ガンダムを上回る『ザンボット3』の戦争描写が、「23年後」にもたらした衝撃とは
マグミクス / 2019年9月5日 19時40分
■『ザンボット3』なくして「宇宙世紀」は始まらなかった!?
劇場版『ガンダム Gのレコンギスタ』が全5部作として2019年11月29日(金)から公開が始まるなど、『機動戦士ガンダム』の放送開始40周年にあたる2019 年は、例年以上に「ガンダム」の生みの親・富野由悠季監督が注目を集めています。いまや世界中で人気の「ガンダム」シリーズですが、その“原型”とも呼べるのが、1977年~78年にテレビ放映された『無敵超人ザンボット3』(全23話)です。
巨大ロボットが市街戦を繰り広げることで街が崩壊し、避難民が続出。さらには激しい戦いの中でメインキャラクターたちが次々と戦死するという、ハードな内容のSFアニメでした。『ザンボット3』での振り切った演出があったからこそ、その1年後に『機動戦士ガンダム』が誕生したといっても過言ではないでしょう。いま見直しても強烈な印象を与える『ザンボット3』の魅力を探ってみたいと思います。
駿河湾を舞台にした『ザンボット3』の主人公は、神勝平(声:大山のぶ代)という12歳の少年です。勝平をはじめとする神ファミリーは、謎の宇宙人・ガイゾックによって母星ビアルを滅ぼされ、地球へ移住したという設定になっています。
しかし、地球にまでガイゾックの魔の手が伸びてきたため、勝平は「ザンボエース」、従兄弟の宇宙太(声:森功至)は「ザンブル」、同じく恵子(声:松尾佳子)は「ザンベース」にそれぞれ乗り込み、巨大ロボット「ザンボット3」に合体して、ガイゾックの放つメカブーストたちと死闘を繰り広げることになるのです。
ザンボエース、ザンブル、ザンベースの3機が連係して戦う様子は、『機動戦士ガンダム』のガンダム、ガンタンク、ガンキャノンが共闘する勇姿を彷彿させます。ザンボット3の母艦となる「キングビアル」は、「ホワイトベース」と同じように司令塔としての役割を果たしています。
■富野作品に流れるテーマ性の確立
主人公・勝平の声が大山のぶ代だったため、「えっ、ドラえもんが操縦するロボットヒーローものかよ」という戸惑いもあったのですが、大山のぶ代のユーモラスさのある声のお陰で、視聴者は救われた部分もあるように思えます。それほどまでに『ザンボット3』は悲惨さを極めたハードな物語だったのです。
勝平たち神ファミリーは、地球を守るためにガイゾックと戦います。それなのに、守られている側の人類はそうは感じていなかったのです。勝平の同級生で、不良グループのリーダー・香月(声:古川登志夫)は、ガイゾックの襲撃によって両親や幼い妹と生き別れてしまい、「神ファミリーがいるから、ガイゾックが襲ってくる」と勝平たちを逆恨みします。家を失った避難民に向かって、香月はヘイトスピーチを繰り返すのです。
勝平の幼なじみのアキ(声:川島千代子)さえも、勝平のことを憎むようになってしまいます。人と人とは容易には理解しあうことができない―。『ザンボット3』で描かれたこのテーマ性は、『機動戦士ガンダム』『伝説巨神イデオン』へと受け継がれていくのです。『ザンボット3』によって、富野監督は作家性を確立したといえるでしょう。
■1970年代の地方局だから許された「人間爆弾」
「ザンボット3」とともに描かれる、「ザンボエース」「ザンブル」「ザンベース」と登場者たち。「無敵超人ザンボット3 Blu-ray BOX」(ハピネット)より
予算も限られ、スタッフの体制も充分ではなかったため、アニメーション作品としては、一部に洗練されていないところもある『ザンボット3』ですが、逆に視聴者の脳裏に強烈に焼き付くことになります。第16話「人間爆弾の恐怖」から、“人間爆弾”をめぐる壮絶なクライマックスへと突入していくのです。
ガイゾックに拉致された避難民たちは手術を受け、体内に爆弾を埋め込まれてしまいます。本人はそのことに気づかずに町へ戻り、人類側は甚大な被害を被るのでした。そして香月の仲間や勝平とようやく和解を果たしたアキまでも、人間爆弾の犠牲者となるのです。
1999年に発刊された『富野由悠季全仕事』(キネマ旬報)に掲載されたインタビューのなかで、富野監督は『ザンボット3』の制作局が名古屋テレビだったことについて、こう語っています。
【あれがもしテレビ朝日だったら、明らかにシナリオの段階でチェックを受け、プロデューサーが「お前ら本気か」と飛んできたでしょう。地方局の人たちは、まだ物を作ることに自分たちがどう関与していいのかわからないという時代でしたので、誰も何も言わなかったんです】
■放送終了から「23年後」の衝撃
人間爆弾という恐ろしい攻撃を仕掛けてきたガイゾックに対し、神ファミリーは次々と“特攻”することで応戦します。第21話「決戦!神ファミリー」では、神ファミリーの長老・神北兵佐衛門(声:永井一郎)と勝平の祖母・梅江(声:武知杜代子)が、そして最終回「燃える宇宙」ではさらなる犠牲者を出すことになるのです。人類を守るために戦い抜いた勝平たちですが、あまりにも大き過ぎる代償でした。
衝撃的だった『ザンボット3』の最終回から23年後、私たちはさらなるショックを受けることになります。
人間爆弾はフィクション上のもの、特攻は太平洋戦争末期に起きた過去のものという認識でいた私たちは、2001年9月11日にハイジャックされた2機の旅客機によってNYのワールドトレードセンターが大崩壊していく様子をニュース映像として目撃したのです。言葉を失うしかありませんでした。
富野監督が描いた世界は、決して絵空事のものではなかったのです。アニメーションの世界は現実世界と地続きであることを、富野監督は『ザンボット3』の中ですでに描いていたのです。
※本文を一部修正しました。
(長野辰次)
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