『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』のラスボス、キングギドラの鮮烈すぎるデビュー
マグミクス / 2019年6月18日 19時0分
■絶対的な破壊者としてのキングギドラ
ゴジラの大ファンを自認するマイケル・ドハティ監督が手掛けた『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が公開中です。ハリウッド版『GODZILLA ゴジラ』(2014年)に続いての登場となるゴジラは、“モンスター・ゼロ”と呼ばれる宿敵キングギドラと激突することになります。龍を思わせる長い首を3つ持ち、全身が金ピカという派手な容姿は、アメリカでも人気のようです。
そんなキングギドラが初めて登場する映画は、本多猪四郎監督の『三大怪獣 地球最大の決戦』(1964年)でした。宇宙からやって来た絶対的な破壊者として地球に現われます。怪獣界のラスボスを思わせる迫力と貫禄があり、ゴジラ、モスラ、ラドンがそれぞれ単独で戦っても歯が立たない強敵だったのです。
地球上の生命をすべて消滅させかねない巨大な外敵を撃退するため、幼虫のモスラが先頭に立ち、ゴジラ、ラドンは初めて協調して戦うことに。人気ヒーローが一堂にそろう『アベンジャーズ』や『ジャスティス・リーグ』のようなゴージャスな展開に、当時の子どもたちは大興奮しました。
ゴジラがモスラに説得され、人類側の味方になるという展開は賛否を呼ぶことになりますが、『地球最大の決戦』にはもうひとつ見どころがありました。キングギドラによって地球が滅亡の危機に瀕することを自称“金星人”のセルジナ公国のサルノ王女(若林映子)が予言するという、オカルトめいたサイドストーリーです。
物語の序盤、サルノ王女の乗る旅客機は何者かによって撃墜され、事故のショックからサルノ王女は予知能力に目覚め、地球にかつてない危機が訪れていることを予言するのでした。1970年代に大ブームを起こした「ノストラダムスの大予言」を先取りした内容だったのです。
石ノ森章太郎&平井和正原作のSFアニメ『幻魔大戦』(1983年)を観たときも驚きました。小国の王女ルーナが地球の救世主として目覚め、他のエスパーたちと協力して宇宙を滅ぼす「幻魔」と戦うという設定は、『地球最大の決戦』とよく似ていたからです。原作コミック『幻魔大戦』の連載がスタートしたのが1967年なので、『地球最大の決戦』のほうが先行していたことは確かです。
■『ウルトラマン』に受け継がれる脚本家の系譜
ウルトラマン50周年の節目に刊行された、『ウルトラマン ビジュアルブック 特別編』(画像:ぴあ)
本多監督が円熟の演出ぶりを見せた『地球最大の決戦』のシナリオを担当したのは、『モスラ』(1961年)や『モスラ対ゴジラ』(1964年)も手掛けた関沢新一です。関沢の脚本は、どれもストーリーが明快かつテンポがよく綴られ、怪獣たちは気持ちのいいほどの暴れっぷりを見せてくれる娯楽作ばかりです。
関沢の描く怪獣たちは、人間たちが畏敬の念を抱く異形の荒神、エキゾチックさを感じさせる巨神のような存在です。そんな怪獣たちがまるでプロレスのバトルロイヤルのようにぶつかり合う陽気さが、関沢脚本には感じられます。
『空の大怪獣ラドン』(1956年)や『ゴジラ対ヘドラ』(1971年)の脚本家・木村武、本名・馬淵薫の哀愁漂う怪獣たちとは、真逆の魅力が関沢脚本にはあったのです。陰と陽、月と太陽、馬淵薫と関沢新一というタイプのまったく異なる2人の脚本家がいたことで、東宝特撮映画は多種多様な作品が生み出されたのです。
『地球最大の決戦』が公開された1964年は、東京五輪開催の年でもあり、テレビが一般家庭へと普及し、映画界は徐々に斜陽の時代を迎えることになります。
そんななか、ゴジラブームに続く「怪獣ブーム」を呼ぶことになったのが、円谷英二が監修した特撮ドラマの金字塔『ウルトラマン』『ウルトラセブン』(TBS系)です。これらを成功に導いた若き脚本家・金城哲夫は、円谷英二の紹介で関沢に師事し、シナリオの書き方を身につけたといわれています。
ウルトラマンらが怪獣や宇宙人をやっつけて、地球の平和を守るという1話完結の分かりやすいストーリーは、関沢譲りのもののようです。
その一方で金城は、『ウルトラセブン』の第42話「ノンマルトの使者」のような、人類のアンデンティティーに疑問を投げかける問題作も発表するようになります。「ノンマルトの使者」には関沢色はなく、馬淵薫寄りの社会派作品となっています。東宝特撮シリーズで真逆の魅力を放った関沢新一と馬淵薫という2つの才能は、テレビでも大きな影響を与え続けたといえるでしょう。
(長野辰次)
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