不憫すぎる『帰ってきたウルトラマン』の伝説 かつては「帰マン」と呼ばれ…
マグミクス / 2019年8月10日 8時40分
■ウルトラ兄弟で唯一、名前がなかった
怪獣王ゴジラを現代に甦らせた大ヒット作『シン・ゴジラ』(16年)の庵野秀明(企画・脚本)&樋口真嗣監督コンビによる新作映画『シン・ウルトラマン』が2021年に劇場公開されることが発表されました。斎藤工、長澤まさみ、西島秀俊ら人気キャストが名前を連ねていることもさることながら、特撮シーンに並々ならぬこだわりを持つ庵野&樋口コンビだけに、アップデートされたウルトラマンがどんな活躍を見せるのか興味津々です。
円谷プロの公式サイト「円谷ステーション」でも、2019年8月1日に『シン・ウルトラマン』について触れています。それによると「昭和41年(1966年)に放送された「ウルトラマン」を『シン・ウルトラマン』として映画化することが決定しました。」とあります。
これを読んで「えっ?」と思った方もいるのではないでしょうか。以前からアナウンスされていた『シン・ウルトラマン』というタイトルから、てっきり『新ウルトラマン』=『帰ってきたウルトラマン』がリメイクされると思っていた人も、少数派ながらいると思われます。
「新マン」「帰マン」の略称で知られる『帰ってきたウルトラマン』は、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』に続くウルトラヒーローとして、3年間の空白を経て製作されたシリーズ第3作です。しかし、抜群の知名度を誇る「初代」や「セブン」に比べ、かなり不憫なヒーローでもあるのです。
いちばんの不憫さは、名前がなかったことです。タイトルには『帰ってきた』と謳っていますが、久々に地球に現われたウルトラマンは「初代」とはデザインが微妙に異なる別人だったのです。
にもかかわらず、1971年4月〜72年3月のTBSでのテレビ放映時には名前がなく、学年誌などには「新マン」「帰マン」と略称で紹介されていました。スーパーヒーローなのに「帰マン」という呼び方は、どうにかならなかったのでしょうか。後にウルトラ兄弟が集結する設定が一般化してからは、「ウルトラマンジャック」という名前が便宜的につけられたようですが、オンエア時はそれこそ「名前のないヒーロー」だったのです。
■子どもたちは気づいていた「ヒロイン降板」の裏事情
不動の人気を誇る、初代『ウルトラマン HDリマスター版』 (C)円谷プロ
初代ウルトラマンやセブンのような変身アイテムがないのも不憫でした。自動車整備士として働く主人公・郷秀樹(団時朗)は自分の意志では変身できず、怪獣が目前に迫るなど、生命の危険にさらされることでようやく変身するのです。
このため、怪獣がすぐ近くにいないときは、ビルの屋上から飛び降りるなど自殺まがいの行為で変身するしかありません。「初代」や「セブン」を再放送でしか観ていない遅れてきた怪獣世代にとって、思わず応援したくなる魅力が「帰マン」にはありました。
不憫なエピソードの極めつけが、ナックル星人が登場する第37話「ウルトラマン夕日に死す」(1971年12月放映)でした。郷と相思相愛の仲だった坂田アキ(榊原るみ)とその兄・坂田健(岸田森)は、ナックル星人によって謀殺されてしまいます。最愛の恋人・アキ、兄同然に慕っていた健を同時に失った郷は変身して戦いに挑むものの、精神的動揺を狙ったナックル星人のずる賢さの前に完膚なきまでに叩き伏せられるという、衝撃的な内容でした。
でも、子どもたちは知っていました。非業の死を遂げたアキ役の榊原るみは1971年10月から始まったコメディドラマ『気になる嫁さん』(日本テレビ系)に出演するようになっていたことを。「裏番組が忙しくなったから、途中降板したんだな」と、子ども心に大人の事情を察したのです。
では、『帰ってきたウルトラマン』が残念なシリーズだったかというと、決してそんなことはありません。メインライターを務めた上原正三は、『ウルトラマン』『ウルトラセブン』の脚本家として大活躍した金城哲夫と同世代、同じ沖縄県出身でした。
金城が『ウルトラセブン』の名作「ノンマルトの使者」を残したように、上原も問題意識のあるエピソードを数多く書き残しています。中でも『帰ってきたウルトラマン』の第33話「怪獣使いと少年」は歴代ウルトラマンシリーズ上、屈指の名エピソードとして語り継がれています。怪獣や宇宙人よりも、暴徒化した人間のほうがずっと恐ろしいというヘイトクライムを題材にした問題作です。未見の方はぜひ一度ご覧ください。
庵野&樋口コンビによる『シン・ウルトラマン』がどのような内容になるのか、詳細はまだ明かされていません。庵野監督はDAICON FILM時代に8ミリフィルムで自主映画『帰ってきたウルトラマン マットアロー1号発進命令』(83年)を総監督&主演したことでも知られています。『シン・ウルトラマン』に「帰マン」オマージュは果たしてあるのか、今から気になるところです。
(長野辰次)
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