『ゼロワン』放送前に知っておきたい、女性ライダー「タックル」の号泣エピソード
マグミクス / 2019年8月28日 19時40分
■ミニスカ姿で戦う、変身ヒロイン
人工知能(AI)をテーマにした特撮ドラマ『仮面ライダーゼロワン』(テレビ朝日系)が、2019年9月1日(日)9:00からスタートします。IT企業の青年社長が主人公というのも時代性を感じさせますが、福岡出身の新進女優・井桁弘恵演じる女性仮面ライダー バルキリーが第1話から登場することでも話題です。
1971年から始まった石ノ森章太郎原作の「仮面ライダー」シリーズには、『劇場版 仮面ライダー龍騎 EPISODE_FINAL』(2002年)に仮面ライダーファム(加藤夏希)、『仮面ライダー響鬼』(2005〜2006年)に仮面ライダー朱鬼(片岡礼子)などの女性仮面ライダーが登場しました。でも女性ライダーを語る上で忘れてはならないのが、『仮面ライダーストロンガー』(1975年)にレギュラー出演した電波人間タックルこと岬ユリ子(岡田京子)です。
昭和仮面ライダー第1期の最後を飾った『仮面ライダーストロンガー』は、悪の組織ブラックサタンにより電気人間ストロンガーに改造された城茂(荒木しげる)がブラックサタンの放つ怪人たちと戦うというストーリーです。電波人間タックルは、ストロンガーのパートナーとして第1話から活躍しました。
“電波人間”と聞くと、危ない人のようなイメージがありますが、タックル/岬ユリ子を演じた岡田京子さんは大変な美女で、変身した姿はテントウムシをモチーフにした赤いコスチュームで、ミニスカ姿で戦う姿がインパクト大でした。
タックルの得意技は「電波投げ」というもので、タックルが「電波投げッ!」と叫ぶと、戦闘員が勝手にとんぼ返りをして倒れるというものです。岡田さんが殺陣に不慣れだったことから生まれた技だったそうです。
タックルの魅力は、その弱さにありました。ブラックサタンに捕まっては、逆さ吊りにされたり、怪人にいたぶられたものです。その様子をちょっと離れた場所から眺めていた城茂が「ハッハッハッ!」と笑いながら現われ、ストロンガーに変身するというのがお約束の展開でした。子どもの頃は「タックル、弱すぎ」と思ったものですが、今考えるとタックルは大人のファンを喜ばせるための、かなりマニアックな設定のキャラクターだったように思えます。
タックル役で見事なやられっぷりを披露したのは、撮影時17歳だった岡田京子さんです。東映の岡田茂社長(当時)のお気に入り女優で、「仮面ライダー」シリーズの名プロデューサーだった平山亨氏の自伝『泣き虫プロデューサーの遺言状』(講談社)には【タックルの岡田京子さんは、岡田茂社長のお声があり、「ちゃんとした女優にしろ」と預けられた】と記されています。東映としては、『女必殺拳』(1974年)で主演をつとめた、志穂美悦子のような本格派アクション女優に育てたかったようです。
■石ノ森作品に共通する女性キャラクター
映像ソフトのジャケットにおいても、電波人間タックルは常に仮面ライダーストロンガーの側に描かれる。『仮面ライダーストロンガー』Vol.1 DVD(東映ビデオ)より
視聴率が伸び悩んだ『ストロンガー』の第30話「さよならタックル! 最後の活躍!!」を最後に、岡田京子さんはタックル役から卒業することになります。
全身アザだらけになりながら奮闘を続けた彼女のために、泣かせる脚本が用意されました。強敵ドクターケイト(声:曽我町子)の放つ猛毒を浴びてしまい、岬ユリ子は死を覚悟します。城茂と過ごす束の間のひととき、ユリ子は茂のためにコーヒーを淹れ、「いつか世の中が平和になったら……、2人でどこか遠い、美しいところに行きたい」と淡い夢を語るのでした。
しかし、魔女ドクターケイトは同性であるユリ子が幸せになることを許しません。ユリ子はタックルに変身すると最期の力を振り絞り、捨て身の技「ウルトラサイクロン」でケイトを倒すと共に自分も絶命するのです。タックルに死期が迫っていたことに気づかずにいた茂は、自分の不甲斐なさを悔やむのでした。
岡田さんはとても大人びた美女だったため、茂を慕う妹キャラというイメージはなく、茂のためにコーヒーを淹れる様子は世話好きなお姉さんのようでした。このシーンをDVDで再生しながら、石ノ森章太郎ファンは思い出すのです。石ノ森作品には、姉弟をモチーフにした作品がとても多いということを。
劇場アニメーション化された『幻魔大戦』(1983年)の東姉弟しかり、『人造人間キカイダー』(1972年〜73年)の光明寺姉弟しかり、TBSでドラマ化された『HOTEL』(1990年〜98年)の赤川姉弟しかりです。どれも、しっかり者の姉がヤンチャな弟を見守っているという設定です。
石ノ森作品にお姉さんキャラが多いのには、理由がありました。有名な話ですが、石ノ森章太郎は「トキワ荘」で過ごした若手漫画家時代に、身の回りの世話をしてくれていた3歳上の姉・小野寺由恵さんを病院で失っています。このとき、由恵さんは24歳という若さでした。
以降、石ノ森章太郎は猛烈なペースでマンガを描き続け、作品の中に優しかったお姉さんの面影を宿した女性キャラクターを度々登場させたのです。石ノ森作品に登場する主な女性キャラクターは、孤独に闘う主人公のいちばんの理解者ということで共通しています。
タックル役を熱演した岡田さんですが、その後芸能界を引退し、悲しいことに27歳という若さでこの世を去っています。芸能界引退後に結婚しましたが、結婚相手は『ストロンガー』のメイク担当だったそうです。岡田さんにとって『ストロンガー』は女優として、そして女性としてかけがえのない作品だったようです。
令和という新しい時代を迎え、女性ライダーがどんな活躍を見せてくれるのか、とても楽しみです。でも、女性ライダーの先駆者として、タックルこと岬ユリ子が、そして若き日の石ノ森章太郎を支えた姉・小野寺由恵さんがいたこともぜひ忘れずにいてください。
(長野辰次)
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