ロボットアニメ制作には必須! ファンも知らない現場の「裏技」とは
マグミクス / 2023年4月18日 6時10分
![ロボットアニメ制作には必須! ファンも知らない現場の「裏技」とは](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_149934_0-small.jpg)
■過酷スケジュールに必須な裏技とは
どんな仕事にもユーザーに見えない作業があるものです。それはTVアニメーションも同じです。そんななかでも、ファンの方が知ったら驚かれるだろうな、というものをひとつご紹介しましょう。
ご存じの通り、TVアニメーションはアニメーターが描く動画(その手前に原画)を使って作られますが、この動画は、たとえばまだまだアナログ制作だった1980年代ころですと、30分番組で1話につき5000枚から少なくとも3000枚程度を描かねばなりませんでした。
そこで想像してみてください。たとえば技術論は抜きにして『機動戦士ガンダム』に登場する「ハロ」を3000枚描くのと「ガンダム」を3000枚描くのと、どちらが時間がかかるでしょうか? もちろん答えはお分かりでしょう。
アナログ時代、ロボットなどの「メカもの」と呼ばれるアニメ番組の現場で、私が所属していたサンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)では、俗に「線減らし」という作業がありました。それは、文字通り「線を減らした設定画を作る」という、一種の「裏技」なのです。ただしスタッフでもこれを知っている人は多くはないでしょう。
当時のアナログアニメの場合、カラーであろうと無かろうと、基本的にはまず鉛筆で線画(原画・動画)が描かれます。そんな中でロボットや兵器などの機械は、たいがい角張った場所が多く面がはっきりしているため、どうしても線が多くなります。
しかし先に述べたように、膨大な枚数の動画を仕上げるには、できる限り描く線は少ない方が望ましく、場面によっては設定画どおりに全ての線を作画すると、かえって画面がゴチャついてしまうこともあります。そこで、作画の見本となる設定画から「不必要な線」を消してしまうのです。これが「線減らし」です。
ただし、ただヤミクモに消せばいいというものではありません。まず、彩色に必要な塗り分けとなる線は残します。さらに稼働部と立体であることを表す場所、正面と側面の境のような場所も消してはいけません。
でも厚みやディテールを表すような線はケースバイケース。画面の中で、どのくらいの大きさで描かれる可能性があるかなどを加味し判断します。この判断には、どのような立体で、どんな作画が行われるのかという、対象物への知識に加え、作品の内容と作画両面への知識も必要なのです。
基本的に分業であるTVアニメーションの仕事で、こうした作業内容を跨いだ知識を持っている人材は限られます。そこで、当時のサンライズでは、多くの場合、脚本内容から設定、仕上がる画面への過程も理解している「設定制作」という職種のスタッフが担当。(時代や制作班により同じ職名でも差があるので、全員が出来たわけではありません)アナログ時代ですから、デザイナーが描いたロボットやメカの設定画をコピーにとり、修正液、いわゆる「ミスノン」などで不必要と判断した線を一本一本消していくのです。
現実の世界では、実際にはそこに線があったとしても遠距離になれば見えなくなりますよね。それなのに、もし遠距離にも関わらず全部描かれていたら、対象物は線だらけになってしまいます。
つまり「線減らし」は「必要な省略を指示した見本を作る」ということ。元の設定画はズームアップした画面用、画面に全身が入るような作画には、線を減らした設定で描いてもらうというわけです(これは立体モデルなどを作るときにも大切なポイントです)。
自分の経験では『聖戦士ダンバイン』の自衛隊機や『機動戦士ガンダムSEED』が印象に残っています。戦闘機は専門誌に掲載されていた実機の三面図を参考にさせていただき、その段階で線を省略。戦闘機好きだった知識が役に立ちました。
『SEED』では、かつて同じ設定制作で同僚だった福田(己津央)監督から「今の現場に線減らしがわかるスタッフがいないので」と、すでにサンライズから身を引いていた私にご指名がありました。当然『SEED』の放映前なので、どんな作品になるのか解りませんでしたが、それまでの経験と彩色見本を参考に数体のガンダムたちの作画用線減らし設定を作りました。
デザイナーの描いたものに、生原稿ではないとはいえ手を加えてしまうのですから実に恐れ多い作業です。しかし、放映に間に合わすためのスケジュールが厳守されるTVアニメーション制作では、たとえ対象がデザイナーのものであろうと監督のものであろうと、作品を視聴者の元にきちんと届けるために、必要なら修正も省略もする。これが「現場」です。
ただしその前提には、デザイナーの理解と了解がありますし、行える作業者は前述のように専門知識を持つ限られたスタッフだけです。そこは誤解しないで下さいね。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
(風間洋(河原よしえ))
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