異世界転生ジャンルの異端『異世界おじさん』は、30代の心に悲哀の渦を起こすマンガ
マグミクス / 2019年5月17日 11時50分
■美男美女の世界でオーク扱い…過酷すぎる異世界のはじまり
いまやマンガやアニメ、小説の一大ジャンル「異世界転生もの」ですが、Webマンガサイト「ComicWalker」で2018年6月から連載されている『異世界おじさん』(殆ど死んでいる 著、KADOKAWA)は、「異世界から帰ってきた」という異色の設定で注目を集めています。
たかふみの叔父は、17歳で交通事故に遭い昏睡状態に。17年後、34歳となった叔父が目覚めると、彼は異世界「グランバハマル」に転生していたといいます。叔父の頭がおかしくなったかと思いきや、叔父は「異世界にいた証拠を見せよう」と魔法を繰り出し、たかふみを驚愕させるのです。
異世界で身につけた能力を使ってYouTuberデビューした叔父とたかふみの共同生活。その中で語られるのは、血と涙とへし折られたフラグだらけの残念すぎる異世界ファンタジー・ライフだった……。
異世界転生ものといえば「異世界に転生したらチートスキルで無敵状態」「現代科学を持ち込み勇者に」といった設定を思い浮かべますが、『異世界おじさん』はその真逆を爆走するコメディ。
「グランバハマル」は、村人さえも美男美女の世界。転生直後、人を見つけて駆け寄ると彼のあまりの醜さにオークの亜種と勘違いされ狩られかけ、干ばつに苦しむ村で現代科学の知識と呪符を使い「水が湧き出る壺」を生み出せば、感謝どころか宗教的にアウトだったのか吊るされかけます。
酸いも甘いも知った30代には、「異世界転生して無双」よりもむしろこちらのほうが現実感があります。異世界に行っても、無敵のスキルがあっても、善行が裏目に出たり、勘違いされたり……ファンタジーの世界にもそんな現実が待ち受けているのではないでしょうか。その悲哀がしょうもなく笑えて、愛おしくもあります。
叔父が17歳だった頃は、ちょうどゲームハード戦争の最盛期。叔父が愛する「SE●Aハード」が過去のものとなったことに打ちのめされ、ガラケーがなくなってしまったことや『こ●亀』の連載終了に驚き、ネットでは語尾に「ダブリュー」をたくさんつけたコメントに困惑。
17年間の間に変化したさまざまなもの。30代が過ごした青春時代のノスタルジックなあるあるネタもたまりません。特に、ゲーム好きだった人はゲームネタだけで盛り上がれること間違いなし。
■「フラグ」を折りまくる、残念エピソードが続々
意気投合した2人は生活費を確保するためYouTubeで広告収入を得る。このYouTubeサムネが実際にありそうで絶妙
叔父はゲームプレイで培った知識・経験を異世界で存分に生かし、強大な敵も倒していきます。彼は基本的に常識人で善人で、能力もあります。なのに、異世界でもぼっちのまま。
叔父のいう「毎日まとわりついてきて人格否定や罵倒をしてくる」美しいエルフは、実は叔父を慕っているのに素直になれず、キツイ言葉に走ってしまうツンデレ。叔父の「魔物並みに醜い容姿」も関係なしに叔父を慕う彼女が、遠回しに告白しても気がつかずスルー。叔父は自身が意図せずプロポーズしてしまいOKをもらっていることにも気づかない。うまくいく要素が満載なのにもどかしい…それも叔父の魅力なのです。
根っからのぼっち思考な叔父に、「フラグ回収」という文字はありません。異世界のツンデレエルフにも美女たちにも目もくれず、ひたすら「SE●A」のことを想い生き抜く姿は清々しくもあります。
鈍感ではありますが、ジェントルな叔父には女性の読者も好感度が高いのではないでしょうか。服が焼け焦げ、肌が露わになったツンデレエルフには服を貸し、たかふみに恋心を寄せる幼馴染の藤宮にも礼儀正しい。自分にひどい仕打ちをした相手でも、窮地に陥れば助け、見返りを求めません。
いい人なのに自らフラグを折りまくり、「異世界でもうまくいかなかったなあ」とぽつりつぶやく、報われない鈍感系主人公のおじさんに、悲哀と愛おしさがあふれてきます。
なんてしょうもないんだ、でも大好きだぜ、そんなお前のこと……! 悲哀と愛おしさの幾重ものミルフィーユ、もしくは酸いと甘いの波状攻撃。口いっぱいに広がって、次のページを求めてしまう、やみつき漫画です。
(川俣綾加)
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