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『ガンダム』宇宙移民が連邦を憎むのはナゼ? 軋轢を生んだ歴史的背景

マグミクス / 2023年7月13日 6時25分

『ガンダム』宇宙移民が連邦を憎むのはナゼ? 軋轢を生んだ歴史的背景

■不満があるのはサイド3だけ?

 アニメ『機動戦士ガンダム』に登場する「宇宙世紀」は、スペースコロニーへの移民開始後に西暦から移行された紀年法です。

「人類はひとつになれるという事実を普遍化し、協調し、一個の種として広大な宇宙と向き合う」という祈りを込めて「単なる宇宙世紀(ユニバースセンチュリー)ではなくあえて普遍的世紀(ユニバーサル・センチュリー)と言う表記にした」とされています。

 その高邁な思想に反して、宇宙世紀は初代首相であるリカルド・マーセナスが、宇宙世紀元年に暗殺されるなど、「人類はひとつになれない」スタートとなります。

「ガンダム」で描かれる宇宙世紀の大半が「腐敗した地球連邦政府」に対して、独立を求めたスペースノイド側の勢力が武力行使する構図となっています。となれば、最初に描かれたジオン公国の独立戦争以前でも、地球連邦に対する不平不満が渦巻いているはず。どうしてそこまで連邦は憎まれているのでしょうか。

 ジオン公国のギレン・ザビはデギン公王に「地球連邦の絶対民主制が何を生み出しましたか。官僚の増大と情実の世を生み、あとはひたすら資源を浪費する大衆を育てただけです」と発言していますから、地球連邦の政治制度は民主主義国家なのでしょう。

 その連邦政府には「地球連邦議会」があり、上院と下院が存在するようです。そして「総会」の決議を経て政策が実行されているようです。最高指導者は大統領ですが、実権は首相が持っているとされています。

「いつまでか」はわかりませんが、宇宙移民には、地球連邦政府への参政権が存在しないという資料もあります。宇宙世紀0050年には、総人口110~120億人の内、90億人が宇宙移民となっており、これが本当なら、民主主義国家で総人口の大半が参政権を持たないことになりますから、驚くべき話です。

「参政権がない」がどの程度なのか不明ですが、ジオン公国の大義名分を見るに、スペースノイドの政治的権利が不平等という事実はあるのでしょう。断片的な設定から「なぜ連邦が敵視されたのか」を推理してみます。

 まず、地球連邦の成立目的は「地球環境が極度に悪化したため、地球に住む人たちを強制的に宇宙に移民させる」というものです。

 しかし、現代の私たちが「先進的なスペースコロニーに移民できる」と言われても、「隕石でもぶつかったら」「コロニーが故障して重力が止まったら」「物資生産プラントが壊れたら」など、不安だらけだと思われます。

 そうした反対派をなだめ、宇宙に強制移民させるには「極端に税金が安い」とか「先に手を上げた住民ほど、特別な権利が持てる」といった「特権」が付与されたと考えられます。

 また、連邦政府は領土問題や民族問題を「人類はひとつになれる」宇宙世紀の理念で解決しようとしたはずです。領土問題は「コロニーを新規建設すればしただけ、領土が広がる」のですから、解決できます。民族問題も、同じ民族を同じコロニーに集めれば解決に向かうでしょう。

 ただし「同じ民族をコロニーに集める」と、意見の多様化は失われがちですし、政治的主張が過熱・原理主義化して、先鋭化する危険性もあるでしょう(ジオンがそうであるように)。

 こうしたことから、宇宙移民の初期において「スペースノイドは地球連邦政府の参政権を持たない」という制度設計が為されたのかもしれません。スペースノイドに参政権を与えれば「民意で地球からの移民を中止する」「特定民族の利益だけを追求した宇宙開発を進める」といった、地球連邦の設立趣旨に反した政治的決定がなされる可能性も高いからです。

 一方で各サイドには議会があり、そこへの参政権はあるようですから「連邦議会の参政権はないが、各サイドの自治政府への参政権はある」が初期の地球連邦のあり方なのでしょう。だとするなら、自然に、自分が所属するサイドを「国」と感じられるはずです。各サイドには10~20億人の人口がいるという設定ですから、現実世界の大国よりも、ずっと大きな政治勢力です。

 であるなら「民族なども近いサイドごとに、独立国家となって権益を守るべき」と考えるのは自然で、それがジオン・ズム・ダイクンも提唱した「宇宙移民者による国家建設思想」コントリズムでしょう。前述したように、筆者は「初期の宇宙移民者には特権が与えられた」と推察しますが、その特権階級が「ザビ家」のような名家になり、コントリズムと結びつくのは自然な流れです。

 ガンダムの政治勢力が「名家の血を引く特権階級」に支えられている傾向が強いのは、宇宙世紀の最初に作られた政治的構造に起因しているとも考えられるわけです。

 地球連邦政府から見れば、このような政治的独立の動きは容認できないでしょう。せっかく国家を廃止し、人類をひとつにしたのに、国家間対立を復活させるからです。

■ジオン共和国独立に至る背景

時代に翻弄されたジオン・ズム・ダイクンの子供たち、のちのシャア・アズナブルとセイラ・マスが描かれる『機動戦士ガンダム THE ORIJIN』第9巻(KADOKAWA)

 なお、コロニー建設には莫大な資金が必要とされます。初期は宇宙移民推進のために、税金の減免措置なども行われたでしょうが、宇宙移民が「当たり前」になれば「そんな安い税率では政府が立ちいかない。新規のコロニー建設費用も捻出しなければならない」という流れになるでしょう。

 そうなれば、各サイドの税率を上げたり、地球連邦側に有利な関税を設定したりすることになります。これは連邦から見れば「地球連邦の設立趣旨を守るために、当然の政策」、宇宙移民者からすれば「地球側の都合で、各サイドの既得権益を侵害する政策」と感じられるでしょうから、対立するのは構造的に当然のことでしょう。

 宇宙世紀0050年に新規宇宙移民が中止されたのは、110~120億人と言われる総人口のうち、90億人が移住したタイミングです。「宇宙移民にも終わりが見えてきた」と人々が感じた時期だと思われます。

 宇宙移民が完了すれば「地球連邦の設立趣旨」という大義名分は使えなくなり、連邦政府はさまざまな特権を失うので維持したい。各サイド側としても「宇宙移民拡大のために、これ以上税金を上げられるのは御免だ。我々は現状維持でよく、新規移民も必要としない」といった思惑となり、両者が合致したのでしょう。

 とはいえ「長年、地球連邦政府は宇宙移民を大義名分として、横暴な政策を進めてきた。連邦は成立目的の通り、全人類を宇宙移民すべき。連邦は役目を終えて解体し、スペースノイドの政府に生まれ変わるべきだ」と考える、スペースノイドも当然いたでしょう。

 地球連邦議員のジオン・ズム・ダイクンが、そうしたコントリズムによる独立国家建設を実践するために、サイド3に移住したのは、移民停止直後の宇宙世紀0052年です。

 宇宙世紀も50年が経過すれば、参政権が制限されようと、ダイクンのようにスペースノイドの側に立つ議員が出るのも自然なことです。さらにダイクンが独立宣言をしても、連邦軍の武力鎮圧が行われていない事実を考慮するなら、スペースノイド側も0050年の「宇宙移民停止」時点では、ある程度の参政権があり、連邦議会に影響力を行使できたとも考えられます。

 もちろん、多数派であるスペースノイドの意見が反映されたなら「連邦の設立目的」が覆される可能性も高いですから、国連常任理事国の「拒否権行使」のような制度や、アメリカ合衆国の「人口とは関係なく、各州から連邦議会に選出する議員は2名」のように、人口比を無視した選挙制度が実行されるなど、スペースノイドからは不満がある政府だったのでしょう。

 こうした歴史的な流れの中で、ダイクンは0058年のジオン共和国独立を果たしたとも考えられます。彼は、サイド3の名家であるザビ家などと結びついた上で、サイド3への移民を奨励し「地球から最も遠いサイド3の我々こそが、進化した人類・ニュータイプになれる」という、選民思想ジオニズムを立ち上げます。

 そして、宇宙世紀0067年にダイクンは連邦議会に「コロニー自治権整備法案」を提出したようです。独立したサイド3政府の首相であるダイクンが、連邦議会議員を兼任できるわけもなく、この時点では親ダイクン派の地球連邦議員がいた(つまり、ある程度参政権があった)から、連邦議会に、その法案を提出できたということでしょう。

 法案の内容は「月面の企業連合体や、各サイドのコロニー商工会議は政治的にも旧ジオン共和国を支援し、旧ジオン共和国は連邦政府へ各サイドへの政治的不干渉を約束させる」というもので、連邦議会で否決されます。

 ここでジオンへの支持が広がらなかったのは、地球から遠く、経済・思想的にも独立していたサイド3と、地球と近く、経済的に地球との結びつきが強い別のサイドでは「ジオン共和国独立」の捉え方に温度差があったということもあるでしょう。

 ダイクンから見れば「スペースノイド独立の先駆けとなった我が国を、月面都市や各サイドが支援するのは当然」でしょう。でも、各サイドは「我々は連邦政府から独立したいとは思っていないし、選民思想を掲げるダイクンをリーダーとして支援もしたくない」という考え方も成立するわけですから、「コロニー自治権整備法案」は各サイドの支持も得られなかったと思われます(支持を得られていたなら、各サイドは一年戦争で中立を宣言するでしょうから)。

 連邦政府としては、サイド3独立については、0059年より経済制裁は実施したものの事実上黙認してきたが、他のサイドにまで独立運動を広げられては、地球連邦崩壊に繋がるわけで、「コロニー自治権整備法案」提出の流れは、容認できる範囲を超えたのでしょう。

 筆者は「コロニー自治権整備法案」への連邦政府の対抗策は「サイド3・ジオン共和国からの移民奨励」だったと考えます。0050年に20億人だったサイド3の人口が、0079年の1年戦争なかには1億5000万人にまで減っているからです。

■サイド6だけ例外はナゼ?

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 地球連邦は独立したサイド3から、連邦領である他のサイドに移住した場合、さまざまな優遇措置が受けられるようにしたのでしょう。経済制裁下のジオン共和国よりも、他のサイドの方が住みやすいでしょうし、ダイクンやザビ家のカルト的な思想統治に賛同しない住人も多くいたから、サイド3から他サイドに移住して人口が減ったということです。

 特に、インフラ維持を支える技術者などの、ジオン共和国維持に必要な人材は「地球への移住」までも認める、といった特権を与えたのかもしれません。そうした敵対政策でジオンの国力は低下し「地球連邦の1/30」になったとも考えられます(総人口110億人で、サイド3に20億人いたなら「国力が連邦の1/30」にはならないでしょうから)。

 なお、ジオンに付かず、独立もしなかったサイド6での日常生活が『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』で描かれていますが、戦時中でも物が困窮することもなく、言論の自由もある文化的生活を営んでいますので、そこに「連邦の暴政」を感じさせる要素はありません。戦時中でこれなのですから、戦争前で苦しかったサイドは、経済制裁されたサイド3だけなのではないでしょうか。

 そして、連邦による敵対政策である移民推進は「コロニー自治権整備法案」提出の翌年、つまりダイクンが突然死した宇宙世紀0068年から進められたと想像します。

 こうなれば、ジオン独立支持派は「ジオン共和国崩壊の危機に、名家であるザビ家の元に団結せよ」という流れとなります。

 独立支持派から見れば「国家崩壊の危機に、サイド3から他のサイドに移住したジオン国民」は「スペースノイドにも関わらず、偉大なダイクンの思想を裏切り、連邦に尻尾を振った裏切者」です。であるなら、ジオンは移民を受け入れた他のサイドや地球への憎悪を募らせるはず。

「ガンダム」の設定への疑問として「ジオンは、同じスペースノイドであるサイド1・2・4・5をなぜ無差別攻撃したのか」と言われることがありますが、「サイド6以外は裏切者のサイド3移民を受け入れたからだ」と考えるなら、無理なく理解できると思えるのです。

「他のサイドへの攻撃はダメ」と考える穏健派の多くは、既に他のサイドに移住しており、他のサイドからは『機動戦士ガンダム THE ORIGIN』で描かれた「本物」のシャア・アズナブル青年のような「ジオンの理想に憧れた」移民が、サイド3へとやってきたのでしょう。この流れなら、過激思想への歯止めが無くなるのも、無理なからぬことです。

 なお、宇宙世紀0079年の一年戦争で破壊されたサイド1・2・4・5は、宇宙世紀0087年の『機動戦士Zガンダム』では再建されています。『逆襲のシャア』でクェスは0093年に「宇宙人口は100億人になった」と発言しています。

 一年戦争で「全人口の半数」が失われたのなら、戦争終了時の0080年で全人口は50~70億人程度です。地球に多くの人口が残っていたなら、宇宙人口が13年で100億になりません。つまり、連邦政府は「一年戦争で生き残った地球人口の大半」を、再建されたサイドに移住させたのでしょう(公約通り全人類が宇宙に移るべきだという批判をケアし、ジオンのような独立派が力を持ちにくいように)。そして「宇宙移民はほぼ終了したが、一年戦争で荒廃した地球圏の再建が必要」のような名目で、特権を維持し続けたのだと推測します。

『Z』以降の地球人は「それでも地球を離れなかった、ごく少数の特権階級か不法居住者」で、連邦政府は特権階級の保護組織だったということです。

 人口のほとんどが宇宙にいて、地球の政治的影響力が微弱だから、ハマーンが地球にコロニーを落としても、シャアが5thルナを落としても「実害がほとんどないので、徹底抗戦する必要はない」と、事なかれ主義での妥協が行われたとも考えられます。

 なお、ダイクンの残した「コントリズム」は、ジオンがなくなっても「ザンスカール帝国」のような形で、独立派を産み続けました。

 地球連邦としては「宇宙をひとつにする理念を、独立派から守る」という名目で、政府と特権を維持していたのでしょうし、独立派は「地球連邦と特権階級を叩く」という名目の方が動きやすいから「連邦の腐敗」と主張していたのでしょう。そこで両者の思惑が合致していたから、宇宙世紀は戦争ばかりすることになったのだと、筆者は考える次第です。

※本文の一部を修正しました。(2023.7.20 15:25)

(安藤昌季)

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