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【地上波初放送】『この世界の片隅に』で密かに話題呼んだ「傘問答」の意味とは

マグミクス / 2019年8月3日 10時20分

【地上波初放送】『この世界の片隅に』で密かに話題呼んだ「傘問答」の意味とは

■「傘」は祖母から教わった大切な嫁入り道具

 2019年8月3日(土)夜21時から、のんが声優初主演をつとめた劇場アニメ『この世界の片隅に』がNHK総合で地上波初オンエアされます。『夕凪の街 桜の国』でも知られる広島市出身の漫画家・こうの史代の同名コミックを、片渕須直監督が6年の歳月を費やして完成させた大変な労作です。

 2016年11月に単館系での上映が始まると口コミで人気を呼び、興収27億円の大ヒット&ロングラン作品となりました。2018年には同じ原作で、松本穂香&松坂桃李主演のTVドラマが放送されたことも記憶に新しいところです。

 戦前、そして戦時中の広島市や軍港のあった呉市の街並みや人々の暮らしがディテールたっぷりにアニメーション化されていることに、まず驚きます。片渕監督が何度も広島に通い続け、しっかりと時代考証を重ねた賜物です。広島市のランドマークだった広島県産業奨励館(原爆ドーム)の在りし日の様子も詳細に再現され、まるで戦前&戦時中にタイムスリップしたかのような気分になってきます。

 劇場での公開時、また連続ドラマ版の放送時に一部で話題を集めたのが、広島市から呉市へと嫁入りした主人公・すず(声:のん)が夫となる周作(声:細谷佳正)と交わす「傘問答」でした。

 1944(昭和19)年、18歳になるすずに縁談話が持ち上がり、祖母は嫁入りの際には新しい傘を持っていくようすずに教えます。戦時下ながら、慎ましい祝言が挙げられました。そして、ついに迎えた新婚初夜。お風呂から上がったすずは周作から「傘は持ってきとるかい?」と尋ねられ、「はい、新なのを一本持ってきました」と答えてしずしずと新しい傘を差し出すのです。

 これは民俗学上では「柿の木問答」と呼ばれているものです。『日本の民俗 広島』(藤井昭著、第一法規)を開くと、以下のようなやりとりが新婚夫婦の間で交われていたことが紹介されています。

婿「あんたがたの家には、柿の木があるか」
嫁「はぁ、ええのがあります」
婿「柿は、ようなるか」
嫁「はぁ、いつもようなります」
婿「これから登って、もいでくうてもよいかの」
嫁「はい、どうぞ」

 かつての日本は見合い結婚が多く、面識もほとんどないまま初夜を迎えた新婚夫婦は、型通りの会話を儀礼的に交わすことでベッドインへと進んだわけです。地域によって、柿の木や傘など異なるバージョンがあったようです。そのことを知ると、「柿の実をもぐ」「傘をさす」という何でもない言葉がとても意味深に思えてきます。

■平和な日常生活から、戦争の描写へ

松本穂香、松坂桃李主演で放送されたTVドラマ『この世界の片隅に』の公式ピアノ楽譜集(画像:ヤマハミュージックエンタテインメントホールディングス)

『この世界の片隅に』では、すずが差し出した傘を使って、周作は軒下に吊るしてあった干し柿を引き寄せ、すずと分け合って食べることになります。嫁入り初日で緊張を強いられていたすずを和ませようという、いつもはマジメな周作なりの精一杯のユーモアとして描かれています。

 そんな優しい周作に支えられ、すずは持ち前の天然キャラぶりを発揮し、嫁入り先の人々に次第に受け入れられるようになります。しかし、戦局はどんどん悪化し、軍港のある呉市は米軍からの激しい空襲を受け、すずの実家のある広島には原爆が投下されることになります。

 前半のほのぼのとしたすずの日常生活が信じられないほど、悲惨な状況へと陥っていくのです。高畑勲監督の長編アニメ『火垂るの墓』(1988年)級の衝撃が、後半には待っています。

 連ドラ版では描かれませんでしたが、終戦を告げる玉音放送の後、市内に「太極旗」が掲げられているシーンが原作とアニメ版にはあるので、そこも密かなチェックポイントです。

 本作の大ヒットを受け、ロングバージョンとなる映画『この世界の(さらにいくつもの)片隅に』が2019年12月20日(金)から全国公開されることが決まっています。原作や連ドラ版に比べると出番の少なかった遊女・りんとすずとの交流エピソード、原爆によって壊滅状態となった広島市の被害をさらに増大させた枕崎台風などのシーンが追加されるようです。

 戦争という大きな時代のうねりの中で、懸命に自分の居場所を築いていったすずの生き方に注目しましょう。

(長野辰次)

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