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「クラス中が悲鳴」「絶対トラウマ」…アニメ『はだしのゲン』が描いた原爆の凄惨さ

マグミクス / 2023年8月8日 18時10分

「クラス中が悲鳴」「絶対トラウマ」…アニメ『はだしのゲン』が描いた原爆の凄惨さ

■洗練された絵柄と強烈な被爆描写

 軍国主義の狂気と原爆の悲惨さを克明に描いた中沢啓治先生のマンガ『はだしのゲン』は、いまなお世界中で読み継がれているベストセラーです。一方で、2023年春に広島市の市立小中高向けの平和教材から『はだしのゲン』が削除されるなど、「今の時代と合っていない」という声も聞こえてきます。「絵柄が苦手で読んでいない」という人もいるようです。

 マンガ『はだしのゲン』は、とてつもない名作だと断言できます。リアルで、恐ろしくて、それでいて活力に満ちていて、はちゃめちゃに面白い。それでも「苦手」だという人に、ぜひ観てもらいたいのが、1983年に公開されたアニメ映画『はだしのゲン』です。

 アニメ映画『はだしのゲン』はマンガに比べると、かなり洗練された絵柄になっています。原作のギラついていたゲンはすっきりした顔立ちになり、ゲンの姉・英子は美少女として描かれていました。

 また、登場人物の数が整理され、軍国主義に狂奔する市民の姿や非国民として中沢家が窮地に立たされる場面がカットされるなど、ストーリーもシンプルになっています。ある意味、非常に観やすくなっていると言えるでしょう。

●原爆投下と被爆描写のインパクト

 物語は戦時下ながら、穏やかな日常から始まります。アメリカ軍による空襲は日本全土にわたって行われていましたが、広島は被害をまぬがれていたのです。しかし、運命の日はやってきます。1945年8月6日午前8時15分、B-29から落とされた1発の原子爆弾が、広島の街と人びとを破壊し尽くしたのです。

 閃光が走り、爆発が広がると、風船を持った幼女は一瞬で服と全身の毛が焼き尽くされ、両方の目玉が落ちて丸焦げになってしまいます。軍服を着た男性は叫びながら全身が焼かれ、老人は目玉だけでなく首まで吹き飛んでいました。若い母親が黒焦げになりながらも、地面に落ちた黒焦げの赤子を守ろうとしているのは、母親としての本能でしょうか。

 広島城は倒壊し、市電もなぎ倒され、広島の街に巨大なきのこ雲が立ち上ります。学校でゲンと一緒にいた少女は、顔の半分がただれて死亡。その後もゲンは、体中にガラスが刺さったままの皮膚が焼けただれた人びとが歩く姿を目の当たりにします。ゲンの家も崩れて家族は下敷きになり、父と姉と弟は無惨に焼け死んでしまいました。

 さらに、防火水槽のなかで折り重なるように死んでいる人びと、川でひとりずつ溺れ死んでいく親子、赤子に乳をあげたまま焼け死んでいる母親など、この先も地獄絵図としか言いようのない凄惨な描写が続きます。その上、うめきながらさまよい歩く人びとの頭上に、放射能を含んだ「黒い雨」が降り注ぎました。

 どの描写からも、原爆の恐ろしさを子供たちに克明に伝えたいというスタッフの気合いが伝わってきます。原作マンガ、あるいは中沢啓治先生の自伝などに登場する描写を読むと、どれもけっして誇張した表現ではなく、むしろ忠実に描写しようとしていることがよく分かります。

■原作者の思い「泣き叫んでくれてありがとう!」

●作画アニメとしての『はだしのゲン』

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 アニメ映画『はだしのゲン』を手がけたのはアニメ制作会社のマッドハウスです。マッドハウスが『幻魔大戦』(83年)と『カムイの剣』(85年)の間に手がけた作品だと考えれば、アニメ『はだしのゲン』の作品としての充実度が分かるでしょう。

 監督は『夏への扉』(81年)、『時空の旅人』(86年)などの真崎守監督、作画監督とキャラクター設定を『無敵鋼人ダイターン3』(78年)などの富澤和雄さん、美術監督をスタジオジブリの諸作品で知られる男鹿和雄さん、音楽を『超時空要塞マクロス』(82年)などの羽田健太郎さん、設定をマッドハウス創設者の丸山正雄さんが務めています。丸山さんは後に、同じく原爆を題材にした『この世界の片隅に』(16年)も企画しました。

 日本を代表する優れたアニメーターが多数参加しているのも、特筆すべきポイントです。川尻善昭さん、新川信正さん、梅津泰臣さん、野田卓雄さん、丹内司さん、大橋学さんらが原画を担当し、それまで映像作品で真正面から描かれることのなかった被爆の恐ろしい様子をまざまざと描き出しています。

 また、ゲンと弟の進次が芋をめぐって追いかけっこするカットや、幼女がアメリカ軍の戦闘機に機銃掃射されるカットなどは、非常に流麗な動きのアニメーションで描かれていました。日本のトップクリエイターが結集して制作された本作は、アニメ好きとしても見逃せない作品なのです。

●中沢啓治先生の思い

 アニメ『はだしのゲン』には、原作者・中沢啓治先生の強い思いが込められています。1976年に実写映画化された『はだしのゲン』は海外で高い評価を得ましたが、当時の日本映画では大規模な被爆シーンを描くことができませんでした。中沢先生は当時のことを次のように回想しています。

「劇映画『はだしのゲン』は三部作まで製作されたが、大事な被爆シーンはとても劇映画では表現出来ず、不満を抱きつつ、つづけていたが、アニメーションの世界なら被爆のシーンは表現できると思い、アニメ化したくて毎日思いつめた。そして『もう一度、原爆で素っ裸にされ、原子野の焼け跡に戻ってしまったと思えばなにも怖いものがあるかっ!』と決心して、自分の貯金を引き出し、半分借金して、巨額な金を要する危険な賭けの『はだしのゲン』長編アニメ化に挑戦した」(『「ヒロシマ」の空白 中沢家始末記』日本図書センター)

 完成したアニメ映画『はだしのゲン』は、軍国主義の愚かさや天皇の戦争責任を追及した原作マンガとは異なり、悪人がまったく出てこないかわりに原爆の悲惨さを描き出すことに全振りした作品だったと言えるでしょう。中沢先生も満足のいく出来栄えで、興行的にも大ヒットを記録します。その後、86年にはほとんどオリジナルストーリーの『はだしのゲン2』が制作されました。

 アニメ『はだしのゲン』は、小学校などで観たことのある人も多いようで、SNSでは「クラスの全員が悲鳴を上げた」「怖くて泣いた」「確実にトラウマになるだろ」などの声も上がっています。実はこれこそ、中沢先生が心から望んでいたリアクションでした。中沢先生は著書にこう記しています。

「『ゲン』のアニメを観て、怖い! と泣き叫んでくれた大勢の女の子、ありがとう!君らは本当に素直に戦争と原爆の怖さが判ってくれたのだ!」(同上)

 2023年8月5日深夜、広島の放送局RCCテレビではアニメ『はだしのゲン』が放送されましたが、来年からは全国で、いや、世界中で放送されてもいいのではないでしょうか。アメリカのカレッジで本作を上映し続けてきた教授は、生徒たちが衝撃を受け、それまでは単なる言葉でしかなかった「ヒロシマ」と「原爆」を悲しみとともに深く受け止めるようになったと語っています(「はだしのゲンをひろめる会」サイトより)。

 アニメを観てからマンガに進んでもいいでしょう。数年前に『はだしのゲン』の排斥運動が一部で起こりましたが、とんでもないことです。『はだしのゲン』を通じて、悲惨な戦争を繰り返してはならない、核兵器は世界にあってはならないと思う人がひとりでも増えてほしいと思います。

(大山くまお)

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