トラブルは「とんち」で解決する『一休さん』 モデルの一休禅師は波乱ばかりの人生?
マグミクス / 2023年7月5日 20時10分
■禅寺を舞台にした大人気コメディシリーズ
「はーい。あわてない あわてない。ひと休み ひと休み」
そんなセリフでおなじみだったのが、TVアニメ『一休さん』です。1975年10月~1982年6月、テレビ朝日系で全国放映され、全296話がオンエアされた人気作でした。
制作は東映動画(現・東映アニメーション)。チーフディレクターは、劇場アニメ『長靴をはいた猫』(1969年)などで知られる矢吹公郎監督です。
室町時代の京都を舞台に、禅寺の安国寺で修行に励む一休さんが、さまざまなトラブルを「とんち」を使って、見事に解決していくコメディシリーズでした。番組スポンサーを務めていたのは「日本船舶振興会」。「戸締まり用心 火の用心」というCMが、いつも流れていたことを覚えている人も多いのではないでしょうか。
■相手を追い詰めすぎない「とんち問答」の妙味
とんち坊主として評判の一休さんに対し、豪商の「桔梗屋」の主人や将軍・足利義満が無理難題を吹っかけるというのが定番パターンでした。一休さんは禅寺の修行僧らしく坐禅を組み、頭を指で2回ほどなで回し、静かに瞑想にふけります。どこからか「ポクポクポク」と木魚を叩く音が流れてきます。
現代でいうところの「マインドフルネス」によって、一休さんは集中力を高め、「チーン」という鈴の音と同時に妙案をひらめきます。上から目線な桔梗屋、足利義満らをぎゃふんと言わせる一休さんでした。
「このはし わたるべからず」と橋の前に立札を掲げた桔梗屋に対し、一休さんは堂々と橋の真ん中を歩き、「端は渡りませんでしたよ」と言い返します。屁理屈っぽい気がしないでもありませんが、いばった大人や権力者たちを相手に、鮮やかに論破してみせます。
そんな一休さんに、さよちゃんも、寺社奉行の新右衛門さんも、「すき すき すき すき すき すき 愛してる」(主題歌『とんちんかんちん一休さん』)状態になってしまいます。
いつも一休さんにやり込められている桔梗屋の美人娘・弥生さんも、一休さんに返り討ちされるのが次第に楽しみになっていったようです。ちょくちょく、安国寺を訪ねるようになります。
いじわるな難問にも、ユーモアで切り返すのが一休さんの流儀です。「とんち問答」だけに、負けた相手も「一休さんにはかなわないなぁ、あははは」と笑って、一件落着です。一休さんも、相手を不必要に追い詰めることは基本的にしません。お互いに引き際を心得ていたからこそ、成り立っていた「とんち合戦」だったと言えるでしょう。
人気アーティストの「水曜日のカンパネラ」は「一休さん」、レキシは「一休さんに相談だ」など、一休さんをモチーフにした曲をリリースしています。マウンティングの取り合いが日常化し、争いが絶えない現代社会こそ、一休さんの「とんちスピリット」は大いに見習いたいところです。
■権威や常識に囚われなかった実在の一休禅師
一休とさよちゃんが描かれる、アニメ『一休さん』DVD6巻(ビクターエンタテインメント)
とんち話の数々で有名な一休さんは、室町時代に実在した臨済宗の高名な僧侶・一休宗純がモデルです。TVアニメでは天皇家の血筋を引いているというエピソードが語られていましたが、これも創作ではなく、本当に後小松天皇のご落胤(隠し子)だったと言われています。母親は敵対する南朝側の家柄で、まるで『ロミオとジュリエット』の間に生まれた子供のような複雑な家庭環境だったようです。
TVアニメでは一休さんのかわいらしい少年時代しか描いていませんが、実在した一休禅師はかなりワイルドな人生を送っています。仏門に入りながらも、お酒を飲み、肉も食べ、自殺未遂事件まで起こしています。さらには77歳にして、50歳年下の盲目の女旅芸人・森女との同棲生活を始めました。晩年、森女とラブラブな様子をいくつもの詩として書き残しています。
その一方では、戦乱のために荒廃してしまったお寺の数々を復興させることに、一休さんは尽力しました。権威や常識に左右されることなく、人間らしく自由奔放に生き、多くの庶民から慕われたそうです。蜷川新右衛門さんもTVアニメ上の架空の人物ではなく、実在した一休さんの親友でした。風狂を極めた超ファンキーな破戒僧、それが一休さんの実像だったようです。
■困ったときこそ思い出したい一休さんの精神
当時としてはかなり高齢となる87歳で亡くなった一休さんですが、お寺を守る弟子たちのために一通の手紙を書き残したとも言われています。弟子には「本当に困ったとき、この手紙を読みなさい」と伝えたそうです。
一休さんが亡くなった後、お寺のことで困り果てた弟子が、手紙を開けるとこんな内容が書かれていました。
「心配するな 大丈夫 なんとかなる」
この遺言エピソードは、後世の創作ではないかと言われていますが、それも庶民から愛された一休さんならではの伝説ではないでしょうか。
一休という名前も、修行僧時代に詠んだ「人生とは この世からあの世へと向かう ほんのひと休み」という詩にちなんだものだそうです。
パニック状態に陥りがちなときこそ、「あわてない あわてない。ひと休み ひと休み」という『一休さん』の精神を、ぜひ思い出したいものです。
(長野辰次)
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