トトロの「本名」？ サツキたちは元々1人？ 知られざる名作映画の「初期設定」

■公開時のポスターを見ると困惑？

　スタジオジブリの作品のなかでもいまだ絶大な人気を誇る『となりのトトロ』は、登場キャラクターなどの認知度が高く、言わずとも知れた国民的作品です。しかし、同作には意外と知られていない「初期設定」がありました。

　まず、もともとの設定では主人公姉妹・サツキとメイはおらず、ひとりの女の子だったという話は、一部で有名です。画像として確認できるのが、1988年劇場公開時の『となりのトトロ』のポスターや、パンフレットです。このポスターはスタジオジブリの公式サイトで今も見られますが、そこに描かれているのはサツキのようでメイにも見える、まるでふたりを掛け合わせたような少女が、トトロとバス停にいる姿でした。

　少女が着ている服は、サツキが作中でも着ている黄色い服なのですが、顔は幼く映画で見るよりも背も低く見え、髪をふたつに結っているため、妹のメイに見えなくもない容姿なのです。後追いで『となりのトトロ』を見た世代でも、このポスターは意外と有名で、ネットでは「微妙にふたりに似ている」「メイだと思っていた」などの声が寄せられています。

『となりのトトロ』という作品は、1975年に宮崎駿監督が描いた3枚のイメージボードを基にしたもので、宮崎監督の最初のアイデアでは、「バス停でバスを待っていたらオバケがやってきた」というイメージがあり、女の子はひとりだったそうです。しかし、その後『となりのトトロ』の制作が始まると、同時上映の『火垂るの墓』（高畑勲監督作）の上映時間が伸びた（89分）ことで、『トトロ』も上映時間を増やし（86分）、サツキとメイというふたりの少女を主人公にして制作されました。

「ジブリの教科書3 となりのトトロ」（文春ジブリ文庫）という書籍では、鈴木敏夫氏（現・スタジオジブリ代表取締役プロデューサー）が当時を振り返って「『となりのトトロ』は本来、女の子とオバケの交流で、その女の子は一人だった」「高畑さんへの対抗心に燃えた宮(宮崎監督)さんは『映画を長くするいい方法はないかな』と言い出して、それで一人の女の子を姉妹にすることを自ら思いつくんです。」と語っています。

　公開時のポスターなどにサツキとメイを混ぜたような女の子が起用された理由についてですが、元ジブリ制作デスクの木原浩勝氏が書いた「ふたりのトトロ -宮崎駿と『となりのトトロ』の時代-」によると、宮崎監督にとってはポスターでトトロの隣に姉妹両方が並ぶのはイメージと違ったようで、あの独自ポスターが生まれたそうです。木原氏は、「（サツキとメイ）どちらでもないといえるし、どちらでもあるともいえるキャラクター」「一種の合成キャラクター」と語っています。

　そして、有名キャラクター「トトロ」にも、意外な設定がありました。「THE ART OF TOTORO」によると、初期のイメージイラストでは大トトロが「ミミンズク」、中トトロが「ズク」、小トトロが「ミン」という、なんとも言えないネーミングが付けられていたようです。

　トトロという名前は作中で彼の唸り声を聞いて、メイが付けたものですが、最初から最後までミミンズクなどの「本名」は出てきません。トトロではなく、ミミンズクという本名が作中で明かされていたら、と考えてしまいますが、セリフで言うと「トトロ」よりだいぶ言いにくい気もします。

『となりのトトロ』といえば、作中でサツキとメイの父の声も演じているコピーライターの糸井重里氏が付けた「このへんないきものは、まだ日本にいるのです。たぶん。」という、有名なキャッチコピーがあります。しかし。鈴木敏夫氏は自著「ジブリの仲間たち」で、当初作成されたキャッチコピーは「このへんないきものは、もう日本にいないのです。たぶん。」だったと明かしています。これに対し、宮崎監督は「へんないきものは、いる！」と断言したため、キャッチコピーも「まだ日本にいる。」に変更（糸井氏の提案で「たぶん。」は残す）になったそうです。

　この裏話は『となりのトトロ』が「金曜ロードショー」で放映された際、同番組の公式Twitterにも載せられ、ファンからは「トトロはいると変更させたのが本当に好き」「『まだいるのです。たぶん。』って言ってくれるからワクワクできたんだよ」と、変更されたキャッチコピーに好感を持ったコメントが多く寄せられています。

（LUIS FIELD）