『聖戦士ダンバイン』のビルバイン登場から40年 最強ゆえに歩んだ苦難の道とは?
マグミクス / 2023年8月27日 7時10分
![『聖戦士ダンバイン』のビルバイン登場から40年 最強ゆえに歩んだ苦難の道とは?](https://media.image.infoseek.co.jp/isnews/photos/magmix/magmix_179547_0-small.jpg)
■「世界観を壊すデザイン」だった理由とは?
本日2023年8月27日で、1983年に『聖戦士ダンバイン』第29話「ビルバイン出現」が放送されてから、ちょうど40周年となります。その初登場シーンは、今でも話題になるほどインパクトのあるものでした。現在でも知名度の高いビルバインについて、誕生から今日までの軌跡を振り返りましょう。
ビルバインはスポンサーであった玩具会社「クローバー」の主導のもと、デザインが考案されました。あくまでもオモチャとしてのデザインを意識したため、本来ならば昆虫や生物感を意識したオーラバトラーのコンセプトとは違い、子供の目線からカッコいいとされる鳥と機械的なイメージが前面に出ています。
そのため、当時の『ダンバイン』ファンからの評判はあまりよくありませんでした。筆者も最初にデザインを見た時、唖然としたことをおぼえています。作品の世界観にそぐわない2号ロボのデザインに、アニメファンと呼ばれる層の人からは否定的な意見が多くありました。
もちろん、アニメスタッフもこのことには当然気付いていたようです。当時、オーラバトラーのデザインを担当していた出渕裕さんは、メーカー側のオモチャデザインをリライトしたものを富野由悠季監督に提出していました。しかし、結果的に使われなかったそうです。
そういった経緯が関係するかは不明ですが、アニメ用のビルバインのクリンナップは『聖戦士ダンバイン』のキャラクターデザインである湖川友謙さんが担当しました。湖川さんは他のオーラバトラーのデザインでも出渕さんとやり取りをしていたので、本作の世界観に添った総合的デザインをコーディネイトしていたのでしょう。
そして第29話で「ビルバイン出現」が放送されます。そして、この放送でビルバインの評価は真逆なものとなりました。それは実際に映像で動いたビルバインが、想像以上にカッコよかったからです。
この29話の作画監督は坂本英明さんと大森英敏さん、さらに作画監修で湖川さんという鉄壁の布陣でした。その作画レベルは、本作のなかでも上位に位置します。新たな主人公機ビルバインのデビューにふさわしい、密度の濃い映像でした。
さらに演出も素晴らしく、個人的には新旧主役機交代のベストアンサーとも言うべき、息をもつかせぬ展開だったと思います。それまでの主役機ダンバインの撃破から新メカのビルバインの登場、乗り込んだショウ・ザマがビルバインで戦線復帰、ウイングキャリバー状態からオーラバトラーに変形して一刀両断で敵を真っぷたつにする流れは何度見ても飽きることはありません。
こうして鮮やかなデビューを果たしたビルバインでしたが、思わぬ悲劇がやって来ます。それはメインスポンサーである株式会社クローバーの倒産でした。あれほどオモチャとしてのデザインを優先したビルバインにとっては、皮肉な出来事です。
メインスポンサーはプラモデル販売を担当していたバンダイが引き継ぎ、オモチャもトミー(現在のタカラトミー)が販売することになりました。その結果、『聖戦士ダンバイン』は全49話で約1年間の放送を無事に成し遂げます。
余談ですが、終盤でビルバインは夜間迷彩色に塗装されていました。ヒーロー然とした赤と白から、地味な青系統のリアルさを優先したカラーリングです。この異例のカラーリング変更も、玩具会社主導ならばできなかったことかもしれません。
■エースの乗る最強機体ゆえの悲劇
「バンダイ(BANDAI) ROBOT魂 〈SIDE AB〉 ヴェルビン 『聖戦士ダンバイン」(BANDAI SPIRITS)
放送終了後も、ビルバインにはいくつかの特筆するドラマがありました。
たとえば出渕さんは模型雑誌「B-CLUB」で連載していた『AURA FHANTASM』という企画にて、「ヴェルビン」というビルバインをリファインしたオーラバトラーを発表しています。より生物感あふれるデザインにリファインされたヴェルビンは、ビルバインの迷彩色に似た塗装でした。しかし、後に「ナの国近衛騎士団長仕様機」という、初期ビルバインと同じ赤白で塗装されたものも発表されています。
そして、ビルバインがふたたび大きく脚光を浴びたのは、やはりゲーム「スーパーロボット大戦」シリーズ、通称『スパロボ』への参戦でしょうか。作品としても注目を集め、当時観ていなかった層にも大きくアピールすることになりました。
この『スパロボ』では、ビルバインは回避率が高くて敵の攻撃が当たりづらいうえに、一定の威力のビーム攻撃を無効化する「オーラバリア」、さらに気力があがると「分身」で敵の攻撃を完全にかわす、破格の回避能力を備えています。
さらに射程1と短いものの、剣による攻撃が強力で、最大の攻撃技である「ハイパーオーラ斬り」はエネルギー消費が低いことから連発が可能でした。前述の防御面と合わせて隙がなく、ゲームでは切込み役として多くのプレイヤーが使用しています。
この『スパロボ』での活躍で一躍注目されたビルバインでしたが、シリーズによって少し評価が分かれました。それは、ゲームによってはさらなる「上位機種」が登場するからです。そのひとつがOVA『New Story of Aura Battler DUNBINE』の主役機である、「サーバイン」でした。
サーバインは本来、『聖戦士ダンバイン』の作品タイトルとその主役機に予定されていた名前で、『AURA FHANTASM』が初出となるオーラバトラーです。その経緯から幻の主役機とされ、『スパロボ』では隠し機体として登場することが多くありました。それゆえに、ビルバインの上位互換となることもあります。
また近年ですと、前述のヴェルビンも『スパロボ』に参戦することもあり、ビルバインはショウの乗る機体の「中継ぎ役」というイメージが強くなりました。これもショウというエースパイロットに、より良い機体を……という意図があるからでしょう。アムロ・レイの最強機体が最後に乗った「νガンダム」でなく、幻の機体「Hi-νガンダム」と言われることが多くなったことと同じ現象です。
この他にも、ゲーム『聖戦士ダンバイン 聖戦士伝説』で、量産型にあたる「ゼルバイン」というオーラバトラーも登場していました。このように、ビルバインには誕生、その後に至るまでさまざまなドラマがありましたが、TVアニメ『聖戦士ダンバイン』という作品を代表する、人気のオーラバトラーと言えるかもしれません。
(加々美利治)
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