高橋留美子ですら不明？ 『めぞん一刻』四谷さんの謎…職業は諜報員？ 面堂家のSP？

■「四谷」と書いて「謎」と読む？

　人気マンガ『めぞん一刻』の主な舞台である「一刻館」には、個性的でクセの強い人びとが住んでおり、相思相愛ながらもすれ違う五代裕作と音無響子の恋愛模様を影ながら見守ってきました。

　スケスケネグリジェを身にまとう姐御肌の六本木朱美、トラブルメーカーでありながら意外と頼りがいのある豪快なおばちゃん・一の瀬花枝、外面はいいけど空気がまるで読めない大学生・二階堂望、そしてなかでもひと際異質な存在だったのが「一刻館」4号室の住人・四谷さんです。

　彼は第1話の1ページ目から登場する古参メンバーにもかかわらず、職業不明、年齢不詳、下の名前すらわかっていません。わかっていることといえば、のぞきが趣味で、よく人にたかることくらい……。作中キャラクターですら「あの人、仕事なにやってんのかねー」と首をかしげるほどです。はたして四谷さんは何者なのでしょうか。

　実は四谷さんには元ネタとなったキャラクターがおり、作者・高橋留美子先生の公式Twitterに掲載された「キャラクター小話」でそのことが言及されています。いわく、デビュー当時に描いたマンガ『ダストスパート！！』の背古井唯安（せこいただやす）を元に作られたのが四谷さんのようです。

　背古井は「HCIA」、通称「日の丸シーアイエー」という諜報機関のエージェントであり、よくスーツ姿で出かける四谷さんとはどこか通ずるものがあります。ただ『ダストスパート！！』と『めぞん一刻』の世界観は全く異なるため、「同一人物ではない」「あくまで元ネタ」と捉えるのが妥当かもしれません。

　一方でファンの間でまことしやかにささやかれているのが、「四谷さん＝サングラス部隊の一員」とする説です。サングラス部隊とは『うる星やつら』で桁違いの資産を有する面堂家に仕えているお世話係のことで、説の根拠としては四谷さんにサングラスをかけると、作中に登場したサングラス部隊にそっくりになるため。

　実際にネット上でも「四谷さんはずっと面堂家のSPだと思ってた。だってサングラスかけたらまんまそうじゃない？」「私は四谷さん面堂家のサングラス部隊説を推す」といった声が上がっていました。

　また『めぞん一刻』のアニメ第44話「賢太郎君もマッ青！？　四谷の恐るべき正体」には、仕事帰りの四谷さんがアタッシュケースの中身を見せるシーンが登場します。中に入っていたのは、隙間なく敷き詰められた大量のゴム紐でした。

　これを見て「ゴム紐屋さん？」と唖然とする三鷹瞬を前に、四谷さんは「たとえば先生とよばれる人すべてが教師なわけではなく、ある団体に出入りする人すべてがその職員なわけではない」「そして秦の始皇帝は万里の長城を築いたが大工さんではなく、ゴム紐を持ち歩く人も、実は市役所の戸籍係かもしれないのです」と語ってその場を立ち去っています。結局のところ四谷さんの正体は何ひとつ掴めないまま物語は幕を閉じますが、彼の言葉を鵜呑みにするならば本当に「市役所の戸籍係」の可能性も……。

　ちなみに四谷さんの職業については、長らく作者の高橋留美子先生も「不明」としています。作中キャラクターも、生みの親ですらもわからない四谷さんの正体。本当に謎多き人物ですが、何も明らかになっていないからこそ、今もこうして語り草となっているのではないでしょうか。

（ハララ書房）