映画『惡の華』の井口昇監督「もっとおかしな作品あっていい」…10代の読書体験語る【インタビュー(3)】
マグミクス / 2019年9月22日 15時10分
![映画『惡の華』の井口昇監督「もっとおかしな作品あっていい」…10代の読書体験語る【インタビュー(3)】](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_17235_0-small.jpg)
■団鬼六の官能小説を中学生で読破
実写版『惡の華』の公開を2019年9月27日(金)に控えた井口昇監督。“生きづらさ”をテーマに映画を撮り続けている井口監督は、『惡の華』の主人公である春日たちと同じ10代の頃はどのように過ごしていたのでしょうか。思春期の頃のユニークすぎる読書体験を語ってもらいました。
* * *
——井口監督自身の10代の頃についてお聞きしたいと思います。
井口 『惡の華』の春日くんほどではありませんが、中学生の頃は本が好きでよく読んでいました。ヘルマン・ヘッセの『車輪の下』とか、アルベール・カミュの『異邦人』とか、世界の名作文学をよく読んでいました。日本の作家だと安部公房、筒井康隆、星新一……。活字の世界に浸かっている間は、現実を忘れられる気がしたんです。
——団鬼六の小説も読むようになったそうですね。やはり中学生の頃ですか?
井口 中学生の頃です(笑)。自宅の近くに銭湯があって、よく映画のポスターが貼ってあったんです。『団鬼六 女教師の××』みたいなポスターを見て、僕はホラー映画だと思っていたんです。名前を見ただけで恐怖を感じていました。
中学生になって近くの本屋で、団鬼六の「花と蛇」シリーズ(団鬼六の代表作とされる官能小説:編集部注)が並んでいるのに気づいて、楳図かずおさんや古賀新一さんのホラー漫画につい手を伸ばしたくなる感覚で立ち読みを始めたところ、全身に電流が流れるような衝撃を感じてしまって。その日以来、「花と蛇」シリーズ全6巻をその本屋で立ち読みして読破しました。
——中学生で「花と蛇」シリーズを読破とは、早熟ですね。
井口 それこそ、春日みたいに「中学生で団鬼六の小説を読むなんて、僕はなんて変態なんだろう」と悩んでました(笑)。映画監督になった今でも、「花と蛇」は忘れられないシリーズです。「花と蛇」は何度も映画化されていますが、映画化される度に、「違う! これは僕が見たい『花と蛇』じゃない」と憤慨しているんです。
なので、今回の『惡の華』も、怒る原作ファンがいないか心配です。ファンは自分だけの完成された世界を持っていますから。『花と蛇』はいつかチャンスがあれば、僕も映画化してみたいですね。
——井口監督は永井豪原作のマンガ『おいら女蛮』を実写映画化(2006年)しています。永井豪作品もお好きなんですね。
井口 永井豪作品は、僕の中ではエロスの原点になっています。僕は『イヤハヤ南友』が永井豪作品の中ではいちばん好き。『南友』もいつか映画化したいですね。
■映画館に行けば、外界から隔離される
インタビューに応える、井口昇監督(マグミクス編集部撮影)
——『南友』『デビルマン』『ハレンチ学園』など、当時の永井豪作品はクライマックスで最終戦争(ハルマゲドン)が勃発し、驚愕のラストを迎えるのが定番でした。
井口 子どもの頃に永井豪作品を読んで、感性がぶっ壊された部分があると思います。映画を撮るようになってからの僕にも影響を与え続けているんじゃないかな。それと子どもの頃の読書体験で忘れられないのが、僕が風邪で寝込んでいるときに僕が退屈しないようにと、よく母がマンガを買ってくれたことです。
母のセレクトが独特すぎて、楳図かずお、古賀新一、つのだじろうといったホラー漫画家のコミックを買ってくるんです。日野日出志の『胎児異変 わたしの赤ちゃん』とか、いまだに鮮明に脳裏に焼き付いています(笑)。
——高校に進む頃には映画館に通うようになり、ご自身も映画づくりを目指すようになります。
井口 映画館の暗闇なかにいると、外界から隔離されているような気分になれるんです。大林宣彦監督がデビューして間もない頃で、『HOUSE ハウス』(1977年)や『金田一耕助の冒険』(1979年)にハマりました。『ねらわれた学園』(1981年)もそうですけど、大林監督の映画はどれも狂っているんです(笑)。
当時は他にも岡本喜八監督の『ブルークリスマス』(1978年)や橋本忍監督の『幻の湖』(1982年)など、のちに「カルト映画」と呼ばれる作品が普通に劇場公開されていて、僕はそんな映画を王道映画として楽しんでいたんです。谷崎潤一郎の小説を映画化した『瘋癲老人日記』(1962年)で山村聡が若尾文子の唾を呑むシーンには、びっくりしました。映画の中で覚えている場面って、やっぱりフェチシーンなんですよね(笑)。
——思春期の頃のいろんな読書体験や映画鑑賞が、その後の人生も支えることになるんですね。
井口 あの頃に比べると、今は明るい健全な映画が多くなりましたよね。でも、チケットを購入して劇場で楽しむ映画って、もっとおかしな映画がいろいろあっていいと思うんです。僕みたいに映画に救われる人もいるんじゃないかな。今回の『惡の華』も、そんな映画になれたらいいなぁと思いますね。
●映画『惡の華』
原作/押見修造 監督/井口昇 脚本/岡田麿里
出演/伊藤健太郎、玉城ティナ、秋田汐梨 / 飯豊まりえ
配給/ファントム・フィルム PG12 2019年9月27日(金)より全国公開
(C)2019「惡の華」製作委員会
(長野辰次)
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