映画『惡の華』の井口昇監督、「自分が映像化するしかない!」の決意【インタビュー(1)】
マグミクス / 2019年9月19日 11時56分
![映画『惡の華』の井口昇監督、「自分が映像化するしかない!」の決意【インタビュー(1)】](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_17172_0-small.jpg)
■原作者も望んだ、井口監督による実写化
「クソムシが」の名台詞で知られる、押見修造の人気コミック『惡の華』が実写映画化されました。実写版のメガホンをとったのは、世界的なヒット作となった『片腕マシンガール』(2007年)や、往年の特撮ヒーローを現代に甦らせた『電人ザボーガー』(2011年)など、観た人の心にグサリと刺さる名作&問題作を手掛けてきた井口昇監督です。
本作も上映時間127分のなかに、主人公たちの青春の痛みと輝きがぎっしりと詰まった内容となっています。企画から製作の決定まで、7~8年を要したという実写版ならではの苦労とこだわりを、井口監督に聞きました。
——デビュー作『クルシメさん』(1998年)から続く、“生きづらさ”という井口監督作品のテーマ性と、東映系で全国公開された『覚悟はいいいかそこの女子。』(2018年)などのメジャー系での最近の仕事ぶりが、今回の実写版『惡の華』としてうまく結実したように感じます。
井口 そう言ってもらえると、うれしいです。『片腕マシンガール』が当たったことで、スプラッター系、ホラー系の監督だと業界内ではずっと思われてきたんですが、実は青春映画が大好きなんです。もちろん、スプラッター系も好きなんですが、それこそ僕が思春期の頃は、ATG系の暗い青春映画やアメリカン・ニューシネマ系の主人公が最後に死んじゃうような青春ものをよく観ていたんです。
それに、僕が自主映画として撮った『クルシメさん』や『恋する幼虫』(2003年)は若者たちのサドマゾっぽい関係性を描いたものでした。映画ファンとしても、映画監督としても、学園青春ものであり、倒錯的な関係性もある今回の『惡の華』は、自分の原点に戻ることができた作品だなと思っているんです。
——原作を読んで、「これは自分が映像化するしかない!」と思ったそうですね。
井口 確か、3巻目が出た頃に読んだんです。登場する人物がすべて自分の体の中にスッと入っていくような感覚でした。直感的に「これは映像化したい!」と。それで知り合いの編集者に頼んで押見先生にお会いしたところ、押見先生は僕の『クルシメさん』がすごく好きだということで、『惡の華』の映画化を快諾していただいたんです。でも、そこからなかなか企画が動かず、一時期は諦めかけたこともありました。
■井口監督が譲れなかったこだわり
インタビューに応える、井口昇監督(マグミクス編集部撮影)
——原作者と監督が「相思相愛」なのに、映画化が進まなかったのはなぜでしょうか?
井口 『惡の華』を実写化するなら、押見先生の故郷であり、原作の舞台となった群馬県桐生市でロケできないとダメだと思ったんです。でも、地方ロケとなると、それなりの予算が必要で、企画が通りそうになっても予算が足りなかったりと、紆余曲折したんです。そんなとき、原作のファンというプロデューサーから「一緒にやりましょう」と声を掛けていただき、そこからようやく本格化した感じですね。
——企画が進まない間、井口監督はTVドラマ版と映画版の『覚悟はいいかそこの女子。』など、メジャー系の仕事をするように。
井口 『惡の華』を実写化する上で、とても役立ったと思います。「井口監督はキワモノばかり撮る監督」というイメージが強かったのが、「学園青春ものも撮れるんだ」と認識してもらえるようになったんじゃないかな。
——『覚悟はいいか』では、『惡の華』の主人公・春日を演じる伊藤健太郎との出会いもありました。
井口 そうなんです。春日役は誰がいいか、すごく悩みました。春日は繊細な文学少年ですが、暗いだけじゃダメ。無意識のうちに女子たちを振り回してしまう愛嬌が必要なんです。その点、『覚悟はいいか』に出ていた伊藤くんは、普段はすごく明るいのに、役の上ではイケてない文化系男子を演じられる演技力がある。彼なら春日役もできるなと思ったんです。
——そして物語の中心となる仲村さんには、平山夢明原作の『Diner ダイナー』(2019年)でもヒロインを演じた玉城ティナ。
井口 仲村さん役もかなり悩みました。玉城さんが候補に上がったとき、僕は「仲村さん役にしては美少女すぎないかな」と心配でした。でも、本人は原作ファンだと聞いたので、まずは一度会ってみようと。
会って話してみると、原作の他にもいろんな小説や漫画を読んでいるし、映画もいろいろと観ていることが分かり、知性と、物事についての洞察力の鋭さを感じました。また本人の佇まいが仲村さんっぽかったんです。彼女なりに仲村さんのことも、いろいろと分析していました。
それで、僕が考えている仲村さん像を玉城さんに押し付けるのではなく、ディスカッションしていく中で、玉城さんの体の芯から湧出てくるものをカメラで撮れば、きっと実写版『惡の華』の仲村さんになるに違いないと考えたんです。「私にはしゃべれない台詞はありません」と言ってくれたことも頼もしかったですね。
——売り出し中の若手女優ながら、原作を愛していることが伝わってきます。
井口 今回は「ウンチ特訓」をしました。玉城さんに「ウンチ」という言葉を何度も言ってもらったんです。仲村さんの幼さを醸し出すには、「ウンコ」ではなく「ウンチ」と言わなくちゃダメなんです。「チの部分をもっとシャープに!」と、ウンチ特訓のときは心を鬼にしたんです。特訓の成果は見事に出ていると思います。
●映画『惡の華』
原作/押見修造 監督/井口昇 脚本/岡田麿里
出演/伊藤健太郎、玉城ティナ、秋田汐梨 / 飯豊まりえ
配給/ファントム・フィルム PG12 2019年9月27日(金)より全国公開
(C)2019「惡の華」製作委員会
(長野辰次)
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