初代ガンダムの「名ドラマ」を支えた脚本家 SFストーリーだからこそ重要な要素とは
マグミクス / 2023年4月4日 7時10分
■ファーストガンダムを支えた脚本家とは
『機動戦士ガンダム』ファンの皆さま。あなたは『ガンダム』のどんなところがお好きなのでしょう?
モビルスーツがカッコいいから?
戦争をリアルに描いているから?
シャアとアムロのモビルスーツ戦がいいから?
キャラクターの絵が好きだから?
ドラマがおもしろいから?
お気に入りの声優が出ているから?
富野監督の作品が好きだから?
きっと人それぞれ、色々な理由があることと思います。そんな理由のなかには「物語」そのものに惹かれたという方も多いことでしょう。
たとえば、久しぶりに避難所で再会したアムロの成長を理解できない母との悲しい別れ、初めて淡い恋心を抱いた大人の女性マチルダさん、戦場の部下たちにも信頼されているランバ・ラルとハモンのカップル、幼い兄弟たちを養うため、ジオンのスパイとしてホワイトベースに乗り込んだミハルの悲劇……
TVシリーズの「ガンダムという物語」には、常にこうした人と人との心の触れ合いを意識しながらシリーズをまとめていた脚本家がいたことをご紹介したいと思います。『ガンダム』のシリーズ構成とチーフライターを務めた星山博之さんです。
第一話を筆頭とし、物語全体の流れの中で要所要所の話数を担当している星山さんは、企画書段階から『ガンダム』を作り上げたメインメンバーのひとりで、会社側から要求される商業アニメの制約と、富野監督の思い描く「ガンダム」という世界を融合させて、ひとつの物語として成立させる役割を担った方です。
TVアニメには、時代や会社によってさまざまな作り方がありますが、当時の「日本サンライズ」は、スポンサーや代理店などとの調整を念頭に、会社側から企画案が出され、それらに沿って担当予定の監督と脚本家が全体のストーリーやその流れを作ってゆく、というのが大まかな流れでした。
星山さんは旧・虫プロでアニメーションの脚本の世界に入り、『ガンダム』の二作前になる『無敵超人ザンボット3』で脚本家としてサンライズ作品に初参加します。次の『無敵綱人ダイターン3』では複数人いる脚本家の一翼を担い、『ガンダム』の以降は、後番組となる『無敵ロボ トライダーG7』『最強ロボ ダイオージャ』、また高橋良輔監督の『太陽の牙 ダグラム』、神田武幸監督の『銀河漂流バイファム』等、サンライズのオリジナル路線でシリーズ構成・チーフライターを次々とつとめます。
「リアルメカ」や「SF」というと、一見理屈っぽい難しい物語を想像しがちですが、物語を紡いで行くのは登場人物たちのドラマです。
アムロがマチルダさんに憧れ、ガルマの婚約者イセリナは敵討ちを望み、シャアとララァは上官と部下以上の関係にあり、理知的な科学者だったアムロの父も、戦争の中で酸素欠乏症による脳障害という悲しい姿に……と、実は『ガンダム』のなかには、その世界に生きている人々の「ナマ」の姿が描かれていました(劇場版ではカットされているエピソードも含みます)。
「人の想いなくしてドラマは生まれない」それを常に描いていたのが星山さんなのです。その代表が、あのミハルとカイの哀しいドラマです。
星山さんは「シリーズ構成ってさ、他人の脚本とのバランスとりばっかりしてて、自分の好きなように書く機会がないんだよね」みたいなことをよくおっしゃっていましたが、『ガンダム』の中で一番好きなのはカイだそうで、その気持ちが反映されていたのが、あのミハルとの物語でしょう。
■サンライズ作品の基礎原案となった文学2作とは
星山博之さんの代表作である「EMOTION the Best 銀河漂流バイファム DVD-BOX1」(バンダイビジュアル)
日本のTVアニメーションには、昔から基本視聴者が子供という社会通念があります。それを前提として、上にご紹介した作品群が作られていた当時のサンライズ作品の企画者である「矢立肇」は、子供が共感でき、未来に夢を持てる物語として、常にふたつの基礎原案をあげていました。
児童文学でも有名な『十五少年漂流記』と豊臣秀吉の『太閤記』です。この『十五少年漂流記』型の作品を多く担当したのが星山さんだったのです。
ちょっと考えてみてください。複数人の子供たちが力を合わせて未知の大海(宇宙)で必死に生き抜いてゆく物語……『ガンダム』も『バイファム』も『ダグラム』も『蒼き流星 レイズナー』も同じだと思いませんか?
同じ原点から、こんなにも違う物語を次々と作り上げてゆく。それが監督であり、脚本家というプロのクリエイターなのです。
そんな星山さんは、実に人間味豊かな、楽しいエピソードをいっぱい持った方でした。仕事はいつも行きつけの喫茶店でなさっていた星山さん。そのせいで、長い間、娘さんから、お父さんは喫茶店に勤めていると思われていました。
また、その喫茶店が閉店するときには、まるで指定席のように愛用していた席のテーブルと椅子を譲り受け(マッチと灰皿付き)自宅に設置。「ここは俺のカトレア(喫茶店の名前)だよ」とうれしそうに笑っておられました。
個人的にも大好きな方でした。私がシナリオを書くことになったとき、町の文具屋店ではあまり見かけない0.7のシャープペン(まだワープロも一般的ではなかった時代です)が使いやすいよ、と教えてくださったのも星山さんでした。
62歳での早逝、今でも悔しくてなりません。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
(風間洋(河原よしえ))
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