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『もののけ姫』にケンカを売った? 「生きろ。」に反応した富野由悠季、庵野秀明のメッセージとは

マグミクス / 2023年7月21日 19時10分

『もののけ姫』にケンカを売った? 「生きろ。」に反応した富野由悠季、庵野秀明のメッセージとは

■1997年、日本のアニメは新次元の扉を開けた

 10年ぶりとなる宮崎駿監督の新作アニメ『君たちはどう生きるか』が、2023年7月14日より劇場公開されています。同じく、宮崎駿監督の大ヒット作『もののけ姫』(1997年)は、7月21日(金)の「金曜ロードショー」(日本テレビ系)で放映されます。

 国民的アニメーション作家と称される宮崎駿監督ですが、その最高峰作として『もののけ姫』を挙げる人は多いのではないでしょうか。自然と文明との関係性を描いたシリアスなテーマ、スタジオジブリのハイクオリティな作画力、有名俳優らを声優に起用した話題性、日本テレビを中心にした宣伝攻勢もあって、興収は193億円に。従来の国内映画の興収記録を大幅に塗り替えるメガヒット作となりました。

 日本のアニメーションが、それまでとは異なる新次元に突入した画期的な作品だったと言えるでしょう。「金ロー」での放映は今回で12度目となる『もののけ姫』ですが、劇場公開時のキャッチコピーは「生きろ。」でした。シンプルなコピー「生きろ。」に反応した人気クリエイターたちの動向は、興味深いものがあります。

■「生きろ。」とは真逆だった旧劇場版『エヴァ』のコピー

 戦乱の絶えなかった中世の日本を舞台にした『もののけ姫』は、制作された1990年代の日本の社会状況を色濃く反映した時代劇となっています。1991年~93年に、日本のバブル経済は崩壊。以降、現在まで続く「失われた時代」が始まることになります。1995年には阪神淡路大震災、地下鉄サリン事件が起き、それまでの価値観が大きく揺らいだ世紀末でした。

 自殺者も急増し、警察庁の発表では1998年から年間の自殺者数が「3万人」という大台が14年間にわたって続くことになります。そんな不穏な社会状況に向かって、『もののけ姫』の「生きろ。」というコピーが放たれたのです。

 このコピーを考案したのは、『となりのトトロ』(1988年)でサツキとメイの父親役を声優として演じたコピーライターの糸井重里氏でした。『もののけ姫』の劇中、主人公のアシタカが森で育った少女・サンにつぶやく「生きろ、そなたは美しい」や、ラストシーンでやはりアシタカが語る「ともに生きよう」というセリフを活かした、非常に端的なコピーでした。

 ちなみに『もののけ姫』が封切られた7月12日の翌週、7月19日からは庵野秀明監督の『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』が公開されています。こちらのキャッチコピーは「だから みんな、死んでしまえば いいのに…」でした。

 主な登場キャラクターが次々と亡くなるという壮絶なラストを示唆したコピーでした。「生きろ。」「死んでしまえば いいのに…」という実に対照的な惹句が躍るポスターが、同時期の映画館に張り出されることになったのです。

 賛否を呼んだ『Air/まごころを、君に』の興収は、24億7000万円でした。

■復活のトミノが放った「頼まれなくたって、生きてやる!」

「頼まれなくたって、生きてやる!」富野由悠季監督『ブレンパワード』(1998年4月8日より放映スタート)

 社会現象になるほどの大ヒットを記録した『もののけ姫』に対し、さらに強く反応した人気クリエイターが現れました。『機動戦士ガンダム』(テレビ朝日系)で知られる富野由悠季監督です。1998年4月~11月にWOWOWで放映されたTVアニメ『ブレンパワード』のキャッチコピーは「頼まれなくたって、生きてやる!」でした。

 まるで『もののけ姫』にケンカを売るかのような意気込みで、富野監督は『ブレンパワード』全26話の制作に挑んだのです。

 富野監督は『機動戦士Vガンダム』(テレビ朝日系)を1993年~94年に放送して以降、低迷期にありました。5年ぶりのTVシリーズとなる『ブレンパワード』は、有料チャンネル「WOWOW」での放映ということもあり、視聴率やスポンサーの意向に左右されることなく、富野監督は作家性を自由に発揮しています。そのことが精神的にもプラスに作用したようです。

 ジャンルとしては巨大ロボットものに入る『ブレンパワード』ですが、主人公たちが乗り込むブレンパワードは純然なロボットではなく、未知の力を秘めた生体マシンという設定です。主人公たちがブレンパワードに愛情を注げば、それに応えてくれるのです。人間と馬のような関係として描かれています。近未来のSFアニメながら、昭和テイストの町や日本家屋が重要な舞台になっていた点も印象的でした。

 1990年代後半はインターネットが広く普及した時代でもありましたが、富野監督の『ブレンパワード』はデジタル化が進む社会に「ちょっと待てよ」とばかりに、人間と自然との有機的なつながりを見つめ直した作品になっていました。作風はまるで違いますが、富野監督も宮崎監督も、同じようなテーマの作品をほぼ同時期に手がけていたことになります。

■連鎖の波は、再び庵野監督へ

 一時期は「うつ」状態だったことを打ち明けている富野監督ですが、『ブレンパワード』の制作を通し、すっかり元気になっていきます。1999年~2000年には「黒歴史」という言葉を生み出した『∀ガンダム』(フジテレビ系)で完全復活を遂げ、二部構成となる劇場版『∀ガンダムI 地球光』『∀ガンダムII 月光蝶』(2002年)も公開しています。

 続いて富野監督は、『機動戦士Zガンダム』(テレビ朝日系)を20年ぶりにセルフリメイクした劇場版『機動戦士Zガンダム A New Translation』三部作(2005年~2006年)を発表します。

 バッドエンディングで知られるTV版『機動戦士Zガンダム』が、劇場版では明るい結末に変わったことに、往年のファンは驚きました。そして、この『Zガンダム』劇場版三部作に大いに触発されたのが、庵野監督でした。旧シリーズを新たにリメイクする『エヴァンゲリヲン 新劇場版:序』(2007年)に着手することになります。

 こうして振り返ってみると、トップクリエイターたちはその時代の空気を自分の作品の中に取り込むのと同時に、クリエイター同士も強く影響し合っていることが感じられます。宮崎駿監督の新作『君たちはどう生きるか』は、いったいどんな影響を巻き起こすのでしょうか。

(長野辰次)

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