『北斗の拳』に欠かせない「ザコの断末魔」には「工夫」や「同情の心」があった？

■『北斗の拳』で、演出に一役買ったザコキャラたちの断末魔

『北斗の拳』（原作：武論尊　作画：原哲夫）は1983年から1988年まで「週刊少年ジャンプ」で連載され、40年周年となった今でもたくさんのファンから支持されている作品です。核戦争後の混沌とする乱世を舞台に、ケンシロウが数々の強敵たちと闘いを繰り広げます。

　ケンシロウが使う「北斗神拳」は、当時のマンガファンにとって斬新な描写でした。身体の経絡秘孔を突くと内部から破裂して絶命するという設定は、読者に強い衝撃を与えています。なかでも、経絡秘孔を突かれたザコキャラが絶命するときの断末魔は特徴的で、ストーリーを盛り上げ、笑いも誘いました。

　例えば、ケンシロウが南斗聖拳シンの手下・ハートと闘ったときのことです。ただのザコキャラかと思いきや、死亡が分厚く「拳法殺し」と言われるハートの身体は、通常の攻撃ではダメージを与えられませんでした。そこでケンシロウは、蹴りでハートの脂肪を掻き分け、「北斗柔破斬」で身体の内部から破壊するのです。

　そして、ハートは「ひっ！！ひでぶっ！！」と叫んで絶命します。読者に強いインパクトを与えた「ひでぶっ！！」は、『北斗の拳』を読んでいない人でも知っている代表的な断末魔です。

　またバットが育った村をジャッカルの手下が襲撃した回にも、有名な断末魔が登場します。 ジャッカルの手下は、ケンシロウの「北斗断骨筋」を受けると「ゲッ！！あ～！あ～！あべし！！」と叫びながら絶命しました。「あべしっ！」も、『北斗の拳』ではお馴染みの断末魔です。特に有名な断末魔を残したこの男は、ただのザコではなく元プロボクサーという肩書でした。

　シンプルでありながら印象に残る断末魔ですが、なかには変わったものもあります。通りすがりの旅人に扮していたケンシロウが、ある村に辿り着いたときのこと。その村の人達は、ジャギの手下から拷問を受けていました。そこでケンシロウは拷問に使われていたノコギリを、ジャギの手下の頭に切りつけるのです。

　すると「バカ…おれじゃないるれ…ぱっびっぶぺっ　ぽおっ」と、叫びながら絶命します。ショッキングな描写ですが、それ異常に思わず笑ってしまう断末魔でした。この場面や、その他のさまざまな断末魔には、作画を担当していた原哲夫先生のこだわりがあったのです。

「月刊コミックゼノン」（2013年11月25日発売）のインタビューで、原哲夫先生は「本来ならノコギリが頭に刺さった時点で絶命してるはずなんですよ。でも、僕のイメージとしては、まだ脳が生きてる。」「あの痙攣みたいなイメージね。ノコギリを引くリズムと言葉がピタッとハマって」と語っています。

　ザコキャラの断末魔は、絶命の瞬間のリアリティを追及しつつ、言葉のリズムが生んだものだったのです。また、同インタビューで「人を殺すんで、本来であれば後味が悪いじゃないですか。だけど少年誌なんで、そこでスカッとさせないといけないんで。残虐性より爽快感の方が上回るというね」とコメントしています。グロテスクな描写ですが、読者を不快にさせない断末魔も意識していたことがうかがえます。

　また、ザコキャラの断末魔は、アニメになるとさらなる面白さを見せていました。声として聴くと、さらに印象が強くなり、鮮明に脳裏に焼きついてしまいます。アニメでは、声優の千葉繁さんが数多く演じていた「ザコキャラの断末魔」は、多くが千葉さんのアドリブで、ザコたちが順番に死んでいって、その最期の言葉を並べると「レバニラ炒めライス」と言っているなどの、衝撃的なセリフは今でも語り草です。

『北斗の拳』公式サイトのインタビューで、千葉さんは「まず、その言葉（断末魔）自体は遊び心から生まれるものなんです」と語っています。また、ザコキャラたちへの「愛情」や「可哀想」という気持ちを感じていたという千葉さんは、死んでいくそれぞれのキャラが最後に何を言いたかったのか、ということも考えていたそうです。

　インタビューで「ケンシロウを挑発するんだけど、強くないからすぐに殺されちゃう。そこで彼の人生は終わってしまうんですよ。だから僕は、その人生が終わるときになにを思うんだろうとか考える。」「台本を見たら盗賊AとかBとか、名前すら無いんですよね。名前すら無いのにメインキャラクターに殺される。こんな可哀想なことがあるかと。」と語る千葉さんがこだわって演じたザコたちは、もともとのキャラクターデザインのインパクトも相まって、ファンの記憶に焼き付いています。

（LUIS FIELD）