細田守監督が『未来のミライ』の裏側で描いた「生と死」の季節とは
マグミクス / 2019年7月12日 19時40分
■細田監督の子育て体験をアニメーション化
2018年7月に劇場公開された長編アニメ『未来のミライ』が7月12日(金)夜9時から日本テレビ系「金曜ロードSHOW!」で地上波初放映されます。本作を撮ったのは、細田守監督。『おおかみこどもの雨と雪』(2012年)では山村で暮らす母と子との葛藤、『バケモノの子』(2015年)では孤独な少年が人生の師と出会う物語を描きました。
そんな細田監督が自身の子育て体験をディテールたっぷりにドラマ化したのが『未来のミライ』です。子どもの成長だけでなく、子どもと向き合う親たちの成長も描いた作品です。
『おおかみこども−』(42.2億円)、『バケモノの子』(58.5億円)の大ヒットに比べると、『未来のミライ』は興収28.8億円という結果に留まりましたが、フランスのカンヌ国際映画祭では監督週間でプレミア上映され、また米国のアニー賞では日本初となるインディペンデント作品賞を受賞するなど、海外では高い評価を受けています。日本の観客は、4歳児である主人公・くんちゃん(声:上白石萌歌)のわがままぶりがリアルで鏡を見せられているような気がして、少々引いてしまったのかもしれません。
世界の中心は自分だと思い込んでいたくんちゃんですが、妹の未来ちゃんが誕生したことで状況が一変します。両親も祖父母も生まれたばかりの未来ちゃんに夢中で、疎外感を覚えたくんちゃんは空想の世界を冒険することになります。飼い犬・ゆっこと体が入れ替わったり、中学生に成長した未来ちゃん(声:黒木華)から“蜂ゲーム”されて人生初の快感を覚えるなど、愉快なエピソードがオムニバス形式で綴られているのが本作の特徴です。
現実と空想世界との境界線がまだ引かれていない4歳児くんちゃんの日常生活ですが、より印象に残るのは、くんちゃんが自転車にひとりで乗れるようになる成長エピソードではないでしょうか。
自転車にうまく乗れないくんちゃんは、夢の世界で出会った青年(声:福山雅治)から乗り物に乗るコツを教わることになるのです。青年はどこか父性的なものを感じさせ、くんちゃんは思わず「お父さん」と青年のことを呼ぶのでした。
足の不自由なその青年は、ちょっと驚きながらも、くんちゃんに懐かれてうれしそうでした。この青年はくんちゃんにとって、とても大切な存在であることが物語後半で明かされます。
■小説版で明らかになった、『未来のミライ』の裏設定
くんちゃんと生まれたばかりの未来 (C)2018 スタジオ地図
本編では、くんちゃんの曾祖父が戦争中に徴用され、船で体当たりする特攻隊に入れられていたことが、くんちゃんの母(声:麻生久美子)の口から語られます。船で体当たりする特攻隊とは、水上特攻艇のことを指しています。細田監督自身が執筆した小説『未来のミライ』(角川文庫)では、このように書かれています。
【水上部隊とは、改良したトラックのエンジンを積んだベニヤ板製の小型ボートに、爆弾を積んで体当たり攻撃をする隊のことである。敵国の本土侵攻に備えて編成された多くの特攻隊のうちのひとつだった。】
太平洋戦争時の日本軍の特攻隊といえば、零戦に爆弾を搭載した「神風特別攻撃隊」が有名ですが、他にも人間魚雷「回天」や肉弾ロケット「桜花」などが実戦に投入されています。
なかでも、ベニヤ板で作る特攻艇「震洋」は大量製産できることから、終戦間際には4000隻近くが本土決戦に備えて実戦配置されていました。フィリピン、沖縄、台湾にも派遣され、多くの命が散っています。大勢の若者たちの尊い犠牲の上で日本は終戦を迎え、民主国家として再出発することになったのです。
細田監督の作品には『時をかける少女』(2006年)や『サマーウォーズ』(2009年)など、夏をモチーフにしたものが多いことも特徴です。ひと夏の間に子どもたちは目覚ましい成長を遂げ、生を謳歌します。でも、その一方で死の影もしっかりと刻印されていたのです。日本人にとっての夏とは、生と死とが交差する特別な季節であることを、細田作品は思い出させてくれるのです。
(長野辰次)
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