『スーパーマリオ』は黒歴史を塗り替える? 「日本発ゲーム」映画化は苦闘の歴史だった
マグミクス / 2023年4月25日 18時10分
■興収1000億円を突破した『ザ・スーパーマリオ』
陽気な配管工の兄弟、マリオ&ルイージが大活躍する人気ゲーム「マリオブラザーズ」がアニメーション映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』となり、世界的な大ヒット作となっています。全米では2023年4月5日に封切られ、公開2週間で興収908億円を記録。4月24日には世界興収1000億円を突破しています。
アニメ映画史上最高のオープニング成績となった『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、『ミニオンズ』(2015年)などで知られる米国のアニメスタジオ「イルミネーション」と日本のゲーム会社「任天堂」が共同で制作した作品です。日本では今週4月28日(金)より、いよいよ劇場公開されます。
自信家のマリオと心配性のルイージとの兄弟愛、ピーチ姫の意外なアクティブさ、キノピオのかわいらしさは、日本でも話題になることは確実でしょう。
一方、『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』の大成功に至るまでには、日本のゲームを原作とした映画たちが歩んだ苦難の道のりがありました。世界を魅了した「マリオブラザーズ」をはじめとする、日本発の人気ゲームの映画化の歴史を振り返ります。
■デニス・ホッパーが怪演したハリウッド実写版
1993年の映画『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』DVD(TCエンタテインメント)
1983年に「任天堂」から発売されたゲーム『マリオブラザーズ』は、全米でも大ヒットしました。この人気に目をつけたハリウッドは、実写映画『スーパーマリオ 魔界帝国の女神』(1993年)を制作します。
主人公のマリオは、実写とアニメを融合させた『ロジャーラビット』(1989年)にも主演した名優ボブ・ホプキンス。そして、恐竜帝国の独裁者・クッパには、『イージーライダー』(1969年)や『ブルーベルベット』(1986年)で知られる怪優デニス・ホッパーが扮しています。
制作費50億円を投じた大作映画『スーパーマリオ』でしたが、興収的には残念な結果に終わりました。とはいえ、SF映画の名作『ブレードランナー』(1982年)の美術を手掛けたデビッド・スナイダーが生み出した恐竜帝国は、サイバーパンク感にあふれた魅力ある世界となっています。
親日家でもあったデニス・ホッパーは、5度結婚して、4人の子供がいました。まだ幼かった我が子を喜ばせるために、出演オファーを受けたようです。1日3時間を要した特殊メイクで、デニス・ホッパーはクッパになり切っています。
ゲームとは異なる設定・世界観になってしまった実写版『スーパーマリオ』ですが、今では映画マニアたちから愛されるカルト的な作品となっています。
■「不気味の谷」に泣いた『ファイナルファンタジー』
2001年公開の映画『ファイナルファンタジー』ポスタービジュアル
人気ゲームの映画化を語る上で伝説となっているのが、全米2382館でいっせい公開された3DCGアニメ『ファイナルファンタジー』(2001年)です。ゲーム会社「スクウェア」(現・スクウェア・エニックス)が1987年に発売したコンピューターゲーム「ファイナルファンタジー」シリーズの生みの親・坂口博信監督が日米混成スタッフを率い、制作費157億円を投じた超大作でした。
すでに「ピクサー」制作の『トイ・ストーリー』(1995年)などの3DCGアニメのヒット作はありましたが、人間を主人公にした本格的な3DCGアニメの長編映画は世界初の試みでした。大きな期待を集めた映画『ファイナルファンタジー』でしたが、全米では不評のため、上映は打ち切りに。日本でも10億円の興収にとどまっています。
女性科学者・アキをはじめとする主要キャラクターのリアルさには目を見張るものがありましたが、リアルすぎるために逆に「不気味の谷」(ロボットやCGなどの創造物が人間に似すぎることで、かえって違和感を抱かせてしまう現象)に陥ってしまったのです。
興行の世界で「たら、れば」を口にすることは無意味だと言われていますが、もしも映画『ファイナルファンタジー』が興行的に成功していれば、大友克洋監督の『AKIRA』(1988年)や押井守監督の『GHOST IN THE SHELL/攻殻機動隊』(1995年)に続く大きな波になっていたことでしょう。日本のエンタメ産業は世界市場と結びつき、今とはまったく違う産業形態になっていたかもしれません。
地球自体がひとつの生命体であると説く「ガイア理論」を物語に取り入れるなど、先進性に富んでいた坂口監督の大いなるチャレンジ精神は、讃えられるべきものだったと思います。その後に続く企画がなかったことが惜しまれます。
■壁をぶち破った、女優たちの渾身のアクション
苦闘が続いた日本発の人気ゲームの映画化でしたが、流れを変えたのが「カプコン」のホラーサバイバルゲーム『バイオハザード』でした。1996年に発売された同ゲームは、ミラ・ジョヴォヴィッチ主演の実写映画『バイオハザード』(2002年)として全世界で大ヒットします。
ポール・W・S・アンダーソン監督は米国の格闘ゲームをベースにした実写映画『モータル・コンバット』(1995年)も手掛けた大のゲーム好き。映画オリジナルキャラとなるアリスを主人公にしていますが、ゲームの世界観をうまく映画化しています。
ミラ・ジョヴォヴィッチやミシェル・ロドリゲスら女優たちの体を張ったアクションも、大きな話題となりました。英国のゲームを原作にした『トゥームレイダー』(2001年)に主演したアンジェリーナ・ジョリーと同様に、ミラも大ブレイクすることになります。生身の女優たちによる渾身のアクションが、ゲームと実写映画との壁をぶち破ったといえそうです。
同じく「カプコン」の格闘ゲーム『ストリートファイターII』は、ジャン=クロード・ヴァン・ダム主演作『ストリートファイター』(1994年)に続き、春麗を主人公にした『ストリートファイター ザ・レジェンド・オブ・チュンリー』(2009年)も実写映画化されています。
人気ゲームの映画化には、ゲーム世界に対するリスペクトが欠かせません。ゲームユーザーたちのゲームに熱中した想いに、映画表現で拮抗するのは容易ではないでしょう。その点、今回の『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は、大人になったゲームユーザーたちのノスタルジー感をしっかりと汲み取り、親子で楽しめる内容となっています。日本での公開が始まり、はたして興収記録をどこまで伸ばすのでしょうか。
(長野辰次)
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