映画『惡の華』の井口昇監督が、一歩も譲らなかった「ブルマ合わせ」とは?
マグミクス / 2019年9月20日 17時40分
![映画『惡の華』の井口昇監督が、一歩も譲らなかった「ブルマ合わせ」とは?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_17212_0-small.jpg)
■「ブルマ」映像化のための時代考証??
思春期の少年少女のナイーブな心情を描いたマンガ『惡の華』が実写映画化され、2019年9月27日(金)より全国公開されます。原作者の押見修造氏もリスペクトする鬼才・井口昇監督に、ファンも納得のこだわりの数々を語ってもらいました。
* * *
——主人公である春日(伊藤健太郎)と仲村さん(玉城ティナ)に関わったばっかりに、キャラが大変貌する美少女・佐伯さんを見事に演じ切った新人・秋田汐梨さんも素晴らしいです。
井口 撮影時は15歳だったんです。15歳だと撮影は夜8時までしか参加できないので、撮影の都合でいえば年齢はもう少し上のほうがよかったんですが、オーディションで会った女の子たちの中では、秋田さんがずば抜けていました。秋田さんは清純そうな雰囲気なのに、ギャップのあるキャラを演じられるんです。彼女の芝居を観たら「この子しかいない!」とプロデューサー陣とも満場一致で決まったんです。
インタビューに応える、井口昇監督(マグミクス編集部撮影)
——美少女・佐伯さんの体操着が盗まれるところから、物語は動き出します。事件が起きる前、女子生徒たちがブルマ姿で運動しているシーンは、映画史に永久に残しておきたい名シーンですね。
井口 ありがとうございます。今回の『惡の華』は押見先生の原作に忠実に、脚本家・岡田麿里さんが書いてくれた台本にも忠実に撮っているんですが、あの体操のシーンだけは、女の子たちがハードル競技をするという設定を追加させてもらいました。カメラマンにも「ハードルを跳ぶ瞬間をこのアングルから撮って!」とわがままを通しました。ブルマのシーンには徹底して、こだわりました。この映画は、すべて“ブルマ合わせ”なんです。
——ブルマ合わせって……?
井口 ブルマって、2006年に廃止されているんです。なので『惡の華』の中学編は2006年以前という時代設定で、高校編に登場するスマホも今とは違う機種になっています。この映画はすべてブルマ合わせなんです(笑)。そのへんの時代考証はしっかりとやりました。
■魔が差す瞬間は誰にでもある。だからこそ描いた「衝撃シーン」
原作マンガでも読者に衝撃を与えた、「夏祭り」のシーン
——ブルマが映るシーンには、監督のこだわりが詰まっているのですね。
ブルマって、地域によって色が違うんです。ここでもカメラマンと意見がぶつかりました。僕からすれば、「ブルマは絶対に紺色」なんですが、カメラマンは「えっ、ブルマといえばエンジ色じゃないの?」と。他にも「うちはグリーンだった」「ブルーにストライプが入っていた」などいろんな意見が出て、喧々諤々(けんけんがくがく)でした。最終的には僕が「ブルマが紺色じゃないなら監督を降板する!」と主張を押し通しました(笑)。
——今回の実写版は、内容盛りだくさんな中学編で終わるのかなと思っていたら、きちんと高校編の最後まで描いてあって驚きました。
井口 高校編の終わりまできちんと描くというのは、今回の映画化で絶対ハズせない条件でした。中学時代にやらかしてしまったトラウマの物語のまま終わっちゃダメだと、僕は思っていました。トラウマを抱えた状態から、どうやって乗り越えていくかが『惡の華』のテーマなので、そこをどう描くかが今回の映画化の核になるという意識で臨んだんです。
——夏祭りの日、みんなが見ている前で仲村さんと春日が頭から灯油をかぶるシーンは、かなりの反響を呼びそうです。
井口 時事的なことからも、仲村さんと春日が死の崖っぷちに立つシーンは問題視されるかもしれません。でも思春期は、ほんのちょっとしたことで魔が差してしまう時期でもあると思うんです。本当に事件を起こしてしまうかどうかは別にして、魔が差してしまう瞬間は誰もが体験しがちなことじゃないでしょうか。
でも、それはやっぱりやってはけないこと。そこを飛び越えることで、大人に成長していくんだと思うんです。今回の『惡の華』は自分が若い頃ではなく、ある程度の年齢を重ねて大人になったことで撮れた映画だと思っています。
10代の頃の僕もそうでしたが、悩みを抱えている人は明るい映画には興味が持てないもの。明るいキラキラした映画には興味が持てない人たちに、『惡の華』を観てもらえるといいですね。
●井口昇(いぐち・のぼる)
1969年生まれ。東京都出身。自主映画『クルシメさん』(1998年)で監督デビュー。『恋する幼虫』(2003年)や「帰ってきた!刑事まつり」の一編『アトピー刑事』(2003年)など、“生きづらさ”をテーマにした作品で注目を集める。
主な監督作に『楳図かずお恐怖劇場 まだらの少女』(2005年)、『猫目小僧』(2005年)、『おいら女蛮』(2006年)、『片腕マシンガール』(2007年)、『ロボゲイシャ』(2009年)、『電人ザボーガー』(2011年)、『ヌイグルマーZ』(2014年)など。
諸星大二郎原作の『栞と紙魚子の怪奇事件簿』(日本テレビ系)、平本アキラ原作の『監獄学園』(毎日放送、TBS系)、椎名ナナ原作の『覚悟はいいかそこの女子』(毎日放送、TBS系)など漫画原作の実写ドラマも手掛けている。「大人計画」所属の役者として舞台や映画に出演することも少なくない。
(長野辰次)
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