ファミコン『スーパーマリオ』は元々「256ワールド」あった? 禁断の裏技の真相
マグミクス / 2023年4月27日 21時10分
■総ワールド数が「256」といわれる理由とは?
1985年に任天堂から発売された『スーパーマリオブラザーズ』は、ファミコンで最も売れたソフトとして絶大な人気を集めていました。それだけ多くの人がプレイしたゲームなので、いわゆる裏技やバグ技といったものは多数報告されているのですが、なかでも衝撃的だったのが「256ワールド」などと呼ばれるバグ技でした。
『スーパーマリオ』は、ワールド1-1からスタートし、1-4をクリアすると2-1に進む……という流れになっていて、最終面はワールド8-4です。ところが9-1に進んだとか、変な絵文字で表されるワールドに進んだといった報告があいつぎました。
そして現在では、本作には正規の8ワールドを含めて全部で256ワールドあるということがわかり、ネットでは「256W」などと表記されています。しかし、これはカセットのなかに256ワールド分のデータが隠されていたということではありません。
みなさん「水道管ゲーム」はご存じですか? 直線や十字、曲線などの汎用的な水道管の絵が描かれたカードを四方につなげていくゲームです。『スーパーマリオ』のワールドとは、開発者があらかじめこのカードを並べて作ったものだと考えるとわかりやすいでしょう。プレイ中、似たような部分があるのはそのためです。
カードゲーム「水道管ゲーム」(トミーダイレクト)は、 バルブから蛇口の先まで、水漏れがないようにつなげていく
例えば「ワールド1-1」は「カードNo.95」から始まり、次に「No.43」、「No.43」は地下への分岐があり、右には「No.14」下には「No.33」が続く……という具合にカードを並べ、「この1セットをワールド1-1とする」などと決めるわけです。こうすることで、カードを組み替えて多彩なワールドを作ることができ、容量削減にひと役買ったようです。
開発者はこのセットを8-4までしか用意していませんでしたが、バグ技を使うことで「正しくない数字をカードNoだと勘違いしてしまう現象」を引き起こすことができました。データというものは全て数字ですから、勘違いのパターンも無数に生まれます。『スーパーマリオ』の場合、仕様の制約でそれが256個だったということなのです。
では、それを引き起こす「バグ技」とはどういうものだったのでしょう?
有名な方法は『テニス』(1984年、任天堂)を使うことでしょう。やり方は割愛しますが、この技のポイントは「電源を切らずにカセットを入れ替える」点です(実際にやるとファミコン本体やカセットが破損する恐れがあります)。
■危険を冒すことで何が起きるのか?
ファミコンソフト『テニス』(任天堂)のプレイ画面。これを使うことで「256ワールド」を遊べた……かも?
ファミコンは本体のRAM(ラム)と呼ばれる一時記憶領域にゲーム情報の一部を読み込み、必要に応じてここから情報を呼び出してゲームを実行します。この情報は電源を切るまで消えません。ですから電源が入ったままゲームを入れ替えると、前のゲームの情報がRAMに残った状態で次のゲームが始まります。
『テニス』を使ったバグ技は、『スーパーマリオ』のデータをRAMに残したまま、『テニス』のデータでその一部を書き換え『スーパーマリオ』に戻すことによって、256ワールド中の「どれか」が始まるというものでした。
さて『スーパーマリオ』のカセットにはワールドのデータが書き込まれていますが、これは決まった順番で連続になっています。例えば「ワールド番号」「最初のカードNo」「次のカードNo」……「そのワールドの最後のカードNo」「次のワールド番号」……といった具合です。
通常では当然「ワールド番号」~「そのワールドの最後のカードNo」までを1セットとして読み込みますが、RAMの内容がおかしな状態ではこれがズレることがあるのです。仮に読み込む数字の先頭が1つ右にズレたとすれば、「最初のカードNo」~「次のワールド番号」までを1セットとして扱うことになり、「最初のカードNo」をワールド番号として画面に表示してしまいます。この記事の例では「最初のカードNo」を「95」と書きましたから、ワールド「9-5」が始まるといった具合です。
これが予期しないワールドが始まってしまう原理ですが、RAMの内容はゲームカセットの入れ替えだけではなく、電気ノイズによっても書き換わってしまいます。現実にはそれが大多数でしょう。そのため、バグ技など使った憶えがないのに変なステージが始まったという人は数多くいましたし、プロデューサーの宮本茂氏も電気ノイズが原因だと述べています。
なお余談ですが、この電気ノイズが引き起こす有名なトラブルが、バッテリーバックアップのデータが消える現象です。
ただゲームカセットの挿し換えや電気ノイズに頼ったやり方では、256面中どれが遊べるかわかりません。しかし『ファミリーベーシック』でプログラムを組み、好きな値をRAMに書き込む手法が発見されると、自由にワールドを読み出すことができるようになりました。こうした研究の進歩によって、今では「256ワールド」の全容が明らかになっているのです。
(タシロハヤト)
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