『ドラクエ』「勇者ってズルい!」 竜王の気持ちになって考えてみた
マグミクス / 2023年6月16日 21時25分
■敵もずるいけど、実は勇者の方がもっとずるかった!?
RPGを遊んでいると、敵の有利さが目につく場合があります。例えば、主人公たちが魔法を使うたびにMPを消費するのに、敵は何度も魔法を唱え、MP切れの気配すら見せないようなゲームも存在します。
また、味方パーティ人数の2倍以上もの数の敵に囲まれると、その数の暴力に「ずるい!」と言いたくなる時も。こっちの戦力は限られているのに、向こうの頭数は無尽蔵。こうした、敵側の有利な点にぶつぶつ文句を言いながら、過酷な戦いを乗り越えてきた勇者も多いことでしょう。
ですが、「隣の芝生は青く見える」とはよく言ったもの。敵側の視点で考えると、勇者も少なからず「ずるい」部分があるのかもしれません。
そうした部分は、ファミコン初のコマンドRPGであり、国民的な人気シリーズの原点『ドラゴンクエスト』にも含まれています。当時意識しなかったどんな要素に、「勇者のずるさ」があったのか。初代『ドラクエ』のラスボス・竜王になった気分で、勇者のずるいと思いたくなる部分をあれこれと推察してみました。
●魔物の配置が、勇者に有利すぎる!
RPGというゲームとして考えれば至極当然、むしろ配慮がないとクソゲーまっしぐらですが、竜王の立場で考えると、魔物たちの配置に憤りを覚えます。特に、勇者が旅立つ「ラダトーム城」の周辺にいる魔物がスライムって……弱すぎるでしょ!
旅立ち直後の勇者は、たったのレベル1。装備は貧弱を通り越し、何も持っていません。ゲーム開始直後の勇者は作品全体を通して最も弱く、打倒するには絶好のタイミング。最強格のダースドラゴンどころか、中盤に出てくる魔物の1体を城の周りに置くだけでも、勇者の旅路を決定的に阻めるはず。
ですがこの辺りにいるのは、スライムにスライムベス、ドラキーといった、駆け出し勇者でも渡り合える魔物ばかり。倒すどころか、強くなるための踏み台として利用される始末です。
もちろん、最序盤に勝てない敵ばかり配置したら、間違いなくクソゲー一直線。ゲームなので当然の難易度調整と言われればそれまでですが、竜王からすれば「最初の苛立ちポイント」は間違いなくここでしょう。
●騎士道精神旺盛な魔物たち
勇者と魔物の関係で言えば、その戦い方にも納得がいきません。竜王の軍勢は、騎士系、ゴーレム系、キメラ系、さそり系などなど、その強さから特徴まで多種多彩。その数も膨大で、いくら倒し続けても文字通りキリがありません。
無数の軍勢を相手に孤軍奮闘する勇者。その構図だけ見ると、明らかに竜王勢が圧倒的に優勢です。しかし、初代『ドラクエ』のバトルは、常に1対1。そのエリアにどれだけの魔物がいたとしても、勇者と戦う時はタイマン勝負。魔物なのに、騎士道精神に則ったような振る舞いです。
戦いに置いて重要なのは、数的有利を保つこと。個々の質もむろん大事ですが、少数精鋭では膨大な数には抗えないのが現実です。それはおそらく、『ドラクエ』の世界にも通用するはず。例えば、ダースドラゴンが群れで襲い掛かれば、さすがの勇者も太刀打ちできないでしょう。
勇者がひとりなのは、共に戦う者がいないから。それはつまり、人間側の都合です。その事情を、魔物側が汲むべき理由はないはずなのに、1対1に付き合う律儀な魔物たち。自分が竜王だったら、「魔物なのに、真面目か!」と部下を𠮟りつけたい気持ちでいっぱいです。
とはいえ、竜王と勇者の戦いも同様に1対1。「自分の力だけで倒してこそ、真の強さ!」といったプライドがあるのだとすれば、その誇りに準じて負けるのも仕方がないのかもしれません。
■竜王から見れば、勇者はルール違反? 約束くらい守って!
敵にやられても、「王様に怒られて、所持金半分没収」だけで済んでしまう勇者
●死すらも乗り越える、恐るべき勇者の特性
1対1という、数の暴力で押せない戦いが続きますが、手ごわい魔物に敗北した勇者が道半ばに倒れることもあります。竜王の立場なら、勇者を倒した魔物に特別な褒賞を与えても惜しくないほどの働きぶりです。
しかし、勇者打倒の朗報に喜ぶのもつかの間。勇者はまた、何事もなく冒険の旅を再開しています。『ドラクエ』の勇者は、死んでも「所持金が半分になる」というデメリットを受けるだけで、あとはほぼ問題なく復活。武器や所持品、経験値もそのままで、
RPGのなかには、ゲームオーバー画面が出て、タイトル画面からやり直し──という作品もあります。しかし『ドラクエ』は、「しんでしまうとは なにごとだ!」とのお叱りの言葉からも窺えるように、死んだ後に蘇っている模様。所持金半額、城から出直しというペナルティこそありますが、蘇生の代償と考えればむしろ安いくらいです。
倒しても倒しても、そのたびに復活し、戦いに挑む勇者。強さよりも勇気よりも、その「蘇り」こそが恐るべき武器に違いありません。
●勇者に問いたい倫理観、その剣持っていくの!?
勇者に対するイメージは人それぞれですが、「弱気を助け、強気をくじく」「人々のために戦う」「世界を守る」あたりは、比較的多くの方が共通して抱いてるものでしょう。しかし竜王からすれば、「だったら、もっとちゃんとして!」と苦情のひとつもこぼしたいところ。
竜王の城には、強大な魔物だけでなく、勇者を助けるアイテムも眠っています。特に見逃せないのが、作中で最強を誇る「ロトのつるぎ」。この武器を持っているか否かで、竜王の倒しやすさが格段に変わります。
置かれている場所から考えて、現在の「ロトのつるぎ」の所有者は竜王と言っていいはず。なのに勇者は、敵の城にある宝箱から躊躇なくそれを取り出し、我が物とします。来歴を考えると勇者が持つ正統性はあるものの、敵の所有物を問答無用で奪うという行為は、少々引っかかるところです。
●勇者なんだから、約束は守って!
とはいえ、過酷な竜王との戦いに最強の武器で挑みたい気持ちも分かります。なので略奪の件は一歩譲るにしても、「勇者に相応しい行動であれ」と苦言を呈したくなるポイントはもうひとつあり、それは竜王との取り引きです。
いざ最終決戦、と意気込む勇者に向けて「わしのみかたになれば せかいのはんぶんをやろう」と竜王が持ちかけます。この話に乗ると、竜王は「世界の半分」、つまり闇の世界を勇者に与え、画面は暗転。死亡時の復活とも異なり、ゲーム自体が進行できなくなるという、竜王の巧みな罠が発動します。
しかし、闇の世界とはいえ「世界の半分」をくれたのは事実。契約は確かに成立したのに、勇者(を操作するプレイヤー)は「ふっかつのじゅもん」で世界を巻き戻し、再び竜王の前に現れます。もちろん今度は、竜王の提案に乗らず戦いに臨み、晴れて勇者はその役目を果たした。
人間側から見れば、竜王はまさに「悪」の象徴。しかし、悪との契約なら一方的に破っていい、というのも強引な話です。もし自分が竜王の立場だったら、「味方になるって言ったよね。約束くらい守って!」と愚痴ったことでしょう。
* * *
こうした事情のほとんどは、多くのプレイヤーが楽しめるようにといった配慮から生まれたもの。現実的に考えること自体がナンセンスと言えます。ですが、あくまで発想のひとつとして、普段とは異なる「敵の視点」で考えてみるのもオツなもの。
今回は初代『ドラクエ』をモチーフとしましたが、他のゲーム作品でも刺激的な気づきが得られるかもしれません。
(臥待)
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