『アイアンキング』最終回から50年 思わぬミスで風評被害や都市伝説を生んだ?
マグミクス / 2023年4月8日 10時55分
■当時の有名俳優による規格外の特撮ヒーロー作品
本日2023年4月8日は、半世紀前の1973年に特撮ヒーロー番組『アイアンキング』の最終回「東京大戦争」が放送された日です。特撮ヒーローブームだった当時、たいへん高い人気のあった作品でしたが、この最終回をめぐって後年に思わぬ「風評被害」を受けることになりました。
『アイアンキング』は1972年10月8日から放送開始し、全26話が放送された作品です。当時の作品としては珍しく、重くシリアスな内容ではなく、軽快でノリのいい展開が特徴として挙げられるでしょう。今風にいえば、「大人の鑑賞にも耐えうる作品」といったところです。
これにはいくつかの理由がありました。なかでも主人公である静弦太郎を演じた石橋正次さんが、当時すでに一般的にも知られるほどの大人気歌手であり、青春ドラマで活躍する有名俳優でもあったからというのが大きかったと思います。
本作放映中の1972年にNHK紅白歌合戦に出場していたといえば、そのネームバリューはわかるでしょう。近年では特撮番組をきっかけにスターダムを駆けあがる役者は少なくないですが、押しも押されぬ有名俳優が特撮番組の主演というのはあまり例がありません。
この弦太郎の相棒がアイアンキングに変身する霧島五郎です。演じるのは吉永小百合さんの相手役として数々の日活作品で活躍した浜田光夫さん。この二大俳優の軽快な掛け合いが本作の魅力となり、作品に心地よい独特のテンポを与えました。
本作はそれ以外にも他の特撮ヒーロー番組にはない仕掛けがあります。前述の文でわかると思いますが、本作でヒーローに変身するのは主人公ではなく相棒の方でした。しかもアイアンキングが敵を倒すよりも、弦太郎が敵の巨大ロボを倒すことが定番となっています。そのため、アイアンキングは「史上最弱のヒーロー」という不名誉な言われ方もされました。
後半でアイアンキングが敵を倒すという定番パターンも見られるようになりますが、あくまでも主人公は弦太郎。アイアンキングは主人公を助ける相棒役に徹します。その正体は弦太郎さえも知らず、後述する最終回でようやく正体がわかるという展開でした。
放送当時の人気も高く、その後にも根強いファンが多くいることで比較的、特撮ヒーローとしては知名度の高い作品です。しかし、とある事情から思わぬ風評被害を受けることになってしまいました。それは現在のコンプライアンスにてらせば、ありえない事件だったのです。
■都市伝説になった「幻の最終回」
アイアンキングとともに弦太郎と五郎が描かれる、『アイアンキング』Blu-ray(TCエンタテインメント)
それは1985年にテレビ埼玉で『アイアンキング』が再放送されていた時に起こりました。本作は第1話から順調に放送はされましたが、突然、第25話「アイアンキング大ピンチ!」で番組が打ち切られ、最終回の第26話「東京大戦争」が未放送となったまま次番組が放送開始されます。
つまり、ここで『アイアンキング』は最終回を放送しないまま番組を終えました。これだけでもあり得ない話ですが、実はこの第25話の終わり方に大きな問題があったのです。
第25話終盤で敵の宇虫人「タイタニアン」に憑依された五郎はアイアンキングに変身、怪獣とともに街を破壊するという衝撃の展開がありました。本放送でも衝撃的すぎる展開で、子供の頃の筆者は最終回までの1週間、怖い想像をしながら過ごしたのをおぼえています。この時のアイアンキングはタイタニアンと同じマントをまとい、不気味な雰囲気を演出していました。
これが最終回で弦太郎がアイアンキングのエネルギー切れを誘い、その正体が相棒だった五郎だったことを知ります。苦しむ五郎からタイタニアンを分離し、弦太郎はタイタニアンを撃退して作品はハッピーエンドを迎えます。
つまり、最終回を見られないということは、アイアンキングが敵になって暴れまわるところで終わるということ。自分の子供時代の気持ちを思い出すと、この放送を何も知らずに初めて見た人の気持ちが痛いほどわかります。トラウマになること間違いなしでしょう。
この出来事には続きがあります。都市伝説のひとつとして「ウルトラマンが町を破壊する最終回がある」という噂が独り歩きして、マスコミに報道されたことがありました。噂というものは尾ひれはひれがつくもの。伝聞が繰り返されることで情報が大げさになったのでしょう。
この事件に関して調査した人もいるようですが、節々で話が食い違ったこともあり、実名で特定の人物の名前を挙げているなどしています。あくまでも筆者が信頼できると思った情報をつなぎ合わせると、テレビ埼玉での放送は最終回が納入されていない状態で始まりました。
しかし、だからといって最初から最終回を放送しないつもりだったかというと、そこは断定できません。可能性のひとつとして、最終回は放送中に返却予定だったのではないかと筆者は推測しています。それが何らかの理由で、期日内に返却されなかったということではないでしょうか。
どちらにしても、現在のようにコンプライアンスが厳しく言われている昨今ならば、すべてそろっていない段階で放送に踏み切ることはありませんし、返却も速やかに行われていることでしょう。その点で考えれば、まだそこまで緊張感のなかった時代が引き起こした事件でした。
可哀想なのがこの時『アイアンキング』の最終回を見られなかった子供たちです。約40年ほど前の出来事ですから、みんなアラフォーになっていることでしょう。特撮ファンにでもなっていれば事情を察したかもしれませんが、そうでなければ最終回で敵に操られたままのヒーローがいたという記憶を引きずったままかもしれません。
どこかの地上波で『アイアンキング』の最終回だけでも放送されれば、ひょっとしたら当時トラウマだった子供たちの心も晴れるでしょう。そんな風に『アイアンキング』の最終回を見るたびに思います。
(加々美利治)
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