『初代ガンダム』ブームを支えたのは女性だった? 富野監督も「感謝」した熱烈なファン活動
マグミクス / 2023年5月23日 6時25分
![『初代ガンダム』ブームを支えたのは女性だった? 富野監督も「感謝」した熱烈なファン活動](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_157227_0-small.jpg)
■教会で「ガルマの49日」を執り行った女性ファンたち
1979年に放送されて以来、国民的アニメとなった『機動戦士ガンダム』。本放送時は視聴率低迷とスポンサーの玩具セールスの苦戦によって打ち切りになりましたが、実際は熱いファンが大勢生まれており、けっして「不人気な作品」ではありませんでした。
『ガンダム』の本放送時、その人気を支えたのは中高生を中心としたティーン層でした。なかでも目立っていたのが女性ファンです。
もっとも早く『ガンダム』を特集したアニメ雑誌は、創刊したばかりの『アニメック』6号でした(79年7月1日発売)。同号の読者投稿欄にはすでに女性ファンによるキャラクターの似顔絵や、女性ファンが結成した『ガンダム』ファンサークルの会員募集告知が掲載されています。
まず女性ファンが心惹かれたのは、安彦良和氏がデザインを手がけたキャラクターたちです。安彦キャラは、すでに『勇者ライディーン』や『超電磁ロボ コン・バトラーV』などの作品で女性ファンに衝撃を与えていました。アニメ・特撮研究家の氷川竜介氏は「躍動的な描線、美麗なプロポーション、端整でチャーミングな安彦キャラの容姿には、人気タレント並の求心力があるのです」と評しています(『日本アニメの革新』角川新書)。
78年に創刊されたアニメ雑誌『アニメージュ』では、9月号でアムロが表紙の『ガンダム』特集、11月号で安彦良和特集、12月号でシャアが表紙の『ガンダム』特集を組んでいます。いかに本放送時、安彦キャラの人気が高かったかがわかると思います。
特に人気を集めたのは、シャアとガルマでした。シャアについては、放送開始直後から似顔絵などの投書がテレビ局(名古屋テレビ)に殺到していました。その人気ぶりに驚いた関岡渉プロデューサーが、消えてしまう予定だったのを覆して「シャアだけは殺しちゃいかん」と富野由悠季監督に要望しています(『富野由悠季全仕事』)。投書の主体が女性ファンだったのは間違いないでしょう。
ガルマは第10話で戦死しますが、都内の教会に女性ファンが13人集まって「ガルマ・ザビの49日」を執り行ったそうです。命日の6月9日(第10話の放送日)は学校が忙しかったため、49日にしたのだそう。『アニメック』へのファンの反響を多数収録した書籍『機動戦士ガンダム 宇宙世紀vol.3 伝説編』によると、こうした女性ファンは他にもいたそうです。
■やおい、アニパロ、トミノコ族……女性ファンへの富野監督の反応は?
『シャア・アズナブルぴあ』(ぴあ)
『ガンダム』本放送時の女性ファンの熱気を伝えるエピソードとして、放送されていなかった地域に住んでいたファンたちの活動があります。『ガンダム』が放送されていなかった長野在住のある女性ファンは、他県に住む親類や友人に頼んで音声のみのテープを取り寄せ、それを聴いてファン活動をしていました。
また、『ガンダム』を街頭で流していた松本市の有線放送局の前には、ティーンの女性ファンらが10人ほど集まって無音の映像を見ていたそうです。放送局に放映願いの投書を続けていた女性ファンもいました。
拡大を続けていた同人誌即売会にも『ガンダム』ファンは進出します。コミックマーケット公式サイトにある年表を見ると、『ガンダム』放送中の79年12月に開催された「コミックマーケット13」には「折からのブームに、ガンダムのコーナーは大混雑となる」と記されています。当時のコミケには、シャアをはじめとした美形キャラを扱った同人誌(“やおい”ブームと言われました)が大量に発行され、『ガンダム』のパロディマンガが登場し(“アニパロ”という言葉が定着しました)、シャアやララァのコスプレをしたファン(“トミノコ族”と呼ばれました)が会場を闊歩していたそうです(『ガンダム・エイジ』)。これらの活動も女性ファンが中心です。
ちなみに『アニメック』編集部は男性が中心、放送中に彼らのもとへ集まって『ガンダム』を論じていたというSF仲間、アニメ仲間、特撮仲間も男性主体でした。男性ファンが立ち上げたメディアが『ガンダム』に注目し、それを媒介としながら大勢の女性ファンによって『ガンダム』ファンの底辺が広がったという図式があったわけです。
富野監督は女性ファンが非常に心強かったようで、繰り返し彼女たちへの感謝のコメントを残しています。「『ガンダム』も『ライディーン』も、初めに活動を始めたファンの90%は女の子だったんですよ」(『スーパーロボットマガジン』Vol.8)、「実は、ガンダムという作品を長く支えてくれたのは、女性のファンなんです」(『SkyPerfecTV!ガイド』2006年2月号)などです。富野監督によると、アフレコスタジオに数十人もの女子中高生が集まったこともあったそうです。
富野監督の発言を読んでいくと、女性ファンは単なる登場人物のファンや声優のファンではなく、登場人物たちの間で繰り広げられる人間関係や青春群像、つまりドラマの部分に惹かれていた様子がうかがえます。ロボットアニメ、SFアニメという枠組みを超えたファンが女性を中心に生まれていたことが、富野監督は非常に嬉しかったようです。
『ガンダム』は放送終了直後から再放送が全国で始まり、視聴率20%を超えるなど記録的な高視聴率を上げていきます。これは本放送中のファンの熱量が伝播していった結果でしょう。80年7月にガンプラが発売されて男子小学生を含めた男性ファンが爆発的に増え、81年3月に劇場版が公開されたことで『ガンダム』人気は決定的なものになりました。
余談ですが、劇場公開直前、名古屋テレビで公開放送された『ガンダム』特番を小学生だった筆者は見学しているのですが、予告編の「松竹富士」のマークが出ただけで絶叫したお姉さんたちの存在に驚いた記憶があります(司会者も驚いていました)。
それまでコアなアニメファン、特撮ファン、SFファンは男性が中心でしたが、『ガンダム』の多彩なキャラクター、濃密なドラマは多くの女性ファンを惹きつけて熱心なファン活動を生みました。今日まで続く『ガンダム』人気は、その最初期の段階で間違いなく女性ファンが大きな役割を担っていたのです。
(大山くまお)
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