「バカ映画の巨匠」河崎実監督が語る、新時代の映画づくりと特撮漬けの30年
マグミクス / 2019年6月21日 17時40分
■新作映画の「主役」を買ったファン
自身も出演する特撮ヒーロー『電エース』シリーズをはじめ、『いかレスラー』『日本以外全部沈没』『ズラ刑事』『地球防衛未亡人』などの作品を世に送り出し、「バカ映画の巨匠」を名乗る河崎実監督。特撮漬けの30年と、常識にとらわれない映画づくりについて、お話を聞きました。
——『電エース』30周年を記念した著書『バカ映画一直線! 河崎実監督のすばらしき世界』が徳間書店から発売されました。
河崎実(以下、敬称略) 実のところを話すと、僕のファンのなかに徳間書店の編集者と知り合いがいて、その方が熱心に売り込んでくれたんです。そうでもしないと、今どき本なんか出せません。僕の顔写真だけじゃ売れないので、表紙カバーには僕の映画に出てくれた斎藤工、壇蜜、純烈らの写真をあざとく載せています(笑)。
——ファンが出版社に売り込んでくれた! ファンってありがたいですね。
河崎 本当にありがたい。僕がこれまで映画を撮り続けてこられたのは、すべてファンのおかげです。最近だと日本橋三越のお正月の福袋で「486万円で河崎実監督があなたを主演に特撮SF映画を撮る」という企画を募集したところ、本当に「撮ってほしい」という人が現われて驚きました。
製作費300万円の『カメラを止めるな!』(2018年)が大ヒットしたでしょ。それで考えた企画なんです。希望者が2名いたので厳正な抽選の結果、河崎作品のファンだという女性が権利を手に入れました。その方の主演作品として今年7月に撮影することが決まっています。すごい時代になりました(笑)。
——出演者が出資するワークショップスタイルの『カメ止め』が31億円の大ヒットを記録したことで、新しい映画ビジネスが誕生しつつあるんですね。
河崎 『電エース』シリーズは、すでに5年前からクラウドファンディングでファンから製作費を募って撮っています。「中国で撮らないか?」という話もあるんです。僕の映画は『いかレスラー』(04年)とか『コアラ課長』(06年)とかキャラクターものが多いので、外国人にも分かりやすくて海外でけっこう売れるんです。
中国では「ウルトラマンで西遊記をやってほしい」と頼まれたこともあります。今、中国はお金がありますから。ウルトラマンはすでにパブリックドメイン扱いなので、できないことはないんですが、海外で仕事をすると気苦労も多いので、国内でゆる〜くやっていたほうがいいかなぁとも思っているんです。電エースが上海タワーを手にして戦うシーンは撮ってみたいけど(笑)。
■主な製作手法はクラウドファンディング
『電エース』シリーズ最新作、『電エースキック』は、クラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で資金を募って製作された(募集ページを編集部にて一部加工)
——監督、すみません。『電エース』30周年といっても『電エース』を知らないユーザーもいると思うので、監督から改めて説明をお願いできますか?
河崎 電エースは身長2000メートル、東京タワーを持って戦う正義のヒーローです。しかも、気持ちよくなると変身するんです。そこがポイントですね。人間の快楽は、お酒、女、温泉などがありますが、基本、ビールを呑んで「プハッー」とやると気持ちよくなって、電エースに巨大変身します。常識を超えた男、それが電エースなんです。第一話はYouTubeで無料配信しています。
——『電エース』を撮れば、監督も気持ちいいし、ファンも気持ちよくなるわけですね。でも、よく30年も続きました。
河崎 奇蹟ですよ。「電エースの兄妹にならないか?」とファンに出演を呼び掛けたところ、26人も集まったんです。彼らが1人3万円出してくれたことで完成したのが『母さん助けて 電エース』(2014年)。それからはクラウドファンディングという形でファンからの支援で撮り続けているんです。
まぁ、僕が監督兼プロデューサーで、出資者みんなに完成したDVDや特典を郵送するなどの手間は掛かりますが、クラウドファンディングを成功させるコツは分かったので、手堅いスタイルとして続けていこうと思っています。35ミリフィルムで撮影していた時代と違って、今は400万〜500万円で映画は撮れますから。
■映画制作で大切な、もうひとつの要素とは?
壇蜜が主演をつとめた『地球防衛未亡人』 DVD(竹書房)
——萌えカルチャーを先取りした『地球防衛少女イコちゃん』、ブレイク直前の中川翔子を起用した『兜王ビートル』(2005年)、モト冬樹主演作『ヅラ刑事』(2006年)など多彩な作品を生み出してこられましたが、つらかった時期もありますか?
河崎 30年もやっていると、いい時もあれば、ダメな時もあります。製作費1億5000万円を投じた『ギララの逆襲 洞爺湖サミット危機一発』(08年)を松竹系で全国公開したときは大変でした。ベネチア映画祭に招待されたりもしたんだけど、興行的にはコケて、病気で入院するわ、その頃付き合っていた彼女にも振られるわで、さんざんでした(笑)。
——しんどい体験も笑って語るところが、河崎監督の素晴らしさですね。2015年には19歳年下の一般女性と結婚、『大怪獣モノ』(2016年)をはじめ爆笑特撮映画を撮り続けています。
河崎 映画を製作するのは、やっぱり波が必要です。ヒット作『地球防衛未亡人』はブレイク中の壇蜜が企画を気に入って出演OKしてくれたことが大きかったし、『日本以外全部沈没』は樋口真嗣監督の『日本沈没』(06年)の公開に便乗して話題性抜群でした(笑)。来年は東京五輪もあるし、ハリウッド大作『ゴジラ対キングコング』も公開されるでしょ。この2つに便乗したサイコーな怪獣映画を企画しているところなので、ぜひ楽しみにしていてください(笑)。
●河崎実(かわさき・みのる)
1958年東京都生まれ。明治大学在学中から自主映画を撮り、オリジナルビデオ作品『地球防衛少女イコちゃん』(87年)で商業デビュー。劇場公開された『日本以外全部沈没』(06年)はスマッシュヒットを記録し、東京スポーツ映画大賞特別賞を受賞。他にも『いかレスラー』(04年)、『ヅラ刑事』(06年)、『地球防衛未亡人』(14年)、『干支天使チアラット』(17年)など爆笑特撮映画を撮り続けている。現在、初めての書き下ろし本『バカ映画一直線! 河崎実監督のすばらしき世界』(徳間書店)が発売中。
(長野辰次)
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