「若さ故の過ち」では済まない? 『まんが日本昔ばなし』の若者がやらかすトラウマ話
マグミクス / 2023年5月1日 20時25分
![「若さ故の過ち」では済まない? 『まんが日本昔ばなし』の若者がやらかすトラウマ話](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_153132_0-small.jpg)
■柳の精の復讐劇
1975年から1994年にかけて放送された『まんが日本昔ばなし』にはは、いわゆる「トラウマ回」と言われるエピソードがいくつかあります。なかには、若者が勢いに任せて行動し、悲惨な最期を迎える話もありました。今回はふたつ、特に印象に残るお話を紹介させていただきます。
●「十六人谷」: 1983年12月3日放送
今で言う富山県のある村に、弥助という年寄りが住んでおりました。弥助は囲炉裏を前に茶を飲みながら、目の前に座っている若い女に昔ばなしを聞かせます。
若いころの弥助は木こりとして働き、生計を立てていました。そんなある日、弥助は死んだ仲間の通夜に参列し、したたかに酒を飲みます。
家に帰った弥助を待っていたのは、見知らぬ若い女でした。女は「谷の柳の木だけは切ってくれんな?」と弥助に頼み込みましたが、弥助は頑として跳ねつけ、そのまま寝てしまいます。
女は「必ず聞いていただけると思っています」と言い残し、姿を消しました。翌日、弥助と15人の木こり仲間は予定通り谷に入り、それは見事な柳の木を見つけます。女の事を思い出した弥助は仲間を止めようとしましたが、喜び勇んだ若者たちは弥助に構わず、あっという間に木を切り倒してしまったのです。
その日の夜のことでした。弥助たちが寝入ったころ、小屋に女が姿を現しました。女は寝ている男たちに口づけると、舌を吸い取り次々と殺して行ったのです。
木こりたちはひとり、またひとりと殺されて行き、最後に弥助だけが残りました。目を覚ましていた弥助は近づいて来た女を山刀で切りつけ、かろうじて逃げ延びたのです。
それから時が経ち、おじいさんになった弥助は、目の前の女に昔ばなしを続けます。やがて舌を抜かれた弥助の死体が見つかったのは、真っ赤な夕陽が空を染めた頃合いでした。弥助は、なぜか恍惚とした表情を浮かべていたそうな。そして、この事件の犠牲者数にちなんで、その谷は「十六人谷」と呼ばれるようになりました。
「十六人谷」は『まんが日本昔ばなし』のなかでも、屈指のトラウマ回として知られています。特に、木こりたちを殺しに来た女の姿の恐ろしさはすさまじいものがあり、当時の子供たちはTVの前で震え上がったのではないでしょうか。大きな柳の木というお宝に舞い上がり、弥助が止めるのも聞かず切り倒してしまった、若い木こりたちの暴走が招いた悲劇は多くの教訓を秘めているように思えます。
■過ぎた力は破滅への一本道
●「とうせん坊」:1978年12月9日放送
「十六人谷」「とうせん坊」の演出を手掛けた小林治さんは、その他にも演出、監督などで代表作多数。画像はチーフディレクターを務めたアニメ『魔法の天使クリィミーマミ』キービジュアル (C)ぴえろ
むかしむかし、今の岩手県のあたりで、とうせん坊と呼ばれる大男が、高下駄の音をカッカと響かせながら、たいまつ片手に暴れまわっていたそうな。
とうせん坊には親がなく、小さな寺で育ちましたが、身体は大きいのに頭は少々足りない男で、いつも周りからはいじめられたり馬鹿にされたりしていました。そんな生活が嫌になったとうせん坊は観音堂にこもり、「力を下せえ、天下一の力持ちになって、世間の奴らをあっと言わせてやりてえ」と、涙を流しながら祈り続けました。
その日、とうせん坊の夢のなかに観音様が現れました。観音様から渡された手毬を食べたとうせん坊は、目覚めると望み通りにとんでもない怪力を授かっていたのです。
しかし、とうせん坊は突然与えられた力の使い方を知りません。村の奉納相撲に参加したのはいいものの、力の加減が分からず、他の参加者を次々と殴り殺してしまったのです。村から追い立てられたとうせん坊は山にこもりましたが、村人たちは居所を突き止め、仕返しのために留守の間に鍋へ糞をしていきました。
とうせん坊は怒り狂います。村に火をつけ、家畜を絞め殺し、人を殴り殺し、さんざんに暴れまわったのです。その後生まれた村から姿を消した彼は、それから数年後に越前(福井県)の「東尋坊」と呼ばれる岬の近くに住み着きました。東尋坊の景色も気に入って暮らしていたある日、人がよさそうな人びとに酒を進められたとうせん坊は、久しぶりに人の温かさに触れ、たっぷりと酒を飲み、酔いつぶれて寝てしまいます。
夢のなかでおっ母の歌う子守唄を聴いていたとうせん坊でしたが、目が覚めたとき、ぐるぐるに縛られて担ぎ上げられていました。「おっ母……」とうせん坊のつぶやきに、耳を傾ける者はおりません。とうせん坊はそのまま崖から投げ落とされ、海の藻屑と消えたのです。
その後、東尋坊で吹く春の強風は「とうせん坊」と呼ばれ、それはそれは恐れられるようになったそうな。
幼い頃から虐げられていた若者が力を与えられたらどうなるか、力に振り回されたらどうなるか。歳を取り、経験を積んだ人間ですら、力を持てば簡単に暴走するものです。若者であれば、なおのこと。もし特別な力を得る機会があれば、老いも若きも自らを省みて、その力を使う判断力が自らに備わっているかを、じっくり考える必要があるのでしょう。
(ゆうむら)
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