アニメの「SF考証」って何する人? 『ガンダム』にミノフスキー粒子という設定を与えた功績
マグミクス / 2023年7月9日 6時10分
■「SF考証」は何をしている?
1970年代から『機動戦士ガンダム』を代表として、ロボットを題材にしたTVアニメーションで人気を得てきたサンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の作品群。その人気を常に下支えしてきたもののひとつに、綿密に作り上げられた物語の舞台背景や、その成り立ち、登場するロボットをはじめとするメカなどの存在があります。
初代『ガンダム』からすでに40年を経た現代、しばらく前に話題となった「Pepper」(ソフトバンクロボティクス)や「ASIMO」(本田技研工業)、犬型ペットロボット「AIBO」(ソニー)、多くの家庭で使われている掃除用のロボットなど、ロボットはすでに一般生活にもなじみあるものになっています。
しかし、アニメに登場するような人型で巨大なロボットは、未だに実現には至っていません。足や腕が動く横浜の「動くガンダム」も、実際は固定された重機の発展系のようなものなので、物語に登場する、巨大でありながら人間同様に動くようなロボットの実現はまだまだ先のようです(それにはさまざまな「法律」や「規制」なども関わっているので、テクノロジーとはまた違った問題も絡みます)。
いずれにしろ、放送当時でも、画面同様のガンダムを実在させるのが難しいことはわかっていました。それでも、作品の性格上、それまで「フィクションだから」でスルーできた人型の巨大ロボットに、どうやったら現実味を持たせることができるのか、ということを作り手はこれまで以上に考えねばなりません。
そこで重要なのが、物語の舞台や文化水準、価値観、国家体制などの「設定」です。特にメカには「SF設定」という専門知識を加味したものが必要でした。たとえば、
・ガンダムを動かす動力は?
・ 広い宇宙空間で、どうして斬り合いや目視の撃ち合いが必要?
・宇宙空間で人類が暮らすとしたら?
こうした点を作品内で理解してもらえれば、物語の中のロボットもドラマも、臨場感をもって受け取ってくれるはずです。しかし、それにはロボットの構造や、宇宙空間、テクノロジーそのもの等を、わかりやすく伝える作り手側からの工夫が必要です。
そこで、サンライズがとった方法が「科学考証」に特化した知識を持つ人々の登用でした。
初期には「スタジオぬえ」という、SF創作を得意とするクリエイターのプロ集団。後期には、東京工業大学他の現役の大学生さんたちが加わりました。
「スタジオぬえ」は、サンライズの前身のひとつである「創映社」等が制作した『0(ゼロ)テスター』(1973年10月~)の時より、SF視点からのアイデア提供などで協力(作品当初はクリスタルアートスタジオ名)。これが縁となり、のちには『クラッシャージョウ』や『ダーティペア』などのアニメ作品も成立しています。
ロボット工学を専攻していた東京工業大学の学生さんは『太陽の牙ダグラム』『装甲騎兵ボトムズ』『銀河漂流バイファム』『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』等の作品で、宇宙空間で活用するメカの構造や素材、運用ポイント、さらに当時ではまだ最先端科学だったAIの存在など、さまざまなアイデアを提供してくれ、それらは『機動戦士Zガンダム』以降の「ガンダム」シリーズや『バイファム』『蒼き流星SPTレイズナー』『機甲戦記ドラグナー』等々に生かされています。
ちなみに、当時協力してくれていた学生さんたちは現在、世界的な学者になられたり、日本の大手各企業などで辣腕をふるったりしておられます。
彼らが考えてくれたSF設定をふたつご紹介しておきましょう。
※本文の一部を修正しました。(2023.7.10 7:50)
■ミノフスキー粒子はなぜ生まれた?
ミノフスキー粒子があるからこそ、MS同士による目視の銃撃戦も成立する。画像は「RG RX-78-2ガンダム 1/144スケール 色分け済みプラモデル」(BANDAI SPIRITS)
●なぜ宇宙で斬り合いや目視の戦いが必要なのか
スタジオぬえの一員で『ガンダム』の脚本家でもあった松崎健一さんが提案した「ミノフスキー粒子」の存在。『ガンダム』世界にばらまかれている架空の粒子です。このせいで精密なレーダーの使用などが不可能になったとされます。名前は「(と)ミノ“フ”スキー」。ファンの間では有名な逸話です。
●『0083』のコロニー落としの方法
回転したままふたつ並べて移動させている途中のコロニー(宇宙空間で人が暮らしている人工の島)の片方の太陽光取り入れ用のミラーを一本折ると、重心がずれ回転軸もずれるのでぶつかり合う。これを利用してコロニー落としを慣行。当時はすでに社会人になられていた元大学生のアイデアです。この行程は『0083』で是非ご確認ください。
なお、アニメ番組のクレジット表記には「SF設定」というものと「SF考証」という二種類があるようですが、このふたつには、はっきりとした区分があるわけではないようです。私が所属していたころのサンライズは、大ざっぱに「設定は描いた(書いた)もの」「考証は考えた内容」という区別で用語を使っていました。ただ、それが正しかったかは定かではありません。
【著者プロフィール】
風間洋(河原よしえ)
1975年よりアニメ制作会社サンライズ(現・バンダイナムコフィルムワークス)の『勇者ライディーン』(東北新社)制作スタジオに学生バイトで所属。卒業後、正規スタッフとして『無敵超人ザンボット3』等の設定助手、『最強ロボ ダイオージャ』『戦闘メカ ザブングル』『聖戦士ダンバイン』『巨神ゴーグ』等の文芸設定制作、『重戦機エルガイム』では「河原よしえ」名で脚本参加。『機甲戦記ドラグナー』『魔神英雄伝ワタル』『鎧伝 サムライトルーパー』等々の企画開発等に携わる。1989年より著述家として独立。同社作品のノベライズ、オリジナル小説、脚本、ムック関係やコラム等も手掛けている。
(風間洋(河原よしえ))
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