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「シニア化するオタク」問題、生前見積りは定着するか? 河崎実監督に聞く

マグミクス / 2019年6月23日 11時0分

「シニア化するオタク」問題、生前見積りは定着するか? 河崎実監督に聞く

■「還暦」迎えても元気なクリエイターたち

『日本以外全部沈没』(2006年)や『地球防衛未亡人』(2014年)などのヒット作を放ってきた河崎実監督は、1960年代にテレビ放映された『ウルトラマン』などを観て育った「オタク第一世代」です。長年収集したコレクションを持ちながら、シニア化していくオタク世代の切実な問題について語ってもらいました。

——萌えカルチャーを先取りしたSFコメディ『地球防衛少女イコちゃん』(1987年)で商業デビューした河崎監督は、1958年生まれ。還暦なんですね。

河崎実(以下敬称略) みうらじゅん、岡田斗司夫も同年生まれです。「オタク」と呼ばれ出した世代が還暦を迎えたわけです。よく30年以上も特撮映画を撮り続けてこられたなぁと自分でも思います。みうらじゅんが言っていましたが、「またやってる」を通り越して「まだやってる」と言われることがプロの称号だと(笑)。僕の両親は父96歳、母94歳と介護知らずで元気なので、DNA的にはこれからまだ30年くらい僕は映画を撮り続けるつもりでいます(笑)。

——今のシニア世代はとても元気ですよね。

河崎 そうなんです。先日もね、『地球防衛少女イコちゃん』の第1作に出演してくれた吉田照美さんが68歳になったことがきっかけで、吉田照美主演作『ロバマン』を撮ることになったんです。

—68(ロバ)歳のニューヒーロー『ロバマン』ですか。クラウドファンディングで製作費を募集し、目標額の2倍以上も集まったそうですね。

河崎 最近は、『地球防衛少女イコちゃん』や自主映画『エスパレイザー』(1983年)もクラファンで資金を募ってDVD化しました。『エスパレイザー』のDVD化は特に思い入れがあるんです。

 というのも『エスパレイザー』にスタッフとして参加していた上松辰巳くんがね、中野の「まんだらけ」で倒れて、その後亡くなったんです。まだ58歳だった。彼は腕のいい造形師で、『エスパレイザー』のヒーロースーツは彼がデザインし、『電エース』のスーツもそれを流用したものでした。彼を追悼する意味も込めて、『エスパレイザー』をDVD化したんです。彼は生涯独身だったんだけど、家族は彼が残したコレクションをどう整理すればいいのかで悩んだみたいだね。

■「生きている間は手放したくない」心情も

オタク向けグッズの生前見積サービスを開始した「まんだらけ」が入居する、中野ブロードウェイ(画像:写真AC)

——コレクターがふいに亡くなった場合、残された収集品はどうなるのか。「まんだらけ」が無料の「生前見積サービス」を2016年から始めた時は、話題になりました。

河崎 オタクの人たちは必ずグッズを2つ買うからね。観賞用と保存用と。それで、すぐ部屋がいっぱいになってしまう。『電エース』に出演し続けている漫画家の加藤礼次朗はフィギュアおたくなんだけど、彼の家はフィギュアだらけ。浴室にも並んでいるからね(笑)。

 ただ、せっかく集めたグッズも『ウルトラマン』関係だとマニアも高齢化して、マーケットが縮小してきている。これから売っても、大した金額にはならないんです。

——53歳で亡くなった米澤嘉博氏が残した膨大なマンガ本を保存した「明治大学 米沢嘉博記念図書館」が建てられるようなケースは、非常にレアなわけですね。

河崎 あの図書館の蔵書は確かにすごい。でも、基本的にオタクの人たちは自分が生きている間は手放したがらない。庵野秀明監督が「特撮博物館」を開いたとき、ウルトラマン関係のものをアーカイブしようと募集したけど、あまり集まらなかったみたいです。

「生前見積」は簡単には浸透しないんじゃないかな。僕も一時期は、ソフビ怪獣を日本でいちばん多く持っていたんですが、自主映画を作る際に思い切って売りました。今は少ししか手元に置いていません。僕が死んだらどうするかは、一応は妻に話しています。

■マニアである限り、本家をこえることはできない

河崎実監督作品のヒーローや怪獣をモチーフにしたフィギュア。ファンが自作して寄贈したという (イベントスペース「ルナベース」にてマグミクス編集部撮影)

——『ウルトラマン』『ウルトラセブン』のディレクターだった実相寺昭雄監督は、クラシック音楽の造詣の深さからオペラの演出も手掛ける一方、「けろけろけろっぴ」やピンクチラシなど、ユニークな収集家でもあったそうですね。

河崎 実相寺監督の遺品の多くは、奥さんである女優の原佐知子さんが川崎市民ミュージアムに寄贈しました。ピンクチラシは市には寄贈できないということで、僕が譲り受けましたが(笑)。

 実相寺監督は、いわば「天才おたく」でした。フランス語やドイツ語もペラペラで、東京藝術大学の名誉教授も務めていました。大変なインテリなんですが、僕や加藤礼次朗らとおたく話でも盛り上がる人でもあったんです。長嶋茂雄さんやイチローと同じです。長嶋さんやイチローは天才アスリートだけど、同時に大変な野球オタクでもある。

 怪獣オタクも突き詰めれば、みんな円谷英二や成田亨に憧れるわけですが、マニアやコレクターである限りは、そこを超えることはできません。それで僕の場合は、映画監督として怪獣映画を撮る側に回ったんです。

——おたく世代は独身者も多いので、これからさらに高齢化が進むと、介護問題などもクローズアップされることになりそうです。

河崎 おたく専門の老人ホームができるんじゃないかとか耳にするけど、どうでしょうね。おたくは基本的に性格は優しいけど、我も強いから共同生活には向かないんじゃないかな。

 僕は中野で「ルナベース」というイベントスペースをやっているんですが、ここは日替わりで地下アイドルやお笑い芸人たちがファンを集めてイベントを開いています。一種のコミュニティビジネスだけど、こういうゆるい関係は今後もニーズがあると思います。僕が敬愛する“若大将”こと加山雄三が言っています、「過去を悔やみ、将来のことを不安に思うより、今を全力で楽しもう」と。そこに尽きるんじゃないでしょうか(笑)。

●河崎実(かわさき・みのる)
1958年東京都生まれ。明治大学在学中から自主映画を撮り、オリジナルビデオ作品『地球防衛少女イコちゃん』(87年)で商業デビュー。劇場公開された『日本以外全部沈没』(06年)はスマッシュヒットを記録し、東京スポーツ映画大賞特別賞を受賞。他にも『いかレスラー』(04年)、『ヅラ刑事』(06年)、『地球防衛未亡人』(14年)、『干支天使チアラット』(17年)など爆笑特撮映画を撮り続けている。現在、初めての書き下ろし本『バカ映画一直線! 河崎実監督のすばらしき世界』(徳間書店)が発売中。

(長野辰次)

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