放送から30周年の『アイアンリーガー』 「正々堂々」と戦う姿が持つ意義とは
マグミクス / 2023年4月6日 7時25分
![放送から30周年の『アイアンリーガー』 「正々堂々」と戦う姿が持つ意義とは](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_147753_0-small.jpg)
■SDブームの真っただ中に生まれた!
本日4月6日は1993年に、TVアニメ『疾風!アイアンリーガー』が放送開始した日です。2023年で30周年になります。本作に登場するロボは二頭身で、いわゆる「SD」と呼ばれる形状でした。
この時代は、数年前から「SDキャラ」の作品が多く製作されています。その起点となるのが『SDガンダム』でした。『機動戦士ガンダム』に登場するMS(モビルスーツ)を二頭身にしたものです。このSDとは「スーパー・ディフォルメ」の略称でした。
SDガンダムが商品化されたのは、ガシャポンの塩化ビニール製フィギュアとして販売された1985年のことです。その後、模型やオモチャになることで、一躍ヒット商品になりました。奇しくも、この1985年からスタートした商品に、「ビックリマンチョコ」の「悪魔VS天使」シリーズもあります。
このSDガンダムとビックリマンチョコの大ヒットが、「低等身キャラブーム」につながり、各メーカーが競って追従することとなりました。そして1987年にTVアニメ作品として『ビックリマン』が放送されたことで、アニメ作品にも低等身キャラが進出することになっていきます。
『魔神英雄伝ワタル』(1988年)、『桃太郎伝説 PEACHBOY LEGEND』(1989年)、『キャッ党忍伝てやんでえ』(1990年)、『からくり剣豪伝ムサシロード』(1990年)など、さまざまなタイプの作品が製作されました。
このブームのけん引役だったのは『SDガンダム』です。なぜなら低等身のキャラを説明するとき、たいていの人はSDと呼称するからでした。代名詞となるほどSDという名前が浸透したのは、やはりブームの中心にいた証でしょう。このOVAだった『SDガンダム』が、『ガンバレ!SDガンダム大行進』としてTV放送された枠の直後に開始したのが、『アイアンリーガー』でした。
『アイアンリーガー』が、他のSD系作品と違う点がいくつかあります。そのひとつが「世界観」でした。SD系の作品がほとんど異世界モノであったのに対して、本作は現代の延長世界にあります。この異世界モノが人気だった理由としては、当時の流行だったRPG(ロール・プレイング・ゲーム)の影響が大きいでしょう。
そして、もうひとつ違う点が「SDである理由」です。その他の作品は、リアリティを考えれば、SDである必要は皆無。また、SDキャラがその世界でどうやって生まれたのか、作られたのかは濁されています。その点、『アイアンリーガー』は自立思考型超AIロボット「アイアンリーガー」が、人間によって作られたロボットであることを、しっかり描いていました。
もっとも、本作劇中に登場するアイアンリーガーが感情豊かで、怒ったり泣いたり笑ったりすることには機械的な説明がありません。機械が感情を持つことをテーマにした作品も少なくありませんが、本作ではそこは当たり前となっています。ある意味で、この部分はファンタジーと言えるかもしれません。
■フェアプレイの精神が持つ大きな意味
『疾風!アイアンリーガー』Blu-rayBOX (C)サンライズ
もうひとつの本作の特徴、それはバトル、いわゆる戦闘シーンがないことです。本作はあくまでスポーツが題材で、敵と戦うという意味が根本から違っていました。いわゆるバトルシーンが見せ場であるロボットアニメとしても、異例と言えるでしょう。そして意外なことですが、SD系作品はバトルものがほとんどです。
バトルがないからといって、見せ場や盛り上がりがないというわけではありません。本作の魅力はスポーツもの特有のゲーム展開にあり、その部分にグッと引き寄せられるのです。
物語展開は卑怯な手を使う相手に、主役である「野球リーガー」のマグナムエースたち「シルバーキャッスル」チームが、あくまでも正々堂々と正面から挑み、逆転劇を繰り広げる爽快感にありました。この燃える展開が、視聴者の目を釘付けにします。本作はロボットアニメでありながら、スポーツ根性ものとしての魅力があったのです。
そして、この「戦わないロボットアニメ」という要素が、本作の隠れたテーマでもあったと考えられます。本作の敵組織にあたるダークスポーツ財団のオーナーである「ギロチ」は、本来はスポーツ選手であるアイアンリーガーを、兵士に改造して戦場に送る「死の商人」でした。
兵士に改造されながらも、この戦場からアイアンリーガーに復帰したのが前述のマグナムエースで、スポーツとは名ばかりでロボット同士の壊しあい見せていた「アイアンリーグ」の正常化が目的だったのです。それゆえ、相手がどんな卑怯な手段を使っても、正々堂々と受けて立っていたのでした。
この点を深読みすると、ロボットアニメといえばバトルを入れるのが当たり前であり、視聴者もそれを望んで戦いを楽しんでいる風潮に対しての、スタッフからの「ひとつの答え」だったとも受け取れます。実際、作中ではほとんどの観客がラフプレーで壊しあうアイアンリーガーを見て楽しんでおり、これを痛烈な皮肉と取れば納得の演出かもしれません。
最終回では、ラスボスであるギロチがアイアンリーガーたちの正々堂々としたプレーを見ているうちに心を動かされ、これまでの行いを反省して純粋にスポーツを楽しむさままで描かれ、物語は終わります。このギロチの心変わりに、バトル中心のロボットアニメを楽しんでいた自分を重ねた人も多いのではないでしょうか。かく言う筆者も、重なるものを感じました。
当時の流行だった「SDロボット」を扱いながらも、物語は従来のロボットアニメへの「アンサー的作品」だったと思います。今でも主題歌を聞くと、あの頃の燃えたぎるドラマの数々が脳裏に浮かぶ作品です。『アイアンリーガー』は、その熱さゆえにいつまでも心に残ります。
(加々美利治)
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