ひどすぎない？ 「殺されて嫁の心も奪われた」不憫キャラとは

■三者三様の形で「完全敗北」した男たち

　マンガには主人公や強キャラに負け、殺されてしまうキャラは多くいますが、その上でさらに妻や恋人を奪われてしまうような、救いのなさすぎる展開となった人物もいました。そのような悲惨なキャラは、脇役であっても意外と印象に残っています。今回は、そんな少年マンガの、命だけではなく、パートナーの心まで奪われ、「完全敗北」してしまったキャラを紹介します。

●朱沢鋭一『グラップラー刃牙』

　人気格闘マンガ『刃牙』シリーズの第1部『グラップラー刃牙』では、主人公・範馬刃牙の父・範馬勇次郎と母・朱沢江珠の強烈な出会いが描かれており、そこには悲劇の男、朱沢鋭一が登場します。

　朱沢グループの総帥で世界的な名士である朱沢鋭一は、バリ島で大勢の客を招待し、江珠との結婚披露宴を開いていました。そして、そこに現れた勇次郎に江珠が惹かれたことに立腹した鋭一は、勇次郎の服を汚し挑発しますが、勇次郎は顔色ひとつ変えずにその場で江珠の唇を奪ったのです。さらに、お抱えの格闘家まで勇次郎にあっさりと倒され、鋭一は「雄」としての格の違いを見せつけられました。

　その後、鋭一は部屋に侵入した勇次郎に殺害され、江珠はその場で勇次郎を受け入れています。欲しいものは暴力で手に入れる勇次郎らしいやり方で、命と妻を奪われた鋭一。善良とは言えない性格でしたが、さすがに同情してしまうほど悲惨な最期でした。

●川尻浩作『ジョジョの奇妙な冒険』

『ジョジョの奇妙な冒険』の第4部「ダイヤモンドは砕けない」には、変則的な形で、命と妻の心を奪われた男が登場しています。

　寡黙で誠実なサラリーマンの川尻浩作は、真面目に働いてはいるものの、家族とのコミュニケーションはほとんどなく、妻の川尻しのぶからの評価は、「つまらない男」でした。それでも、妻子のために真面目に働いていた浩作でしたが、ある日を境に、手料理を振舞ったり、電気シェーバーではなく剃刀で髭を剃るようになったりと、その行動に変化が現れます。

　さらに、浩作は家賃の取り立てに来た大家に、不思議な力を使い、大家のカバンから金を盗んで支払いをしました。夫が何をしたのかよく分からないものの、夫から漂う危険な香りに魅力を感じたしのぶは、改めて恋をしたのです。

　しかし、この変貌した川尻浩作は、スタンド使いの殺人鬼・吉良吉影が、主人公たちの追跡から逃れるため、浩作の顔を奪って成りすましたものでした。殺された上、成りすまされて妻の心まで奪われた浩作は、哀れと言うしかありません。

　また、主人公の東方仗助たちが吉良を倒し、事件が終わった後も、しのぶは成りすましに気付いておらず、夫の帰りを待ち続けていました。浩作にとってはあまり救いがないまま、第4部の物語は幕を閉じています。吉良、浩作、しのぶの関係はファンの間で「高度なNTRだよな」と、たまに話題になるようです。

　ちなみに、いずれはしのぶも息子の早人も始末するつもりだった吉良ですが、スタンド能力を持ち、特殊な草として蘇った「猫草」との戦いの際中、しのぶが大けがを負っていないことに「安堵」するなど、心境に変化が表れていました。もし、仗助たちが吉良を倒していなければ、この特殊過ぎる夫婦はどのような関係性になっていたのでしょうか。このカップリングは「吉良しの」と呼ばれ、一部で人気です。

●清里明良『るろうに剣心』

　佐藤健さん主演の実写映画も話題になった『るろうに剣心』の過去編には、主人公・緋村剣心が、命と婚約者を奪ってしまった清里明良が登場しました。

　剣心が人斬りの罪と向き合う「人誅編」の途中で挟まれた過去の物語では、彼が「人斬り抜刀斎」だった頃の幕末の回想が描かれています。その回想のなかで、幕府側の武士・清里明良は維新志士側につく人斬りの剣心と戦い、剣心の頬に傷を残したものの、殺されました。死ぬことを実感した明良は、「やっと…祝言…なのに…」と婚約者・雪代巴を想いながら、剣心に止めを刺されたのです。

　その後、婚約者を殺された巴は仇を討つため、幕府側のスパイとして剣心と接触します。しかし、剣心の優しさに触れた巴の心は変わっていき、幕府を裏切り剣心と結ばれました。そして、幕府側に裏切りが知られ、巴は剣心を罠に嵌める餌にされてしまうのです。

　そして巴は、敵の罠にかかりあらゆる感覚を封じられた剣心を救うために行動した結果、敵ごと剣心に斬られ、命を落としました。巴の死後、彼女の日記を読んだ剣心は、自分が巴の仇だったことを知り、明良と巴によってつけられた消えない頬の十字傷とともに、苦しみ続けることになるのです。

　自分の都合で相手を殺した勇次郎や吉良とは違い、剣心は平和な時代を夢見て明良を殺しました。巴の事情を知ったのも、全てが終わった後だったため、ふたりが結ばれたこと自体が悲劇だったと言えるかもしれません。誰も幸せになれない、結果的にそうなってしまっただけの、悲しすぎる「NTR展開」でした。

（SU_BU）