今では考えられない、韓国80年代の「反共アニメ」 巨大ロボが北朝鮮と戦う?
マグミクス / 2019年8月12日 15時10分
■北朝鮮の象徴として敵機に描かれる「赤い星」
日本でも知られる韓国のロボットアニメ『テコンV』(1976年)は、ロボットの活躍以外にもうひとつの側面があります。それは、「反共」映画作品であるということです。現在の南北の融和ムードとはうって変わって、当時の韓国は軍事政権下。反共ムードが横溢していたのです。1980年代までは政府の支援で反共映画が製作されていたとiいいます。
『テコンV』の企画書には「反共鼓舞」と書かれていました。これは、当時の韓国にはパク・チョンヒ政権下で1962年に施行された映画法という法律で検閲が強化されたものの、「反共映画」は優遇されていたため制作しやすかったという事情があるそうです。
当時は「反共法」という法律もあり、共産主義自体を肯定的に描くことはできなかったのです。実際に、『テコンV』第一作の敵は「アカ帝国」であり、首領のマルコムの頭には赤い星が描かれています。現在では考えられない設定ですね。『テコンV』以外にも「反共アニメ」はいくつか作られています。
例えば、さらわれた父親を捜しに妖精の助けを借りて北朝鮮に向かう少年が、巨大化して北朝鮮軍と戦うという『ヘドリ大冒険』(1982年)。また、北朝鮮を思わせる惑星を支配する宇宙共産党の親子を、ホン・ギルドンが虎に変身して倒す『宇宙戦士ホン・ギルドン』(1983年)などがあります。
『海底探検隊 マリンエックス』(1982年)では、原子力潜水艦マリンエックスの乗組員が日本の沈没船を探検しながら、かつて日本支配時代に盗まれた韓国の文化遺産を発見したり、海底怪獣と戦ったりします。この作品では、北朝鮮の軍人が敵キャラとして登場します。
北朝鮮側の人物は悪人顔。しかも、当時のソ連には頭が上がらないというコミカルな描写も。彼らはマリンエックスの探検を妨害しますが、彼らの潜水艦の艦首に髑髏マークがついていて、ひと目で悪役だとわかるデザイン。側面には赤い星も描かれて、「共産主義」の手先だとわかる表現です。
戦いの末、マリンエックス乗組員に犠牲を出しながらも、北朝鮮側の潜水艦は全滅します。そして、犠牲になった乗組員は韓国国旗に包まれて水葬されるという、軍事政権下を反映したアニメとなっています。
■ロボットと北朝鮮軍の戦いの末に……。
『ロボット王サンシャーク』ビデオのジャケットより(筆者提供)
そして、韓国「反共アニメ」の極めつけは『ロボット王サンシャーク』(1985年)でしょう。
北朝鮮から送り込まれた武装工作員が山中の家を襲います。これを撃退するために韓国の予備軍が出動するという展開ですが、そんな状況のなかキャンプをしていた子供たちがサンシャークに乗り、オーロラ星からやってきた宇宙人とともに、韓国に攻め込もうとする北朝鮮軍と戦うのです。
北朝鮮はスペクターという宇宙人から援助を受けていますが、スペクターは旧ソ連の比喩なのでしょう。北朝鮮の首領は首元に瘤がある人物として描かれており、おそらくキム・イルソンを意識していると思われます。北朝鮮の残虐さを強調するためか、スペクターはあっさり銃殺されます。宇宙人だろうと残虐に殺す、それが北朝鮮だということなのでしょう。
作中、武装工作員により家を襲われ「私は共産党が嫌いだ」という少年が登場しますが、これはイ・スンボク(1968年に北朝鮮の武装工作員に殺されたという少年。韓国では「反共」のシンボル的な存在であり、記念館も建てられています)の事件をドラマに取り込んでいるのでしょうか。
さて、作中、北朝鮮軍は戦車でトンネルを通り韓国に侵攻しようとしますが、サンシャークの活躍で阻止されます。宇宙人の巨大ロボットと北朝鮮が戦うという展開ですが、終盤で北朝鮮軍とサンシャークの戦いはすべて夢だったというオチが明かされます。現実の世界では、予備軍が武装工作員を殲滅して幕を閉じるのです。さすがにひどいオチだと思いました。
なお、『サンシャーク』は『ウレメ』シリーズから本格化する、アニメと実写の合成作品の先駆けとしても知られています。韓国と北朝鮮の対立を色濃く反映したといえる「反共アニメ」は、見方によっては悲しい歴史の産物といえるでしょう。
(かに三匹)
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