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【あすの金ロー】『ラピュタ』は滅びの物語ではない? 宮崎監督が描く「理想郷」とは

マグミクス / 2019年8月29日 19時40分

【あすの金ロー】『ラピュタ』は滅びの物語ではない? 宮崎監督が描く「理想郷」とは

■ラピュタにたどり着いたパズーとシータが見たものは……

「バルス!」の呪文でおなじみ、宮崎駿監督の劇場アニメ『天空の城ラピュタ』(1986年)が、2019年8月30日(金)の「金曜ロードSHOW!」(日本テレビ系)で21:00からオンエアされます。劇場公開から33年が経ち、地上波テレビでの放映も過去16回を数えますが、近年はSNSの普及で、ネットユーザーたちがテレビでの進行を実況しながら盛り上がるという楽しみ方も定着しつつあります。

 SNS世代をはじめ幅広い層に人気の『ラピュタ』ですが、1985年に設立された「スタジオジブリ」の第1作だけに、SFファンタジーとしてもアニメーションとしても、非常に高い完成度を誇っています。空に浮かぶ伝説の城ラピュタを探す少年パズー(声:田中真弓)と空から降りてきた不思議な少女シータ(声:横沢啓子)の大冒険に胸が躍ります。

 宮崎監督ならではのユニークなメカの数々も見ものです。空中海賊ドーラ(声:初井言榮)たちが乗る空中母船タイガーモス号や、羽虫のように飛ぶ小型航空機フラップターの活躍にワクワクします。

 宮崎監督が「照樹務」の名義で脚本・演出したTVアニメ『ルパン三世』(日本テレビ系)第2シリーズの最終話「さらば愛しきルパンよ」に登場したロボット兵に再び活躍の場を与えるなど、宮崎監督が初の完全オリジナル作品にありったけの情熱とアイデアを注いでいることがうかがえます。

 産業革命を時代背景にしたスチームパンクとしての面白さはもちろん、前作『風の谷のナウシカ』(1984年)やテレビシリーズ『未来少年コナン』(NHK総合)でも描かれた、「行き過ぎた科学の進歩は世界を滅亡へと招く」というメッセージ性と娯楽性とのバランスが上手くとれたものになっています。

 さらに、大人になって『ラピュタ』を見直すと、宮崎監督のユートピア観、理想郷への想いが投影されていることも強く感じられるのです。

 天空に浮かぶラピュタは、非常に高い科学力を誇った古代文明人が、地上の争いから逃れるために建造した理想郷です。しかし、進歩しすぎた科学はラピュタで暮らす人々の生命力を奪ってしまいました。パズーとシータが苦労してラピュタにたどり着いたときには、ロボット兵しかいない無人の廃墟となっていたのです。

 争いのない平和な理想社会・ユートピアで暮らすことに、多くの人は憧れます。でも、高度に完成された理想社会は、理想の実現と同時にディストピアと化してしまうのです。ユートピアとディストピアは背中合わせの関係にある。そんな皮肉な現実を、若いパズーとシータは知ることになるのです。

■流浪の天才アニメーターが出会った「ボスキャラ」

『ラピュタ』で活躍する女海賊ドーラ。バンダイ「想造ガレリア」シリーズ第2弾 事前登録キャンペーンより(画像:バンダイ)

 天空をさまよい続けるラピュタを守るロボット兵は、どこか宮崎監督のそれまでの半生を思わせるものがあります。東映動画(現・東映アニメーション)でアニメーターとしてのキャリアをスタートさせた宮崎監督は、アニメーターの待遇改善を求めて組合運動に参加していました。その後、東映動画を退職した宮崎監督は、Aプロダクションへと移り、TVアニメ『ルパン三世』の第1シリーズを手掛けることになるのです。

 さらには、ズイヨー(後の日本アニメーション)でTVアニメの最高峰とも称される『アルプスの少女ハイジ』(フジテレビ系)、テレコム・アニメーションで劇場デビュー作『ルパン三世 カリオストロの城』(1979年)、そしてスタジオジブリの前身となるクラフトでブレイク作『風の谷のナウシカ』を作ります。

 それこそ、国内のアニメスタジオを放浪しながら傑作アニメの数々を残したのです。宮崎監督にとって、スタジオジブリはようやく手に入れた理想のホームグランドだったのです。

 そんなスタジオジブリの設立を語る上で忘れてはならないのが、徳間書店の徳間康快社長(当時)でした。徳間社長は、宮崎監督のあふれる才能に早くに気づき、ジブリへの出資を決めた大プロデューサーです。日中合作による大作『敦煌』(1988年)などのスケールの大きな映画を製作する一方、徳間書店が発行する「週刊アサヒ芸能」は芸能スキャンダルや暴力団の抗争記事を積極的に掲載しました。

 徳間社長は「清濁併せ呑む」ではなく、「濁濁併せ呑む」と自称する豪快な人物でした。世の中はきれいごとだけでは動かないことを、誰よりも知っていたのです。

 さまざまなスタジオを放浪してきた宮崎監督にとって、ジブリの初代社長となった徳間社長は頼もしいボスだったに違いありません。宮崎作品では『ラピュタ』では女海賊ドーラ、『千と千尋の神隠し』(2001年)では魔女の湯婆婆など、善悪の二元論では語れない存在感たっぷりなボスキャラが登場します。「濁濁併せ呑む」と豪語した徳間社長と重なるものを感じさせます。

 徳間社長は2000年に他界していますが、徳間社長が製作総指揮としてクレジットされているジブリ作品『耳をすませば』(1995年)、『もののけ姫』(1997年)、『千と千尋』はどれも高い評価を得ています。宮崎監督にとって、とても大きな存在だったことは間違いないようです。

 結局のところ、理想郷/ユートピアとは特定の場所を指すのではなく、人と人との出会いから生まれ、そこから築いていくものなのかもしれません。『天空の城ラピュタ』は、決して滅びの物語ではなく、人と人とが出会い、新しい可能性が広がっていく物語だといえそうです。

(長野辰次)

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