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「TV局の都合」に振り回された『ライディーン』の監督交代劇 関係者が「富野さんは犠牲者」と語るワケ

マグミクス / 2023年5月3日 6時25分

「TV局の都合」に振り回された『ライディーン』の監督交代劇 関係者が「富野さんは犠牲者」と語るワケ

■監督交代劇の裏にある、TV局の都合とは

 いつの時代も、いわゆる「大人の事情」は時として理不尽なものです。

 当然ながらTVアニメーションはテレビ局なくしては放送できませんから、スポンサー、代理店と並んで、テレビ局も作品に関してある程度の影響力を持ちます。それでも通常は、契約を交わした時点で大まかな作品イメージに合意していますので、スポンサーのように売り上げに直結していない分、私の経験では、放送が始まれば現場にその影響が及ぶことはあまりなかったように思います。

 ところが、1975年4月~1976年3月に放送された『勇者ライディーン』は、このTV局の都合に翻弄された番組でした。

『ライディーン』は『機動戦士ガンダム』の4年前、同じく富野監督と作画の安彦良和さんが組んでの作品で、それまでにはなかった変形する玩具等の売れ行きも上々。今も根強いファンを維持し続けるロボットアニメです。

 ところが、富野監督はちょうど中間に当たる第26話で降板、第27話からは、それまで東京ムービー(当時)で『巨人の星』などのヒット作を手がけてきた長浜忠夫監督に交代します。

 これについて、今では文化人としても著名となった富野監督自身含め、メディアの多くで「視聴率が悪かったので降板となった」と語られています。もちろん、そういう面があったのは確かです。ですが、その裏にはTV局側の180度の方針転換という、ちょっと理不尽な理由も大きく関わっていました。

『ライディーン』の物語は、12000年前に妖魔帝国との戦いで滅んだムー帝国が残した神秘のスーパーロボット、ライディーンが妖魔帝国の復活に反応して現代に蘇り、ムー王家の血を引く主人公とともに、妖魔の魔力に操られる「化石獣(後半が巨烈獣)」と戦うという、ファンタジー色の濃い設定でした。

 このような作品が成立した理由には、当時、スプーン曲げで一斉を風靡したユリ・ゲラーをはじめとする「超能力」や「謎と不思議」をメディアが取りあげ、世間で大人気になったことがあります。この「流行」を作品に取り入れ、やはり当時、子供たちに大人気だった『マジンガーZ』などに並ぶロボットアニメ番組を目指したのです。

 この企画意図に当初はテレビ局側も賛成し放送が決定したのですが、始まってじきに、別の放送局が同様の超能力を取りあげた番組等でブレイクしたことが火種となり、『ライディーン』のキー局であったNET(現・テレビ朝日)は、突如「超能力否定」側に鞍替えしてしまいました。

 そんな局が超能力のような「神秘の力」を使った番組をやっていてはマズいと判断したのでしょう。そこで、制作会社、つまり当時は東北新社のアニメ部門のような立場だった、のちのサンライズの源流のひとつ、制作会社の「創映社」に「超能力なしに変更せよ」というお達しがくだったのです。

 この突然の指示は、現場にも監督だった富野さんにも青天の霹靂です。さまざまな設定やキャラクター、すでに放送してしまった部分にちりばめた関連部分を無いものにしなくてはなりません。それに、神秘性をなくしたらこの物語の根幹が変わってしまいます。当然、修正作業は混迷。そんな状態で視聴率も上るわけもなく、結局はその責任をかぶる形で富野監督は長浜監督にバトンを託すのです。

 この交代劇に関して、バトンを受けた長浜監督ご自身も、作品を局側の勝手な都合の犠牲にしたことに遺憾を示し、視聴率を上げてみせる代わりに、すこしでも元の設定や世界観を生かした作品にすべしと奮闘します。それは富野監督が当初考えていたものとはかなり異なったものになりましたが、主人公が時を越えたムーの王女の息子であったり、ライディーン自体も、ムートロンという神秘的な力を宿した存在であったりするなど、ファンタジックな要素は最後まで貫かれました。

 この話には、さらに続きがあります。そんなNET側は『ライディーン』の放送が終了してほんのひと月後の5月初旬に、当時、やはり話題となった「ジェラール・クロワゼ(当時の日本ではクロワゼッツもしくはクロワゼット)」という超能力者を取り上げた特番をなぜか放送し、たまたま取り扱った事件でレポート中に犠牲者が発見されたため大評判になります。この手のひら返しに長浜監督は大激怒。局側に抗議の手紙を送ったがなんの返答もなかったと、当時の同人ファンクラブ誌に怒りの寄稿をされています(特集ライディーンPART2 昭和51年9月AFC発行)。

 結局、局の都合で振り回されたのは番組そのものですし、まるで犯人のような格好で監督交代を余儀なくされた富野監督は、まさに「とばっちり食らった」とも言えるでしょう。

 この件については、長浜監督だけでなく、安彦良和さんも含め、当時の関係者の多くが「富野さんは犠牲者」と言っており、「降板は視聴率が悪かったから」という富野監督の不名誉な認識が多少なりと改められたらいいなと常々考えていたので、当件を紹介させていただいた次第です。

【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。

(風間洋(河原よしえ))

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