1. トップ
  2. 新着ニュース
  3. ライフ
  4. ライフ総合

ヒーローのいない特撮ドラマ『怪奇大作戦』 実相寺監督の演出が冴えた「京都買います」

マグミクス / 2023年6月25日 9時10分

ヒーローのいない特撮ドラマ『怪奇大作戦』 実相寺監督の演出が冴えた「京都買います」

■『ウルトラセブン』の後番組としてスタート

 特撮ドラマの金字塔とされる『ウルトラセブン』の放送55周年を記念した上映会やイベントの数々が開かれ、グッズも発売されるなど、特撮ファンを楽しませています。円谷プロ制作の『ウルトラセブン』は1967年10月よりTBS系で全国放映され、1968年9月8日に感動的な最終回を迎えました。

 同じ日曜日の夜7時、翌週となる1968年9月15日から新番組としてスタートしたのが『怪奇大作戦』でした。こちらも円谷プロ制作の特撮ドラマですが、『ウルトラマン』や『ウルトラセブン』と違って、怪獣や宇宙人は出てきません。社会をおびやかす怪事件の数々に、SRI(科学捜査研究所)のメンバーが立ち向かうという大人向けの内容となっていました。

 おどろおどろしいテーマ曲と不気味な映像がトラウマ的に記憶に残っている人も多いのではないでしょうか。怖かったけれど、忘れられない『怪奇大作戦』の魅力を振り返ります。

■人間の心の闇を描いた本格的ミステリー

 それまでの『ウルトラマン』『ウルトラセブン』といった変身ヒーローものに親しんでいた子供たちにとって、『怪奇大作戦』はかなり刺激が強い番組でした。街で怪獣や宇宙人が暴れ回っても、最後はウルトラマンやウルトラセブンが必殺技を使って退治してくれるという安心感が、『怪奇大作戦』にはなかったのです。

 怪事件や怪奇現象の真相をSRIのメンバーは科学的に解明するのですが、真相が明かされた後も事件を引き起こした犯罪者たちの心の闇が印象に残り、番組を見終わった後もすっきりしないエピソードが多かったように思います。視聴率は平均22%を記録した『怪奇大作戦』ですが、2クール全26話で終わってしまいます。

 円谷プロのスタッフにとっては、変身ヒーローが怪獣たちをやっつけるという予定調和的なストーリーを脱して、新しいステージを目指した意欲作でした。ウルトラマンやウルトラセブンといった「デウス・エクス・マキナ」(絶対的な力を持つ存在)に頼ることのない、あくまでも人間を主体にした本格的なミステリードラマだったと言えるでしょう。

 飯島敏宏監督、上原正三脚本による第1話「壁ぬけ男」は、東宝の「変身人間シリーズ」としてヒットした恐怖映画『美女と液体人間』(1958年)、『電送人間』『ガス人間第1号』(ともに1960年)の世界を25分間に凝縮したような濃厚な内容です。

 SRIの中心メンバーとなっていたのは、岸田森さんが演じる牧史郎でした。その後も、『帰ってきたウルトラマン』(TBS系)や『太陽戦隊サンバルカン』(テレビ朝日系)などの特撮ドラマで活躍した岸田森さんですが、ニヒルな牧史郎は最高のハマり役でした。

 迷宮入りしそうな難事件を科学的に解き明かしていく牧ですが、人間の暗部に魅了されてしまった異界人のような雰囲気をどこか漂わせていました。『ウルトラマン』のムラマツ隊長役でおなじみだった小林昭二さんも、SRIに協力を求める警視庁の町田警部役でレギュラー出演していました。

■人間ならざるものを愛してしまう「京都買います」

西島秀俊さんが主演し、2007年にNHKで放送された『怪奇大作戦 セカンドファイル 昭和幻燈小路』DVD(バップ)

 全26話ある『怪奇大作戦』のなかでも「名作」としての評価が高いのが、第25話「京都買います」です。『ウルトラマン』の人気エピソード「故郷は地球」や「怪獣墓場」を手掛けた実相寺昭雄監督と脚本家・佐々木守氏との名タッグ作です。

 第23話「呪いの壺」に続いて、「京都買います」も京都でのロケ作品でした。京都の寺院で、文化財級の仏像が次々と盗み出されるという謎の事件が発生します。SRIのメンバーが調査に乗り出すことに。調査の過程で、牧は地元の大学に勤める美弥子(斉藤チヤ子)と知り合います。

 SRIの紅一点メンバー・さおり(小橋玲子)に誘われて、京都のゴーゴー喫茶に立ち寄った牧は、奇妙な光景を目撃します。ゴーゴー喫茶で遊んでいた若者たちに、美弥子が「京の都を売ってくださいな」と声を掛け、契約書にサインを求めていたのです。

 牧が美弥子に真意を問い詰めると、「誰も京都なんか愛していないって証拠です」と語る美弥子でした。歴史ある京都は、日本人にとって心のふるさとのような街です。若者たちがサインに応じるにつれて、その京都から仏像が忽然と消えていたのです。

 メフィラス星人が登場した『ウルトラマン』の第33話「禁じられた言葉」の、発展形と言えるエピソードではないでしょうか。地球が好きになったメフィラス星人は、「地球をあげます」という言葉をサトル少年に言わせようとします。京都の伝統や仏像を愛する美弥子は、地球の代わりに「京都を売ってください」と頼んで回るのです。

 広隆寺、仁和寺、南禅寺、銀閣寺、平等院……。怪獣や宇宙人の代わりに、「京都買います」は仏閣や仏像たちが次々と映し出されます。もちろん実相寺監督ならではの、独特のカメラアングルです。美弥子のミステリアスな美しさに惹かれていく、牧の表情もせつないものがあります。牧自身が異界人っぽいキャラですが、人間ならざるものを愛してしまった牧の悲恋エピソードにもなっています。大人のファンタジーと呼べる珠玉作です。

■第24話「狂鬼人間」は欠番扱いに

 実相寺昭雄&佐々木守のコンビといえば、『ウルトラセブン』の封印回となっている第12話「遊星より愛をこめて」を手掛けたことでも知られています。ちなみに『怪奇大作戦』では、第24話「狂鬼人間」が欠番扱いとなっています。

 満田かずほ監督、山浦弘靖脚本による「狂鬼人間」は、「心神喪失者の行為は罰しない」とされる刑法第39条をモチーフにした社会派エピソードです。刑法の盲点をつこうとする知能犯と、SRIは対峙します。確かに精神疾患を扱ったナイーブな内容ですが、円谷プロは欠番扱いにしている理由を明かしていません。

 欠番扱いになった事情を知る関係者は、今ではもう少ないはずです。いつまでもタブー視を続けるのは、はたして正しいことなのか。『ウルトラセブン』の第12話とともに、真相が明かされる日が待ち望まれます。

(長野辰次)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

記事ミッション中・・・

10秒滞在

記事にリアクションする

デイリー: 参加する
ウィークリー: 参加する
マンスリー: 参加する
10秒滞在

記事にリアクションする

次の記事を探す

エラーが発生しました

ページを再読み込みして
ください