『キングダム』大ヒットの裏に『SLAM DUNK』作者の助言が！ 漫画家の「美しき師弟関係」

■師匠のひとことが後押しに！

　2006年に『週刊ヤングジャンプ』（集英社）で連載がスタートした『キングダム』は、古代中国の春秋戦国時代を舞台にした人気作品です。アニメ『キングダム』の第5シリーズも2024年1月からの放送が決まり、今年7月28日には実写映画の第3弾『キングダム 運命の炎』が公開予定と、高い人気を誇っています。

　この『キングダム』の人気の裏には、作者の原泰久先生の師匠にあたる人物のアドバイスがあったことをご存知でしょうか。今回は、原先生を筆頭に、人気漫画家たちの師弟関係についてご紹介します。

　原先生は、『SLAM DUNK』の作者・井上雄彦先生のところでアシスタントをしていました。師匠の井上先生の背中を意識して『キングダム』を描いているそうで、アシスタント卒業後も師匠から刺激を受けているようです。

『キングダム』は連載開始当初は人気がなく、打ち切り候補にあがったこともあるそうです。そんなときに師匠の井上先生に相談すると、井上先生は｢話は面白い、主人公･信の黒目が小さいだけだ｣と、弟子の原先生に助言します。このアドバイスを受けて、ストーリーに重きを置きすぎた自分に気づき、原先生は自身の絵と向き合ったそうです。

　そこから絵柄に改良を加え、『キングダム』は大ヒット作品へと昇りつめます。『SLAM DUNK』や『バガボンド』など、繊細な絵にも定評のある井上先生ならではの、的確なアドバイスでした。

　一方、その原泰久先生の下でアシスタントとして修行し、ヒット作品を生み出したのが『群青戦記』を手がける笠原真樹先生です。同作は師匠の『キングダム』と同様に、『ブレイブ －群青戦記－』として実写映画化もされています。

　笠原先生は、『キングダム』のコミックス5巻から12巻にかけての約2年間、アシスタントとして働いていました。

　そしてアシスタントを卒業した笠原先生から頼まれて『群青戦記』のプロトタイプ版のネームを見た原先生は、タイムスリップのアイデアが面白いと感じたものの「タイムスリップのきっかけが強引すぎる」ことを指摘します。その助言を受けて描き直した笠原先生は、原先生もうなるような会心のシーンを描きあげました。

■巨匠同士の関係性に感動

手塚治虫と師弟関係にあった藤子不二雄A先生の代表作のひとつ「笑ゥせぇるすまん NEW DVD-BOX」（バップ）

　もう一組、漫画家の師弟関係で知られるのが『うしおととら』の藤田和日郎先生と、『夜明けの旅団』を手がけた弟子の片山ユキヲ先生です。片山先生は、藤田先生のデビュー作である『うしおととら』の頃からアシスタントとして参加しており、かなり長く、深いつきあいになります。

　片山先生は当初、藤田先生の殺伐とした世界観が苦手で、自身は優しい世界の作品を描いていたそうです。しかし、その作風は成果につながらず、藤田先生からアドバイスを受けることになります。

「（ファンタジーは）本心から描かないと現実感がなくなってしまう」という藤田先生のひとことを受けて、片山先生はホラーファンタジーを描くことに。師匠のさりげない言葉が、良作誕生のきっかけとなったのです。

　また漫画家の師弟関係と言えば、戦後の人気漫画家を多数輩出した伝説のアパート「トキワ荘」が有名です。なかでも手塚治虫先生は「マンガの神様」と呼ばれる存在で、未使用の原稿や削ったコマなどを後進の漫画家によく贈っていました。

　そして昨年4月に亡くなられた藤子不二雄A先生の仕事場に保管されていた、手塚治虫先生の初期作「魔法屋敷」の未発表原稿が時を超えて、手塚先生の長女・るみ子さんに返却されたことが報じられます。手塚先生は、後輩の藤子A先生に貴重な未発表原稿を贈っていたのです。

　るみ子さんはこの件について「父と藤子A先生の師弟関係に胸が熱くなった。何らかの形で世に出したい」と語られています。

　漫画家の師弟にまつわるエピソードを紹介してきましたが、師匠から弟子への助言や贈り物は、戦後間もない頃から継承されてきたひとつの伝統と言えるでしょう。今後もこうした師弟関係を通じて、たくさんの名作が生まれることを期待したいですね。

（LUIS FIELD）