『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』の残念キャラ「ラドン」 哀愁誘うその出自
マグミクス / 2019年6月16日 11時0分
■「ラドン」初登場作は怪獣史に残る名作
米国のレジェンダリー・ピクチャーズ社が製作した『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が公開中です。ハリウッドでも人気抜群のゴジラをはじめ、モスラ、キングギドラら東宝特撮映画の怪獣たちが激しいバトルを繰り広げます。同作のなかでちょっと残念な役回りとなっている「ラドン」も、東宝怪獣のなかでも見逃せない存在なのです。
空飛ぶ大怪獣「ラドン」は、知名度ではゴジラに劣りますが、ラドンのデビュー作『空の大怪獣ラドン』(1956年)は、怪獣映画の名作として高く評価されています。『ゴジラ』(1954年)、『ゴジラの逆襲』(1955年)はモノクロ映画でしたが、初のカラー映画の怪獣として「紅蓮の怪鳥」ラドンは華やかに銀幕デビューを飾ったのです。
本多猪四郎監督と円谷英二特技監督とのタッグ作『ゴジラ』『ゴジラの逆襲』に続く『空の大怪獣ラドン』が成功したことで、東宝特撮シリーズは盤石なものとなります。ラドンが姿を見せるまでのサスペンス性たっぷりの演出、音速で空を飛ぶラドンによって崩壊する長崎の西海橋、福岡の街が壊滅するシーンのミニチュアワークの素晴らしさに加え、怪鳥ラドン自身によるドラマ性が観客の心を大きく揺さぶったのです。
九州の阿蘇山で生まれたラドンは空を飛ぶために行動範囲が広く、日本中を震撼させます。しかし、野生動物の持つ帰巣本能によって阿蘇山に帰ってくる習性があることを、古生物学者の柏木教授(平田昭彦)は指摘します。自衛隊はそこに目をつけ、阿蘇山をミサイル攻撃し、ラドンをマグマが噴出する火口の中へ沈めようとします。阿蘇山から流れ出る溶岩流によって、周辺の住民は避難を余儀なくされるという多大な犠牲を強いる作戦でした。
自衛隊の狙いどおり、ラドンは噴火を始めた火口の中にある巣に戻ろうとします。このとき、ラドンは実は2匹いることが判明するのです。火口の中に懸命に戻ろうとするラドンはきっと雌で、もしかしたら火口の中の巣には卵が残されていたのかもしれません。牡と思われるもう一匹もラドンも、その後を追って火口へと飛び込みます。2匹は夫婦だったのでしょうか。
自衛隊は見事にラドン撲滅作戦における勝利を収めたのですが、観客の胸には爽快感は湧かず、自分たちの巣を必死で守ろうとした2匹のラドンのけなげさと哀しみが強く印象に残ったのです。
■はみだし者の哀愁描く、『ラドン』脚本家の数奇な人生
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怪獣映画史に残る珠玉のラストシーンとなった『空の大怪獣ラドン』のシナリオを手掛けたのは、『ゴジラ』の脚本家である村田武雄氏、そして『ラドン』をきっかけに東宝特撮映画に欠かせない存在となる木村武氏でした。脚本家・木村武(本名・馬淵薫)は、この後も本多監督とコンビを組み、『地球防衛軍』(1957年)や『妖星ゴラス』(1962年)などの東宝特撮シリーズの代表作を生み出していきます。
中でも『ガス人間第一号』(1960年)と『マタンゴ』(1963年)は馬淵脚本の最高傑作で、今もカルト的な人気を誇っています。『ゴジラ』シリーズでは、サイケデリックな公害怪獣が登場する『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)などの脚本を手掛けています。
馬淵作品で描かれる怪獣・怪人たちには共通する大きな特徴があります。彼らは社会からのはみ出し者であり、人間社会の暗部を背負って生きているということです。ラドンも核実験による放射能によって目覚めた古代の恐竜の生き残りでした。見た目は恐ろしいけれど、どこか哀愁をまとっているのが馬淵作品の怪獣・怪人たちなのです。
馬淵薫氏が木村武というペンネームを名乗っていたのには、理由がありました。戦前、彼は関西大学で演劇に傾倒していたのですが、やがて左翼運動に関わるようになり、獄中生活を経験します。
戦後、ようやく政治や思想の自由が認められる社会になりますが、馬淵は共産党からも追放の憂き目に遭います。食べていくために馬淵氏は、演劇仲間だった東宝の田中友幸プロデューサーを頼り、東宝特撮シリーズの脚本を書くようになったのでした。木村武という地味なペンネームには、暗い過去を隠すという意味合いもあったようです。
馬淵氏が生み出す怪獣・怪人たちは、社会に居場所のない悲しい日陰者の存在です。学校や家庭に自分の居場所を見つけられずにいた子どもたちは、『空の大怪獣ラドン』をはじめとする馬淵作品の怪獣・怪人たちに自分の姿を重ね合わせていたのかもしれません。
(長野辰次)
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