上映時間40分の中編作品とは思えないほどの情報量が詰め込まれています。

 仮想現実という本作の設定に、細田監督は自身の結婚体験を元にしたエピソードを織り交ぜることで『サマーウォーズ』(09年)としてセルフリメイクしてみせます。ジェームズ・キャメロン監督のSF大作『アバター』(09年)より、かなり早くからバーチャルの世界を題材にしています。

 また、大林宣彦監督の実写版のイメージが強かった『時をかける少女』を躍動感たっぷりな青春アニメとして、2006年に再生。時代を読むセンスに加え、さまざまな情報を自分の中に取り込み、血肉化して再構成してみせる能力に細田監督は優れているようです。

『ぼくらのウォーゲーム!』で才能を認められた細田監督は、スタジオジブリに出向して『ハウルの動く城』の監督を任されるも、途中降板という憂き目に。苦い経験をバネにして、今では”ポスト宮崎駿”と呼ばれるポジションを獲得しています。

■"セカイ系"の旗手、新海誠監督の登場

『ほしのこえ』(コミックス・ウェーブ・フィルム)

●ノスタルジーに耽る大人たちにNOを突き付けた幼稚園児『クレヨンしんちゃん モーレツ! オトナ帝国の逆襲』(2001年)

 バブルの崩壊、阪神・淡路大震災、地下鉄サリン事件、凶悪化する少年犯罪……暗いニュースが90年代に続き、ゼロ年代に入っても日本社会に明るい未来はなかなか見えてきません。そんななか、定番シリーズの枠を飛び出した原恵一監督の『クレヨンしんちゃん モーレツ! オトナ帝国の逆襲』が大きな話題を呼びます。

 劇場シリーズ第9作となった『オトナ帝国の逆襲』は、子どもたちに付き添った親たち大人世代が映画館で大号泣するという珍現象を起こしました。しんちゃんの両親・野原ひろし&みさえをはじめとする大人たちは「20世紀博」に行って以来、少年少女時代を過ごした高度成長時代を懐かしみ、働くことを止めてしまいます。そんな中、幼稚園児のしんちゃんは大人になることを渇望し、未来に向かってガムシャラに爆走するのです。

 原恵一監督は大の犬好きとして有名です。犬の世界は嗅覚が中心となっていることに気づき、“匂い”をモチーフにした本作のストーリーを思いついたといいます。野原ひろしが“匂い”をきっかけに本当に大事なものは何かを思い出すシーンは、何度観ても胸に迫るものがあります。

 原監督は『オトナ帝国の逆襲』を完成させた直後、「やってはいけないことをやってしまった」と感じたそうですが、それは「シンエイ動画」の社員アニメーターだった原監督が、アニメーション作家になった瞬間でもありました。

●セカイ系のはじまり、DIYアニメという事件『ほしのこえ』(2002年)

 新海誠監督のデビュー作『ほしのこえ』の公開は、まさにアニメ史に残る事件でした。それまで、商業アニメーションは経験豊富なプロのアニメーターたちが大勢集まり、作業を分担して、ようやく完成するものだと思われていたのが、新海監督はたった1人でその常識を覆してみせたからです。

 当時29歳だった新海監督は脚本・作画・演出・美術・編集、さらに声優も手掛けるというDIYぶりを発揮。開業から間もなかった下北沢の短編映画館「トリウッド」で劇場公開され、異例のロングランヒットを記録します。

 地球外生命体との宇宙戦争という縦軸があるものの、中学を卒業して離ればなれになった少年と少女とが携帯メールでやりとりする遠距離恋愛が主題として描かれており、『ほしのこえ』のヒット以降、”セカイ系”という言葉がゼロ年代に一般化します。離れて暮らす主人公たち2人のプラトニックな想い、美しい風景に流れる主人公たちの心情など、新海ワールドの基本要素が25分間の処女作の中にぎゅっと濃縮されています。

 新海監督は『雲のむこう、約束の場所』(04年)などの長編アニメを経て、『君の名は。』(16年)で国内興収250,3億円というメガヒットを記録。『君の名は。』は中国、韓国などアジア各国でも大ヒットし、宮崎駿監督の『千と千尋の神隠し』(01年)を抜いて、世界興収3億5800万ドルという日本映画No.1を樹立します。令和時代に発表される新作『天気の子』(2019年7月公開)は、どんなセカイを見せてくれるのでしょうか。

(長野辰次)

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