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『Zガンダム』非人道的な「強化人間」が生まれたワケ 「戦争」のためだけではなかった?

マグミクス / 2023年7月26日 6時10分

『Zガンダム』非人道的な「強化人間」が生まれたワケ 「戦争」のためだけではなかった?

■選民思想と結びついている?

「強化人間」とは、アニメ『機動戦士Zガンダム』より登場した設定で、人間を人工的に強化することで、超人的な身体能力やパイロットとしての操縦技術を付与した、人間兵器です。

 前作『機動戦士ガンダム』の舞台である1年戦争の時期でも、後発作品では「本来兵士には適さない女性や子供でも戦える技術」としての、強化人間が登場していします。例えば、マンガ『機動戦士ガンダム MSV-R ジョニー・ライデンの帰還』には、イングリッドとユーマのふたりが強化人間として登場します。

 ユーマは少年ながら、志願して身体強化を受けており、大人に負けない身体能力を持っていました。イングリッドはクローン人間で、恐らくは1年戦争中に作られ、急速成長胚で10代前半の少女のような外見となっています(ユーマは劇中でイングリッドを10代後半の自分と同じ年齢と言っていますが、それだとジョニー・ライデンが幼児のときに遺伝子を提供したことになるので、ユーマがイングリッドの素性をよく知らないだけでしょう)。

 上記を考えると、1年戦争中のイングリッドは下手をすると1歳にもなっていないはずですが、彼女は社会的な知識や判断能力を、外見年齢と同じ程度か、それ以上に持っていますし、周囲の感情の動きや政治的状況も正しく理解していました。

 つまり、宇宙世紀0079年の時点で既に「クローン人間の製作目的に必要な記憶や、世間知を植え付ける」技術が存在したことになります。

『Z』では、ティターンズにフォウやロザミアが記憶を改竄され、その精神的トラウマでニュータイプ能力のような精神感応力が強化されている描写もなされています。『機動戦士ガンダムUC』でも、マリーダは記憶改竄を受けて、バナージらを忘れてしまう描写がなされています。宇宙世紀では人間の記憶は「作れる」ものということです。

 なお、最初の強化人間を生み出したジオン公国も、民主主義国家である地球連邦から独立した国家です。基本的人権の教育を受けたことがある国民で構成されているはずですが、ジオンは長年に渡り、人権を無視した非人道的な研究を進めてきたことになります。

 なぜ、非人道的にも思える、記憶を付与・改竄する技術や、身体能力を強化する技術が必要とされたのでしょうか。筆者は「宇宙開発の困難さ」と「ジオンの選民思想」が合わさったものだと推察します。

■ジオンの「選民思想」との根深い関係

『機動戦士ガンダムZZ』に登場した強化人間のひとり、エルピー・プル。プルのキャラクターブック『機動戦士ガンダムZZ エルピー計画』(徳間書店)

「人類が増えすぎたことで地球環境が極度に悪化し、宇宙移民を進めることになった」が宇宙世紀の基本設定ですが、それだけ状況が逼迫していたとも言えます。

 宇宙世紀で多数存在するスペースコロニーや、月面都市の建造は、人工衛星や宇宙ステーションを打ち上げるのとは比較にならないほどの困難が待ち受けているでしょう。未経験のことばかりでしょうし、地球からもそれまでとは比較にならないほどのロケットを打ち上げたりしたでしょう。

 当然、予期しない事故も多発したはずです。『機動戦士ムーンガンダム』では、最初期のスペースコロニーであるムーンムーンは、充分な放射線遮断がなされていないことが描写されています。『ガンダム』でも、テム・レイが宇宙に投げ出されて、酸素欠乏症になり、精神的な障害を持つ描写もなされています。

 これに類似するか、もっと大規模で「宇宙開発を進める中で、予期しない事故」は起こり続けてきたはずです。また「外壁を隔てたら宇宙空間」であるスペースコロニーに、強制的に移住させられた人々の中には、不安感で精神を病む人も多くいたでしょう。

 とはいえ、宇宙移民を断念できないほど、地球環境が悪化した状況では、そうした人々の不安感に寄り添う政治をする余裕は少なかったのでしょう。こうした情勢の中で「宇宙での作業での生存率を向上させるため」に、記憶操作・身体強化をするための技術が開発されたのではないでしょうか。

 記憶の付与・操作技術は、大量の宇宙移民が抱える不安感の改善や、宇宙事故に起因するトラウマの解消、また「宇宙開発に必要な知識やスキルを、学歴を問わずに確実に覚えさせるため」に開発された医療技術なのではないでしょうか。

 そうした人間の強化技術と、ジオン・ズム・ダイクンが説く「スペースノイドは進化した人類で、ニュータイプとして開花する」という思想は親和性が高いでしょうし、実際に「ニュータイプ」を疑われるような個人は、1年戦争前からいても不思議はありません。

 実際、ゲーム『機動戦士ガンダム外伝THE BLUE DESTINY』に登場するニュータイプの少女・マリオンが示した能力を恐れたジオンの科学者クルストは、ニュータイプを殲滅する必要性を感じて「EXAMシステム」を開発しています。

 このような流れの中で「優れた能力を示したニュータイプかもしれない個人の遺伝子」を研究することで「人類をニュータイプに開花させられる」という思想にもなり、クローン人間の開発もなされたのではないでしょうか。

 人工的に優秀な兵士を作る研究は、人口が少ないジオンが連邦に勝利するための切り札とも考えられたのでしょう。

 イングリッドやユーマの事例から見て、初期の強化人間でも、ある程度後天的に知識やスキル、身体能力を付与できるようですから「勉強が不得意な人物でも、この研究で高度なスキルを得られた」「身体的な問題が、この研究により解消された」といった「目に見える成果」があり、人道面の懸念は段階的に減ったとも考えられます。

 人道的な問題や人権は「人類をニュータイプに進化させるべき」という、ジオンの選民思想により塗りつぶされたというのもあるでしょうし。

 強化人間の技術は、1年戦争後に連邦に渡り、ティターンズの強化人間に繋がります。非人道的な技術ですが、封印できる状況ではなかったのでしょう。

「全人類の半数が死ぬ」1年戦争で、重度のトラウマを抱えた人が無数に発生したことは容易に想像できます。そうした多数の人々を「コロニー落としの事実が起こった後で、修復・建設したスペースコロニーに住まわせている」のですから、記憶改竄や、新規知識を与える超高度医療技術の必要性は増すばかりだったとも考えられます。

 アムロがガンダムをいきなり操縦できたのは「ニュータイプだから」でしょうけど、宇宙世紀の人々は、上記の理由で、時期によってはある程度の「宇宙で生存するための知識・技術」を、出生時より医療的な方法で付与されていたのかもしれません。

 全員が高いニュータイプ能力を持つわけではない「シャングリラの子供たち」が、『機動戦士ガンダムZZ』で、高性能モビルスーツでの戦闘技術をすぐに取得しているところを見ると、そんなことを考える次第です。

(安藤昌季)

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