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『エリア88』新谷かおる氏が語る、愛すべき航空機たち 「原点は松本零士氏のスタジオに」

マグミクス / 2023年7月20日 18時10分

『エリア88』新谷かおる氏が語る、愛すべき航空機たち 「原点は松本零士氏のスタジオに」

■ヒコーキの爆音が、子守り歌替わりだった

『エリア88』など航空戦記マンガの名手として知られる新谷かおるさんは、第二次世界大戦で活躍したレシプロ機から戦後のジェット機まで、たくさんの航空機を描いてきました。2021年に重版となった画集『新谷かおるARTWORKS』の反響に応え、『新谷かおる航空機グラフィティ』(以上、玄光社刊)が2023年7月28日(金)に刊行されます。ご自身にとっての航空機への思いをお聞きしました。

――新谷かおる先生が、航空機に興味を持つようになったきっかけをお聞かせください。

新谷 私は、大阪府豊中市の出身です。伊丹空港、現在の大阪国際空港ですが、その近くで育ちました。ヒコーキの爆音が、赤ん坊だった私の子守り歌替わり。そのためか、子供の頃から航空機が大好きだったんです。

 高校卒業後、空港でアルバイトしていた時のこと。海外から、輸送専門の航空会社が来ていました。その会社のジャンボ機の機首には、軍用航空機さながらのシャークマウスのペイントが施されていました。いかにも「不良ジャンボ」といった感じで、機長をはじめとする乗員たちはアブナイ雰囲気。帽子を斜めにかぶり、レイバンのサングラスを掛けて、何やら打ち合わせをしている。鞄の上に「ドカッ!」と足を乗っけながらです。禁煙区域でも平気で煙草を吸う彼らを見て、私は「爆撃機上がりだ!」と想像しました。この時の鮮烈な記憶が、のちに私の作品として結実しています。

――「コミックバーガー」(スコラ)に連載された『ALICE12』は、B-52爆撃機上がりのモーガン機長が操縦する「貨物便ALICE12」のお話です。爆撃機には、昔から興味があったのですか。

新谷 私が青春時代を過ごした1960年代は、海外ドラマの秀作揃いでした。グレゴリー・ペック主演で有名なアメリカ映画『頭上の敵機』(1949年)。この作品は、のちにドラマとしてテレビシリーズ化されています。第二次世界大戦の欧州戦線で、対ドイツ戦略爆撃を行ったアメリカ陸軍航空隊第8航空軍のお話です。

 昔のアメリカのドラマは、タイトルが映されるまでの導入部分、プロローグが長かった。最初に爆撃機乗りたちの会話劇が続いて、それから「バーン!」とタイトルが出るんです。アメリカならではのセリフ回しの楽しさに魅了されました。

 いつか、B-17フライングフォートレスやデ・ハビランド モスキートが登場する「爆撃機もの」を描いてみたい……。『頭上の敵機』や、『633爆撃隊』(1964年)などの映像作品に感銘を受けていた私は、のちに「ヤングキングアワーズ」(少年画報社)に『RAISE』という作品を発表しています。B-17爆撃機に乗った囚人搭乗員たちのお話です。

 B-17には、10人の搭乗員が乗っていました。だけど、援護なしの昼間爆撃は犠牲が多い。たとえば1000機の出撃で、300機が撃墜されたら3000人の犠牲が出るんですね。まさに「行くも地獄、帰るも地獄」の片道切符。私は、爆撃に命運を賭けた男たちの思いをセリフに託したくて、爆弾投下の合図を「レイズ!」という掛け声にしています。「レイズ」は、ポーカーで勝負に出る時の掛け声なんです。

■航空戦記マンガの「持ち込み」が転機に

『新谷かおる航空機グラフィティ 著者が語るビジュアルガイド』(玄光社)。帯には「私が描いた飛行機は、みんな愛すべきキャラクターです」という著者の推薦文が入る。

――新谷かおるさんは、高校卒業後しばらくしてから上京され、松本零士先生の零時社でお手伝いをしています。

新谷 零時社で、初めてお手伝いしたのが「戦場まんがシリーズ」の『音速雷撃隊』でした。太平洋戦争末期に、特攻兵器・桜花で散ったパイロットのお話です。見開き扉には、桜花を搭載した一式陸上攻撃機が描かれていますが、その直衛機の零戦をいきなり任されてビックリしました。

 零時社では、松本先生が買ってきたプラモデルの組み立てをした思い出があります。私は一生懸命組み立てるのですが、松本先生は「工場から出てきたばかりの新品のようだ」とおっしゃる。そして、私がきれいに仕上げたプラモデルに汚し加工をした挙句、線香の火を押し当てて「ブスブス」と穴を開けてしまうんです。「戦場から還ってきた飛行機は、こういう物なんだ」とおっしゃって、被弾痕を開けるわけですね。松本先生からは、「飛行機が被弾すれば、悲鳴を上げるし、被弾痕から血のようにオイルを流すんだ」と教わりました。飛行機を、単なるメカニックではなく「キャラクター」として描くという意味で、そのお話は私の作品に大きな影響を与えています。

――その後、新谷かおる先生は零時社から独立し、連載デビューをしています。

新谷 当時幼稚園入園を控えていた娘に、アシスタントではなく一人前のマンガ家として名乗れるようになりたいと思ったんです。零時社を辞めた後しばらくは、マンガを描き溜めていました。やがて妻(マンガ家・佐伯かよの)が背中を押してくれて、秋田書店の編集者に作品を持ち込みます。それが、今回の画集に生原画バージョンで収録された『翔ぶ日に…』です。私が少年時代から大好きだった航空戦記マンガ。これが契機となって、「月刊プレイコミック」で「戦場ロマン・シリーズ」の連載に漕ぎつけました。

■山ほど描いた飛行機マンガ。機体の数はギネス級?

『新谷かおる航空機グラフィティ 著者が語るビジュアルガイド』(玄光社刊)収録の、『エリア88』紹介ページ。エリア88のクフィルが、敵機MiG-27を撃墜する

――「戦場ロマン・シリーズ」の連載デビューからおよそ40年にわたり描き続けた航空機を収録した『新谷かおる航空機グラフィティ』では、バラエティ豊かな航空機が誌面を飾り、その種類の多さに驚かされます。

新谷 40年もマンガを描いてきましたので、「塵も積もれば山となる」ということですね。
「戦場ロマン・シリーズ」に続いて、小学館の「週刊少年サンデー」増刊号で『ファントム無頼』(原作・史村 翔)の連載を、「少年ビッグコミック」で『エリア88』の連載を始めています。「戦場ロマン・シリーズ」では、松本零士先生の「戦場まんがシリーズ」とは異なる、自分なりの戦争の描き方を追求しました。

 しかし『西遊記』の孫悟空ではありませんが、自分がまだ師匠の掌(てのひら)から抜け出せていないような気がしたんです。そこで挑んだのが、ジェット戦闘機を主役にした作品でした。「使いやすい機械を選ぶように、乗りたい飛行機に乗る。そんな世界があってもいいのではないか……」。そんな思いから、『エリア88』では数多くの航空機を登場させました。

 エリア88に所属する傭兵のキャラクターに合わせて、それらしい搭乗機を用意しています。実際には整備などの問題があるため、これだけの機体が集まる基地はありませんが、エンターテインメントとして好きな世界を描かせてもらいました。自分で言うのもおかしいですが、これだけたくさんの飛行機を登場させたマンガ家は、他にはあまりいないと思います。レシプロ機からジェット機まであわせると、私がマンガに描いた機体の数はギネス級と言ってもいいかもしれない(笑)。

 ただ、『エリア88』を描いた時代はまだまだ資料が乏しく、情報を集めるのに苦労しました。今のように、インターネットやDVDで航空機の姿を見られるわけではありません。とにかく軍用機は秘密のベールに覆われていますから、古書店で輸入書籍を探し求めるなど、手探りのなかで執筆していました。

 その一方で、マンガでは事実に忠実に描くことが、必ずしも正解ではないという思いがあります。たとえば雨のなかで飛行機を飛ばした方が、パイロットが抱える心情を表現できる場面もある。描いた機種が全天候型ではなく、雨天の飛行に矛盾があったとしても、マンガの演出として有効なこともあると思うのです。今回、そういった私の思いを編集部が聞き取って「空のよもやま話」として画集に挿入しています。画集を楽しむ一助として、原画とともに楽しんで頂けると嬉しいです。

 2021年には、航空自衛隊のF-4EJファントムIIが退役しました。私が描いた飛行機たちも、いつかは姿を消していきます。だけど私は、銀翼が放つ輝きを原稿用紙に描き留めておくことができた。「忘れないよ、お前たちのことを」。私のマンガを飾ってくれた飛行機たちに、そんな声をかけてあげたいです。

※文中一部敬称略
(c)新谷かおる

●『新谷かおる航空機グラフィティ 著者が語るビジュアルガイド』(玄光社)
2023年7月28日発売予定、A4変型判、272ページ、全ページカラー印刷。本体4,500円+税

(取材・メモリーバンク)

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