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『ガンダム』「中途半端」な全43話のナゾ 「大人の都合」に振り回された制作現場

マグミクス / 2023年4月25日 6時25分

『ガンダム』「中途半端」な全43話のナゾ 「大人の都合」に振り回された制作現場

■売り切りの「裏事情」

『機動戦士ガンダム』にお詳しい方はすでにご存じかとかと思いますが、その放送期間は10ヶ月で全43話。当時は1年12ヶ月、もしくは半年6ヶ月の番組が多かったなか、それは何故かについて世間では「視聴率が悪いので打ちきりになったから」と言われているようです。確かにそれは正しいのです。

 でも実はそれほど単純なものでも無かった……という裏事情をご紹介しておきましょう。

 現在ではさまざまな発信方法が可能にもなり、変則的な話数で制作されることも珍しくなくなったTVアニメーションですが、この『ガンダム』などが作られていた時代は、週刊TV番組の放送期間には一種の「通例」のようなものがありました。それが、「3ヶ月13本1(ワン)クール」という単位でした。

 ひと月は4週と5週があるので、それを3ヶ月続けると4×3=12に1本足した13本。これを1単位として「1(ワン)クール」と呼びます。半年=6ヶ月番組は「26本2(ツー)クール」、1年ならこの倍で「52本4(フォー)クール」となります。当時のTVアニメーションの多くは、2クール26本の半年、もしくは4クール52本の1年でした。

『ガンダム』も1年間4クール想定番組としてスタートしました。しかし実際は、先にご説明した2クールでも3クールでもない、変則な放映期間と話数で終了しました。

 当時のTVアニメは、まず2クール26本を基本として、半年放送を前提の契約がなされるのが通例でした。この半年の間にスポンサーなどは番組をスポンサーし続けるかどうかを決めます。

 往年のファンの方ならお分かりだと思いますが、あのころのアニメの多くが、25~26話くらいになると敵側のボスが変わったり、ロボット側がパワーアップしたりしたことも知っておいででしょう。それは、半年契約でスタートした番組の契約があと半年、つまり全52話への延長契約が叶ったからなのです。

 制作側は、常に契約が続くようにスポンサーに働きかけています。しかし、実際に始まってみたら商品が売れないなど、期待に添えない場合、契約の延長は難しくなります。そこで作品内容の見直しを行うわけです。

 ただし、ここで難しいのが制作期間と放映には半年近いズレがあることです。

 30分枠のアニメの制作には、理想は6ヶ月、最低でも3~4ヶ月が必要です。放送がはじまり、たとえば10話くらいの段階で収益に問題があると判断されても、その時の制作現場はすでに20話くらいを作り始めています。スポンサー側からしたら、ほんのふた月程度の間に2クール以降も続けるかを決めなくてはならないのです。

『ガンダム』の場合、前作の『無敵綱人ダイターン3』の玩具の売れ行きから、4クールの「はらづもり」で制作がはじまります。しかし放送を始めてみると、どうも成績が良くない。

 そこでサンライズ側はいち早く、いわゆる「パワーアップメカ」となるガンダム用の分離合体システムを持った支援用メカと、子供にも分かりやすい「敵やられメカ」としてのモビルアーマー等を物語に組み込む準備を始め、早くも23話時点で「Gアーマーシステム」を物語に加えます。

 一方、当然、準備するものが増える分、現場はおおわらわです。それでも、やはり『ガンダム』は「1年は難しい」という裁定が下り、現場に3クールめどで終了という決定が伝わります。つまり「打ち切り」です。これについて「スケジュールが大変だったので、正直それを聞いてバンザイした」と言っている制作スタッフもいます。

 ところが、ここからが『ガンダム』のスゴいところでした。Gアーマーシステムを加えた玩具が売れ始めたのです。

 これであわてたのはスポンサー側でした。もし3クールとなると、4月にスタートした番組は12月で終了になります。ところが玩具業界で一番収益を見込めるのが12月のクリスマスから1月の正月商戦なのです。そんな時期に番組そのものを終わらせては損というもの。そしてまたも下ったお達しが「1月いっぱいまでの放送延長」だったのです。

 52本のつもりが39本に減ってしまい、仕方なく内容も構成も変えていたら今度は43本に延ばせと言うのですから、監督やシリーズ構成者が大変なのはもちろんですし、やっとホッとしていた制作側は大あわてでさらに苦労するというオチが待っていたわけです。

 そういった意味でも『ガンダム』は一筋縄では語れないTVアニメだと言えるでしょうし、単に「打ち切りになった番組」ではなかったとも言えます。

 延長というのは本来「イイコト」なのでしょうが、大人の事情による「ちゃぶ台返し」で翻弄されるのは、結局は制作の現場ですから、似たような現場経験のある私個人は、スタッフには心から「お疲れさまでした」と申し上げたい番組なのです。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。

(風間洋(河原よしえ))

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