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子供は姿だけ知ってた『けっこう仮面』 大人になって読むと別の部分にビックリ?

マグミクス / 2023年6月6日 20時25分

子供は姿だけ知ってた『けっこう仮面』 大人になって読むと別の部分にビックリ?

■みんな見た目だけ知っている状態だった?

「子供の頃に読みたかったけど読めなかったマンガ」というアンケートがあったら、きっと永井豪先生の『けっこう仮面』が上位に入るでしょう。「月刊少年ジャンプ」で4度の読切り作が好評で1975年10月号から連載、78年10月号まで(全30話)続きました。2023年で、あれから45年が経ちます。

 当時、特に小中学生だった現在の50?60代の男性が「読みたかったけど読めなかった」理由は、なんといっても『けっこう仮面』の姿です。何せ、ヒーローが「裸の女性」ですから、立ち読みもしにくいし、親に見つかるのが怖くてコミックなんて買えません(というかレジに持って行けません)。

「ジャンプ」やコミックの表紙に描かれた、赤で統一したマスク、マフラー、手袋、ブーツにあらわな巨乳(大事な部分は何かがじゃまして見えない)という艶姿を横目で見ながら、妄想だけを膨らませていたのです。

 上記のような事情からか、おかしな現象があるようで、年月が流れても結局『けっこう仮面』を読んでおらず、物語の内容はよく知らない人がけっこう多いようです。当然アニメ化もされていないため、同じ永井豪先生原作の『キューティーハニー』のイメージもあって、『けっこう仮面』も悪の組織の敵と戦う王道ヒーロー物語だと思っている人も多いようですが、実はちょっと違います。

 簡単に内容を紹介すると、本作はエロティックな描写が多いのはもちろんですが、一言でいうと「パロディギャグマンガ」で、今では「絶対NG」な作品です。

『けっこう仮面』のあらすじは……進学率100パーセントの「スパルタ学園高校」を舞台に、女生徒に体罰を与えている悪徳学園長・教師と、謎の覆面を被ったほぼ全裸のウーマンヒーロー「けっこう仮面」との対決を描きます。はたしてけっこう仮面の正体は?

 見どころは「いじめられる裸の女性」だけでなく、毎回変わる「けっこう仮面」の敵です。それが必ず、巷で人気のマンガ、映画、TVアニメといった作品のパロディになっていました。ちなみに、タイトルも『月光仮面』から拝借して付けられています。

■凄すぎたパロディの数々。「手塚先生ごめんなさーい!」「横山先生ごめんなさーい!」

『けっこう仮面』と『キューティーハニー』を混同している人も多かった? 画像は一冊まるごとキューティーハニーの魅力が詰まった公式ムック『キューティーハニー 最強のヒロイン』(英和出版社)

『けっこう仮面』でパロディの対象にされたのは、たとえば……

・「危険な罠! 公開おしおき」の回は、横山光輝先生原作『鉄人28号』のパロディで「鉄人似獣八五郎」という大男が「ガオォォォー!」と大暴れ

・「反逆のメロディー」の回は、梶原一騎・川﨑のぼる先生原作『巨人の星』のパロディで星飛雄馬ならぬ「干病魔(ほしびょうま)」が「大リーグ筆記試験ギプス」を使って生徒を特訓させるという内容

・「この胸のときめきを」の回は、手塚治虫先生原作『鉄腕アトム』のパロディで、鉄のかぶとをかぶった豚馬飛雄(とんまとびお)こと鉄腕オツムが登場

・「女帝軍団の陰謀」の回は、石ノ森章太郎先生原作『サイボーグ009』のパロディで、「裁縫部009」の部員9人の女性(顔が本物そっくり)が登場。リーダーの名前は島村お嬢

・3回にわたる最終章では、パロディにした作品だけいうと、『スーパーマン』『黄金バット』『バットマン』『ウルトラQ』『オバケのQ太郎』『仮面ライダー』『怪傑ライオン丸』に登場するキャラクターに似せた人物が、次々出現してムッチャクチャな展開に

 ……という具合に、全話でパロディのキャラクターが登場しました。それらは基本的に、学園側が送り出した刺客です。成績の悪い女子生徒を裸にして拷問、けっこう仮面の正体をあばこうと疑わしい女性を裸にして拷問、そこへけっこう仮面が登場して相手を倒すというのが、基本的な展開でした。

 主人公が裸になっている理由は、男が身体に目を奪われている隙に攻撃するためで、必殺技は、足を180度開脚して攻める「おっぴろげジャンプ」を基本に、「ちっ息○○○○じめ」など多数あります。やられた敵キャラは、最後に「横山先生ごめんなさーい!」「手塚先生ごめんなさーい!」と、原作者に詫びて倒れるのがお約束でした。

 このように、本作はパロディとエロを融合させたギャグマンガであることが想像できると思いますが、悪者が成敗される結末は『水戸黄門』のような時代劇も彷彿とさせ、心がスカッとします。エロだけの低俗な内容にしないのが、天才・永井豪先生のテクニック、センスです。

 ここで誰もが疑問に思うことですが、パロディにされた原作の関係者から、クレームはこなかったのでしょうか。まず、タイトルついてですが、エッセイ集『デビルマンは誰なのか』によると、永井先生は『月光仮面』の原作者・川内康範先生に嘆願し、正式にOKをいただいてクリアしたそうです。しかし、その他は勝手にやっています。

 問題になりそうですが、オンラインマガジン「Web現代」のコーナー「永井豪エッセイ 豪氏力研究所」のインタビューで永井先生は「他の先生から抗議は一度もなかった」と答えています。パロディを「笑い」に徹し、「風刺」ではなく「ジョーク」にしたので、「これくらいで怒ったら恥ずかしい、と思われたのかもしれない」とのこと。今なら、たとえ原作者同士が了解していても、出版社側がNGを出すかもしれませんから、ほぼ不可能な内容だったでしょう。ただ、パロディにされた側のファンから、「カミソリ入りの抗議の手紙」が届いたことはあったそうです。

 あのとき幼くて読めなかった『けっこう仮面』は、パロディギャグマンガの傑作です。内容を知って、読みたくなったら、コミックスを大人買いしてみるのも良いかもしれません。ちなみにTV地上波で放送されることはまずありませんが、実写のビデオ・DVDは11作品も制作されているので、動くけっこう仮面の姿を楽しみたい人はそちらで堪能できるでしょう。

(石原久稔)

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